番外編 選び続けた後には
夜はまだ静かだった。
霧も今より薄い。
街の灯りがちゃんと見える。
イレーネはその外側にいた。
建物の影。
人のいない場所で息を吐く。
少しだけ、震える。
「……だいじょうぶ」
自分に向けて小さく言う。
喉が渇く。
焼けるような感覚。
奥が、ざわつく。
でも、抑える。
目を閉じて呼吸を整える。
意識を沈める。
衝動を押し込む。
「……まだ、いける」
足音が聞こえた。
遠くから誰かが歩いてくる。
イレーネの身体が、一瞬だけ反応した。
喉が強く鳴る。
「……やめて」
小さく呟く。
視線を逸らして、見ないようにする。
でも、匂いが来る。
温かい、生きている匂い。
心臓の音。
全部、分かる。
「……だめ」
もう一度言って、後ずさる。
逃げるように距離を取る。
そのとき。
「……あれ?」
小さな声。
子供が迷ったように立っていた。
夜の中で、一人だ。
イレーネは、止まる。
視線が合った。
子供は少しだけ安心したように笑った。
「よかった……人、いた」
イレーネの中で、何かが揺れる。
「……おうち、わかんないの」
子供が言う。
イレーネは、少しだけ考えた。
衝動が、すぐ近くにある。
でも、それよりも。
「……こっち」
小さく言って背を向けた。
距離を取る。
近づかないように、導く。
ゆっくり歩く。
子供は、その後ろをついてくる。
「……ねえ」
声がする。
「おねえちゃん、さむくない?」
イレーネは、少しだけ止まった。
でも、答えない。
そのまま歩くだけ。
少し歩くと灯りのある場所が見えた。
人の気配がする。
安全な場所。
イレーネは足を止めた。
「……ここまで」
小さく言う。
「……あとはいける?」
子供は少しだけ考えて頷いた。
「ありがとう」
そう言って笑った。
一瞬だけ、イレーネの中の衝動が消えた。
「……うん」
小さく返した。
子供は走っていく。
光の中へ。
イレーネは、その場に静かに残っていた。
膝が、崩れた。
「……っ……」
声が漏れる。
限界。
抑えていたものが一気に戻る。
視界が揺れる。
呼吸が乱れる。
「……だめ……」
呟く。
でも、もう遅い。
身体が動く。
衝動が、全部を上書きする。
次に気づいたとき。
赤い。
手が、
濡れている。
息が、荒い。
足元に、人。
動かない。
イレーネは、しばらくそれを見ていた。
「……あ」
小さく言う。
それだけ。
何も、続かなかった。
ここまで読んでくださってありがとうございました~!!!
イレーネちゃんかわいい!だいすき!
イレーネちゃん、実は能力もちでした~
”吸血衝動を抑える”能力です!!




