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やがて霧に還る  作者: いづくにか
血統構造編
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第102話 軽口の形

 夜は少しだけ静かだった。


 教会の外。


 人の気配も少ない。



 レオンは階段の端に一人で座っていた。


 何もしていない。


 ただ、そこにいた。




「え、なにそれ」


 軽い声。


 レオンは顔を上げない。


「……見てわかんだろ」


 ぶっきらぼうに返す。


「いやわかるけどさ、わかりやすすぎてちょっとおもろい」


 くすっと笑う。



 足音に続いて、アデルはさらりと隣に座った。


「うるせえ」


 レオンが言う。


「ごめんごめん。そんなガチで落ちてると思わなかった」


 軽く手を振る。


 でも、視線はちゃんとレオンを見ていた。



「で?なにもできなかった感じ?」


 ラフに聞く。



 レオンの肩が、少しだけ揺れる。


「……やったよ」


 低く言う。


「やれることは全部やった……それでも無理だった」


 レオンは心の内に渦巻いたものを吐き出した。


 いろんなことを考えていたはずなのに、口から出た言葉は簡素なものだった。


「そっかー」


 アデルはいつも通りあっさりと返した。


 重くしない。


 でも、流さない。


「じゃあもう無理じゃん」


 さらっと言った。



 レオンが顔を上げた。


「……は?」


「いやだってさ、やれること全部やって無理だったんでしょ?」


 肩をすくめる。


「それ以上なにやんのって話じゃん」


 変わらない軽い口調。


 でも、その視線はレオンに向けられていた。



「……割り切れってか」


 レオンが言う。


「まあ、そうなるよねー」


 あっさりと答える。


「むかつくな」


「でしょ?」


 そう言って笑った。



 少しだけ間が空く。



 アデルは、横目でレオンを見た。


「でもさ」


 少しだけトーンが落ちる。


「ちゃんと“やった側”じゃん、お前」



 レオンの表情が、少しだけ止まった。


「ああいうとこで何もしないやつもいるし。それと同じテンションで落ちてんの、ちょっと違くない?」


 あくまで軽く言う。


 責めてない。


 でも、流さない。



 レオンは、視線を落として考えた。


「……じゃあ」


 ぽつりとこぼす。


「これでいいのかよ」


 こぼれたのは、心の不定形の問い。



 アデルは少しだけ空を見た。


 霧だけが広がっていた。


 他には何も見えない。



「よくはないよ」


 普通に言う。


「全然よくない」


 レオンが少しだけ笑った。


「……だよな」



「でもまあ、そういう世界じゃん、ここ」


 アデルは当たり前のことを話すように、言葉に重さをのせずに言った。



 レオンは、しばらく何も言わなかった。


 でも、さっきよりは少しだけマシだった。


「……くそ」


 小さく吐く。


「いいじゃん、ちゃんとむかついてんの」


 アデルが言う。


「それ残ってるなら、まだ大丈夫でしょ」


 軽く笑う。


 レオンも小さく鼻で笑った。


「ぶん殴るぞ」


「やめときなよ、当たんないって」



 少しだけ、空気が緩んだ。



 そこで、アデルが立ち上がるのをレオンは見た。


「どっか行くのか」


 レオンが聞く。


「んー、まあちょっとね」


 曖昧に言う。


「お前も戻りなよ」


「……ああ」


 レオンが頷く。



 アデルは歩き出して、少しだけ振り返った。


「……死にたくなきゃさ、ちゃんと強くなりなよ?」


 笑ったまま言って、それを最後に振り返らなかった。




 レオンはその背中を見て立ち上がった。


 まだ、重い。


 でも、止まってはいない。


 それでよかった。





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