表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やがて霧に還る  作者: いづくにか
セラフィナ編
PR
90/180

第88話 階層の上から

 空気が、静まる。


 音が、消える。


 霧も、動かない。



 ルキウスが、わずかに目を細めた。


 楽しそうだった表情が、ほんの少しだけ変わる。


 “見る側”から、“見られる側”へ。



「早いね」


 軽く言うが、返事はない。



 ただ、そこにいる。


 気配は薄い。


 でも、消えない。


 揺れない。


 それだけで、分かる。


 格が違う。



 

 ゆっくりと、一人の男が姿を現した。


 整っている。


 何も乱れていない。


 感情も、温度も、余分なものがない。


 ヴァルドリック。



 視線が、場を一周する。


 壊れかけの人間。


 レオン。


 イレーネ。


 最後に、ルキウス。



「……遊びすぎだ」


 静かに言った。


 責めるでもない。


 怒るでもない。


 ただ、事実を述べる。



 ルキウスが笑う。


「いいじゃないか、ちゃんと綺麗だよ?」


 軽い調子だ。


 でも、視線は逸らさない。



 ヴァルドリックは答えない。


 興味がない。


 そのまま、視線をイレーネに向ける。


 評価するように。


「……不完全だな」


 淡々と言う。



 イレーネは、そのまま立っていた。


「……そう?」


 静かに返す。


 否定しない。


 肯定もしない。



 ヴァルドリックは、少しだけ目を細めた。


「……自覚がないか」


 それだけを言う。


 そして、壊れかけの人間を見て一歩、近づく。



 レオンが反応した。


「待て」


 低く言う。


 声は震えていない。


 でも、身体は動かない。


 理由は分からない。


 でも、進めない。



 ヴァルドリックは、視線を向けることさえしなかった。


 そのまま、人間の前に立つ。



 一瞬だけ、観察するように。


 そして、指先で触れる。



 次の瞬間。


 静かに止まった。


 揺れていたものが、すべて。


 呼吸も、反応も、歪みも、終わる。



 ルキウスがわずかに眉を上げ、小さく笑う。


「そういうやり方か」



 ヴァルドリックは、何も言わない。


 ただ、処理した。



「もったいないな」


 ルキウスが言う。


「もう少しで面白くなったのに」


「……不要だ」


 短く返す。


 それで終わり。



 そして、再びイレーネを見た。


「……お前は」


 一拍。


「どちらにも属さない」


 静かな断定。


「……だから?」


 イレーネが言う。


「……存在理由を示せ」


 淡々と続ける。


「……示せないなら」


 一瞬の間。


「……いずれ消える」


 脅しじゃない。


 ただの結論としての言葉。



 イレーネは、少しだけ考えた。


 でも、すぐにやめる。


「……別に、いいけど」


 静かにそう言った。



 ヴァルドリックは、それを見ていた。


 否定もしない。


 肯定もしない。


 ただ、記録するように観ていた。


 そして、踵を返す。


 それで終わり。



 来たときと同じように、ただ静かに去っていく。




 残るのは、沈黙。



 ルキウスが、ゆっくり息を吐いた。


「ああ、やっぱり嫌いだな」


 小さく笑う。


「つまらない」


 でも、どこか楽しそうに言った。



 イレーネはただ立っていた。

 

 ただ、見ていた。


 何も変わらない。

 

 でも、イレーネの意思とは関係なく、何かが決まった。



 レオンだけが、動けずにいた。


 今、何が起きたのか、理解できないまま。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ