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やがて霧に還る  作者: いづくにか
血統構造編
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第101話 欠けた後

 報告は簡潔だった。


「対象イレーネ、消失…構造側による回収と推定」


 それだけ。


 余計な言葉はない。



 部屋は静かだった。


 マルタが腕を組む。


「……そうか」


 短く言う。


「そうなるとは思ってた」


 予想の範囲。



 エリアスが続ける。


「監視対象の消失は、むしろリスクの低減と見なせます。脅威の一つが排除されたと」


 淡々と合理的な評価を下す。


「……だな」


 マルタも頷く。


「これで少しは動きやすくなる」


 事実だ。


 間違っていない。


 でも、


 レオンは、何も言わなかった。


 視線を落としたまま反論も、同意もしない。


 ただ、聞いていた。



 そのとき。


「残念ですね」


 穏やかな声。


 司祭長。


 全員の視線が向く。



「有用性は低かったですが、観測価値はありました」


 静かな評価。


 それ以上でも、それ以下でもない。


「今後は」


 続ける。


「構造側の動きに注意を。接触は避けること」


 いつも通りの的確な指示。


「はい」


 エリアスが応じる。


 それで終わる。


 会議は解散する。


 誰も引き止めない。


 必要がないから。





 レオンだけが、その場に少し残った。


 何か言うでもなく。


 ただ、動けなかった。


 司祭長がその様子を見る。


「どうしましたか」


 優しく言う。


 レオンは、少しだけ顔を上げる。


「……いえ」


 短く答える。


「……問題ありません」



 嘘だった。


 でも、それ以上言えなかった。



 司祭長は、それ以上追及しなかった。


「そうですか」


 穏やかに頷く。


 それだけだった。


 無理に踏み込もうとはしなかった。






 レオンはそのまま部屋を出た。


 廊下は静かだ。


 ユリウスが、壁にもたれていた。


 偶然みたいに。



「……聞いたか」


 レオンが言う。


「……ああ」




 沈黙。



「……終わったな」


 レオンが言う。


「……そうだな」



 それで終わるはずだった。



 でも、レオンは動かない。


「……なあ」


 少しだけ声を落とす。


「…あれでよかったのか」


 ユリウスは、少しだけ考えた。


 答えはない。


 でも、言葉は出る。


「……よくはないだろ」


 静かに言う。


「でも、ああなるしかなかった」


 それも事実だった。



 レオンはそれを聞いていた。


 否定できない。


「……くそ」


 小さく吐き出して、そのまま歩き出した。




 ユリウスは、その背中を少しだけ見ていた。


 何も言わない。


 必要がないから。


 ただ、ほんの少しだけ、目を細めた。



 流れは続いている。


 でも、何かが、少しだけ引っかかっている。







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