第83話 選ばされる側
夜は、まだ終わっていなかった。
教会の医療室。
被害者は、ベッドの上にいた。
呼吸はある。
でも、安定していない。
身体が、時折びくりと跳ねる。
内側で、何かが進んでいた。
「間に合うか?」
レオンが聞く。
医療担当が首を振った。
「……わかりません。最悪の場合」
続ける。
「……変質する可能性があります」
言葉を濁す。
でも、全員分かっている。
「吸血鬼化か」
マルタが言う。
「可能性はあります」
空気が重くなる。
「……どのくらいだ」
「……不明です」
マルタが息を吐いた。
「じゃあ決めるしかねえな」
その一言で、空気が変わる。
「……待ってください」
エリアスが言う。
「まだ判断は——」
「甘えんな」
マルタが遮る。
「“まだ”で止めた結果がこれだ」
一拍置く。
「街を守るなら」
続ける。
「……最悪を選べ」
沈黙。
正しい。
でも、重い。
エリアスは、目を閉じた。
「……苦しみから解放するという意味でも」
静かに言った。
「選択は一つです」
結論が、重なる。
そのとき。
「……やめろ」
ユリウスの声。
全員が見る。
「なんでだ」
マルタが言った。
今度はさっきより強く。
ユリウスは、少しだけ間を置く。
それでも、答えは出ない。
「……まだ」
それだけだった。
「まだ、か」
マルタが呟く。
「お前、それで何回やるつもりだ」
静かな圧。
「今回は街がかかってる。それでもか」
ユリウスは、答えない。
答えられない。
その沈黙が、答えだった。
マルタが、一歩前に出る。
「……どけ」
その声に、迷いはない。
ユリウスは、動かなかった。
空気が張りつめる。
“選ばされる”瞬間だった。




