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やがて霧に還る  作者: いづくにか
セラフィナ編
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第67話 まだ定義されないもの

 教会の一室。


 窓は閉じられており、外の霧は見えない。



 机を囲むように、四人がいた。


 マルタ。


 レオン。


 ユリウス。


 エリアス。



「……で」


 マルタが口を開く。


「結局、なんなんだあれ」


 率直すぎる問い。



 エリアスはすぐには答えない。


 視線を落とし、思考を整理する。


「現時点では、定義できません」


 やがて言う。


「……は?」


 マルタが眉を寄せる。


「なんだそれ」


「分類不可能な異常体、というのが最も近い表現です」


「近いじゃねえだろ、それ」


「完全な一致ではありません」


 マルタが舌打ちする。


「めんどくせえな」


「同意します」


「だから肯定すんな」


「事実なので」


 レオンが小さく笑う。


「いつも通りすぎて逆に安心するな」


「不本意です」


「だろうな」


 軽い空気。


 でも、内容は軽くない。



 レオンが続ける。


「殴れそうではあったんだよな」


「……ああ」


 マルタが頷く。


「普通に当たる感じはあったな」


「でも」


 レオンが言葉を切る。


「なんか違った」


 その言葉に、エリアスが視線を上げた。


「“対象として確定できない”感覚でしょうか」


「それそれ」


 レオンが指を鳴らす。


「敵って感じがしねえ」



 マルタは腕を組む。


「でも、放っといていいもんでもねえだろ」


「同意します」


「……」


 またそれか、という顔。



 少しの沈黙。


 エリアスの視線が、ゆっくりとユリウスへ動いた。


「……あなたは」


 静かに言う。


「明確に反応されていましたね」



 一瞬の間。



 ユリウスは少しだけ目を細める。


「……そうかもな」


 曖昧に答える。



 エリアスはその反応を見ていた。


 逃げていない。


 でも、説明もしていない。



「何か、心当たりは」


「ない」


 即答。


 でも、ほんのわずかに、言葉が軽い。


 エリアスはそれを拾うが、表には出さない。


「仮説として」


 続ける。


「外部から侵入したものではなく、内部から発生した可能性があります」


「内部?」


 レオンが聞き返す。


「はい」


 短く頷く。


「誰か、あるいは何かに紐づいている」


 マルタが目を細める。


「つまり」


「原因が“どこかにある”」


 そう言い切った。



 空気が少しだけ変わった。


 レオンが無意識に視線をずらした。



 ユリウスは動かない。


 ただ、聞いていた。



「対応方針は変わりません」


 エリアスが言う。


「封鎖維持、接触禁止、観測優先」


 簡潔に。


「……気持ち悪いな」


 マルタが呟く。


「戦えねえってのが一番嫌だ」


「同意します」


「だからそれやめろ」


 レオンが息を吐いた。


「まあ、でも今はそれしかねえな」


 誰も否定しない。



 短い沈黙。


 それで、一旦の結論になる。



「……以上です」


 エリアスが言う。


「各自、通常業務に戻ってください」



 椅子が引かれる音。


 立ち上がる気配。


 空気が、少しだけ緩む。



 マルタが先に出ていく。


 レオンもそれに続く。



 扉が閉まった。



 部屋に残るのは、二人。


 ユリウスと、エリアス。



 エリアスは何も言わない。


 ただ、一度だけユリウスを見た。


 その視線は、問いではない。


 確認でもない。


 ただ、“覚えている”というだけ。


 やがて、エリアスも静かに部屋を出る。



 ユリウスは、一人残った。


 窓を見ても、霧は見えない。


 でも、確かにある。


 あの路地。


 あの感覚。


 完全には、終わっていない。



 ゆっくりと息を吐いた。


「……消える気、するんだけどな」


 小さく、誰にも聞こえない声で呟いた。




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