番外編 なんでもない昼
昼の光はやわらかかった。
教会の中庭。
人の出入りはあるが、どこか落ち着いている。
ベンチに座っている影が一つ。
アデルだった。
何をするでもなく、ただ座っている。
視線は前。
でも、特に何かを見ているわけでもない。
手元には紙袋。
中身はパン。
食べかけのトマトのサンドイッチ。
一口、ゆっくりと噛む。
軽い足音が近づいた。
「……何してんの」
レオン。
いつもの調子。
「見てわかるでしょ」
アデルは視線を動かさない。
「座ってる」
「いやそれは分かるけどさ」
レオンが横に立ち、ベンチの背に腕を乗せた。
「なんでここ」
「なんとなく」
レオンが少しだけ顔をしかめた。
「お前、そればっかだな」
「そう?」
「そうだよ」
ため息。
「もうちょい理由とかないのかよ」
「ないね」
レオンはしばらく黙っていた。
それから、ふと、アデルの手元を見る。
「それ、昼飯?」
「うん」
「それだけ?」
「うん」
「……少な」
「別にお腹空いてないし」
興味なさそうに言う。
レオンは何か言いかけてやめた。
「……まあいいけど」
完全には納得していない。
でも、それ以上は突っ込まない。
少しの沈黙。
風が吹き、紙袋がわずかに揺れた。
アデルは変わらないペースで、もう一口食べた。
「……最近さ」
レオンがぽつりと言う。
「なんか変じゃねえ?」
「何が」
「街」
アデルは少しだけ考える。
ほんの一瞬だけ。
「別に」
レオンが眉をひそめる。
「いや、なんかあるだろ」
「ないと思うけど」
興味なさそうに返す。
レオンは視線を逸らし、少しだけ外を見た。
「……ユリウスもさ」
ぼそっと呟いた。
「ちょっと変だし」
「そうなんだ」
特に驚きもない。
「……お前さ」
レオンが振り返る。
「ほんとに興味ねえな」
「ないね」
即答。
少しだけ間。
「……いや、あるかも」
ぽつりと、珍しく、続けた。
「お?」
レオンが少しだけ身を乗り出す。
「何」
「別に」
アデルはパンを見ながら言う。
「死なないといいなってくらい」
「……それ興味あるって言うか?」
「あるでしょ」
「……」
レオンはしばらく黙っていた。
それから、小さく笑った。
「……まあ、お前らしいか」
「そう?」
「そう」
軽く頷く。
沈黙が戻る。
けれど、さっきよりも、少しだけ柔らかい。
アデルは最後の一口を食べた。
紙袋を畳み、立ち上がる。
「どっか行くの」
「うん」
「どこ」
「適当」
それだけ言って、歩き出した。
レオンはそれを見送る。
止めない。
その背中は、軽い。
何も背負っていないみたいに。
レオンは小さく息を吐いた。
「……ほんと、なんなんだあいつ」
でも、少しだけ、安心したような顔をしていた。




