第109話 採点
街を見下ろせる屋根の上。
ルキウスはそこですべてを見ていた。
片膝を立てて、頬杖をつく。
「終わったかー」
視線の先はあの場所。
もう動きはない。
「静かだね」
少しだけ、目を細める。
「いいよね、ああいうの」
ぽつりと呟く。
「ちゃんと“やったのに間に合わない”感じ」
楽しそうに言った。
軽く息を吐く。
「あの子もさ、ちゃんと気づいてたよね」
ユリウス。
「……でも言わなかった」
小さく笑う。
「あれ、いいなあ」
素直な感想。
「知っててもやるってやつ」
次に、視線が少し動く。
「……で、もう一人」
レオン。
「あっちは分かりやすかったね」
軽く言う。
「最後までやるやつ」
肩をすくめる。
「ああいうのさ、嫌いじゃないよ」
意外と優しい声。
でも、すぐに崩れる。
「でも、つまんないんだよね」
そう言って笑った。
「だって結果変わんないし」
沈黙。
夜風が吹く。
ルキウスは、少しだけ上を見た。
「…で」
小さく呟く。
「エイドル」
名前を呼ぶ。
背後にエイドルが音もなく立っていた。
「どうだった?」
ルキウスが聞く。
「記録完了」
短く答える。
「人間側の反応、分類済み。構造的価値、限定的」
「そっか」
ルキウスは少しだけつまらなそうに頷いた。
「でさ」
一歩だけ、振り返る。
「ほんとにそれだけ?」
目を細める。
エイドルは、数秒沈黙する。
そして、言った。
「本件、唯一性あり」
ルキウスの口元が、ゆっくりと歪む。
「あー」
小さく声が漏れる。
「いいじゃん、それ」
嬉しそうに言う。
「ねえ」
少しだけ近づく。
「構造ってさ、“再現できないもの”どうするんだっけ?」
エイドルは即答する。
「不要。排除対象」
「だよねー」
ルキウスは笑う。
「でもさ、それ、一番面白いやつじゃない?」
軽く首を傾ける。
エイドルは、答えなかった。
必要がないから。
ルキウスは、しばらくそれを見てふっと笑う。
「じゃあさ」
ゆっくりと言う。
「もう一回やろうか」
静かな声。
「今度はもうちょっと」
視線が細くなる。
「“選ばないと終わらないやつ”で」
その笑顔は、楽しそうで、少しだけ優しくて、完全に狂っていた。
エイドルは、その言葉を記録する。
「逸脱傾向、増加」
事実だけを淡々と。
「観測継続」
それだけのこと。
ルキウスは、それを聞いてくすっと笑う。
「ねえ、壊れる瞬間ってさ、一回しかないから綺麗なんだよ」
夜に溶けるように、その言葉は消えた。




