表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やがて霧に還る  作者: いづくにか
セラフィナ編
PR
93/180

第91話 試される形

 通りはいつも通りだった。


 人の声。


 足音。


 生活の音。


 それが、少しだけ不自然に重なる。




 イレーネは歩いていた。


 変わらない。


 何も変わらない。


 ただ、少しだけ足を止めた。


 理由はない。


 でも、止まる。




 前方には一人の男が立っていた。


 見たことはない。


 でも、分かる。


 “同じ側”。


 吸血鬼。



 その男は、イレーネを見た。


 表情はない。


 敵意もない。


「確認」


 小さく言う。


「対象、イレーネ」


 声は平坦だった。


「……そうだよ」


 イレーネが答える。


 否定する理由もなかった。


 男は頷く。


「行動観測済。判断未確定」


 淡々と続ける。


「……なにそれ」


 イレーネが聞く。


「試験を開始する」




 その瞬間、横の建物の陰から、一人の人間が引きずり出された。


 若い女だ。


 口を押さえられ声が出せない。


 目だけが必死に動いている。


 助けを求める目でイレーネを見ている。


 


 男はそれを無視する。


「条件提示」


 静かに言う。


「対象の生存、対象の排除」


 一拍。


「いずれかを選択」


 提示されたのは、その二択だった。



 イレーネは女を見た。


 次に、男を見る。


 そして、少しだけ考える。


 でも、すぐにやめた。


「……どっちでもいいかな」


 いつも通り。



 男はわずかに首を傾けた。


「再提示。未選択は条件不履行とみなす」


 淡々と言う。


「……じゃあ、それでいいよ」


 イレーネは言う。


「未選択で」



 一瞬の沈黙の後。


 女の身体が揺れた。


 男が、何かをした。


 見えない。


 でも、確実に女の様子が変わった。


 呼吸が乱れる。


 目が揺れる。


 “壊れ始める”。



 イレーネはそれをただ、見ていた。


 止めない。


 選ばない。



 そのとき。



「やめろ!」


 声がした。


 レオンが駆け込んでくる。


 状況を見て、一瞬で理解する。


「……お前」


 男を見るが、その視線に男は反応しない。


「第三者の介入を確認」


 ただそれだけを言う。


「条件を更新、対象二名。選択を再要求」



 空気が変わった。


 レオンの表情が歪む。


「……ふざけんな」


 低く言う。


「これは“試験”である」


 男は言う。



「知らねえよ」


 レオンが一歩前に出た。


 イレーネはその横にいる。


 動かない。


 ただ見ていた。


 そのまま、何も選ばずに。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ