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やがて霧に還る  作者: いづくにか
セラフィナ編
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第63話 いつもの延長

 朝は変わらなかった。


 霧の街レブラート。


 薄くかかった白が、ゆっくりと晴れていく。


 見慣れた景色。


 見慣れた光。



 中庭の石畳に、足音が響く。


「お、いた」


 軽い声。


 レオンが片手を上げる。



 ユリウスが顔を上げた。


 特に驚きもなく。


「なんだよ」


「なんだよじゃねえよ」


 レオンが笑う。


「朝からぼーっとしてんな」


「いつもだろ」


「まあな」


 あっさり認める。



 短いやりとり。


 いつも通り。


「……で」


 レオンが続ける。


「昨日どこ行ってた」



 一瞬だけ、間が空いた。


 ほんのわずかに。


「適当」


 曖昧に答える。


「適当ってなんだよ」


「適当は適当だろ」



 レオンは少しだけ目を細める。


 違和感。


 でも、追及はしない。


「……まあいいけど」


 軽く流す。


「死んでねえならいい」


「失礼だな」


「事実だろ」


 肩をすくめる。



 そのとき、別の足音。


 規則正しい。


 いつも通りの姿でエリアスが現れる。


「おはようございます」


 穏やかな声。


「おはよ」


 レオンが軽く返す。



 ユリウスは軽く手を上げるだけ。


 エリアスの視線が、一瞬だけユリウスに向く。


 わずかに。


 ほんのわずかに。



 何も言わない。


 でも、見ている。



 そのまま、視線が外れる。


「……本題に入ります」


 淡々と言った。


「最近、街で未分類の報告が増えています」


「未分類ねえ」


 レオンが呟く。


「またそれか」


「説明不能な違和感、といったところです」


「一番めんどくせえやつじゃねえか」


 少し前と同じ会話。


「同意します」


 エリアスは頷く。



 その横で、足音が強く響く。


「――で?」


 マルタ。


 包帯のまま、立っている。


「いつ出る」


「出ません」


 即答。



 数秒、沈黙。


「……は?」


 マルタが眉を寄せる。


「いや、出るだろ普通」


「あなたは出ません」


「私は出る」


「あなたは出ません」


「……」


 完全に平行線。


 レオンが小さく笑った。


「朝から元気だな」


「黙ってろ」


 マルタが睨む。



 エリアスは少しだけ言葉を選ぶ。


「……制限付きであれば」


 ぽつりと言う。


「外部確認は許可します」


「……は?」


 マルタが顔を上げる。


「ただし」


 続ける。


「単独行動は禁止」


「当然だな」


 レオンが口を挟む。


「お前一人だと勝手に突っ込むだろ」


「突っ込まねえよ」


「嘘つけ」


「……」


 軽く睨み合い。



 エリアスは無視して続ける。


「最小人数での確認行動とします」


「最小って何人だよ」


「あなたを数えずに三名」


 即答。



 マルタが考える。


 一瞬。


「……じゃあ」


 レオンを見る。


「お前来い」


「なんでだよ」


「近いから」


「理由雑すぎだろ」


「いいだろ別に」


 レオンは少しだけ考える。


 ため息。


「……まあいいけど」


 結局受ける。



 その流れの中で、エリアスの視線がもう一度だけ動いた。


 ユリウスへ。


「……同行しますか」


 静かに聞いた。



 一瞬の間。


 ユリウスは少しだけ考える。


 理由はない。


 でも、拒む理由もない。


「……いいよ」


 短く答える。


 レオンがちらっと見る。


「お前も来んのか」


「暇だし」


「理由それかよ」


「それ以外あるか」



 あきれたように少しだけ笑った。


「……まあいい」


 それ以上は言わない。



 マルタは特に気にしていない。


 人数が揃えばそれでいい。


「……では」


 エリアスがまとめる。


「軽度の外部確認を行います」


「軽度ねえ」


 レオンが呟く。


「だいたいそういうの軽くねえんだよな」


「その可能性は否定できません」


「否定しろよ」


「事実なので」



 軽いやりとり。


 いつも通り。




 そのまま、四人は動き出した。


 教会の外へ。


 霧の残る街へ。


 ユリウスも、その中にいる。


 特別でもなく、外でもなく、ただ一人のメンバーとして。



 理由のない違和感はまだ残っている。


 胸の奥に、小さく。


 でも、それを言葉にする必要はない。


 今はまだ。


 いつもの延長で、少しだけ違う場所へ向かうだけだから。








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