第111話 指示
呼び出しは、すぐに来た。
レオンは無言で扉の前に立つ。
ノックすると、すぐに静かな声が返った。
「入ってください」
扉を開けると室内はいつも通り整っていた。
無駄がなく整頓された部屋。
司祭長は視線をレオンに向けた。
「今回の件」
ゆっくりと口を開く。
「ルキウスによるものと見て間違いないでしょう」
「……はい」
「意図的に状況を作り、我々の反応を観測している」
静かに続ける。
「……悪質ですね」
穏やかに言う。
だが、その声音は少しだけ低い。
「対応を強化します」
レオンが顔を上げた。
「具体的には、単独行動の制限、巡回の再編」
「そして、対象の排除を前提とした行動に移行します」
空気が、少しだけ変わった。
「…排除」
レオンが繰り返す。
「はい」
司祭長は頷く。
「これ以上の観測は許容できません」
合理的な言葉。
だが、どこか硬い。
「接触があった場合、躊躇なく殺しなさい」
はっきりと言う。
レオンは、一瞬だけ言葉を失った。
理解はできる。
でも、簡単ではない。
「……可能なのか」
低く問う。
司祭長は、少しだけ目を細めた。
「あなた一人では難しいでしょう」
あっさり言う。
否定しない。
「ですので、協力者を用います」
その言葉で、誰のことか分かった。
「……アデル、ですか」
「ええ」
穏やかに頷く。
「彼女は適任です」
レオンは、小さく息を吐いた。
「……あいつ、やる気ねえぞ」
正直に言う。
司祭長は、ほんのわずかに笑った。
「ええ、知っています。ですが、必要であれば動くでしょう」
そう断言する。
レオンは、その言葉に少しだけ引っかかる。
「……なんでそう言い切れる」
司祭長は、少しだけ視線を外した。
「……彼女は、理解しているからです」
「……何を」
「この世界の構造を」
静かに答える。
レオンは、それ以上聞かなかった。
聞いても、答えが分からないと分かっているから。
「以上です」
司祭長が言う。
「準備を」
「……はい」
レオンは答える。
そのまま、部屋を出た。
廊下ではユリウスが壁にもたれていた。
「どうだった」
レオンは、少しだけ顔をしかめる。
「殺せ、だと」
「そうか」
ユリウスは頷く。
驚かない。
むしろ、予想できていたことだった。
「……で」
レオンが続ける。
「あいつも使う」
「……アデルか」
「ああ」
短く答える。
ユリウスは、少しだけ笑う。
「嫌がるだろうな」
「だろうな」
レオンも返す。
少しだけ、空気が軽くなる。
でも、すぐに戻る。
「……なあ」
レオンが言う。
「俺、殺せると思うか」
ユリウスは、少しだけ考える。
ルキウス。
あの存在は簡単じゃない。
「……分からん」
正直に言う。
「……でも、やるしかないだろ」
レオンはそれを聞いて、少しだけ笑った。
「……ほんとお前さ、言うこと軽いよな」
「そうか?」
「まあいい」
小さく息を吐く。
「やるか」
短く言う。
ユリウスは、それを聞いて、何も言わなかった。
ただ、少しだけ目を細めた。
流れが、変わり始めている。
それだけは、はっきり分かっていた。




