第100話 価値のない形
暗い。
光はある。
でも、暖かさがない。
床は硬く、冷たい。
イレーネは、そこに転がされていた。
腕は動かない。
脚も同じ。
形だけが残っているだけ。
もう、動かない
機能が、ない。
痛みは、あるのかもしれない。
でも、どうでもよかった。
「……ここ、どこ」
小さく呟いても、返事はない。
少しだけ、視線を動かす。
広い空間。
何もない。
ただ、自分と同じようなものがいくつかある。
動かない影。
人の形。
でも、“人”じゃない。
「……ああ」
理解する。
「……同じか」
ただ、それだけ。
規則的な足音が聞こえた。
揺れない、整った足音。
男が入ってくる。
あの男。
男はイレーネに視線を向ける。
「対象イレーネ」
ただの確認作業。
「回収完了」
それだけを言う。
「……終わり?」
男は答えない。
少しだけ、間があった。
「処理工程へ移行」
淡々と、作業のように言う。
「……なにそれ」
説明はない。
代わりに、別の存在が入ってくる。
気配が違う。
空気が重い。
静か、なのに押し潰されるような圧がある。
イレーネの視線が、そちらに向いた。
男。
整っている。
揺れがない。
ヴァルドリックは何も言わずに、ただ評価するようにイレーネを見た。
しばらく、ただじっと見て、そしてゆっくりと口を開いた。
「……不適合」
確定事項を静かに言った。
それ以上でも以下でもなかった。
「……そうなんだ」
イレーネが言う。
興味は薄い。
「……選択を行わない個体は、構造に寄与しない」
ヴァルドリックは続ける。
「……だから?」
「不要である」
即答。
それだけだった。
イレーネは、少しだけ考える。
でも、すぐにやめた。
「……そっか」
納得するでもなく、拒否するでもなく、ただ受け取るだけ。
ヴァルドリックは、その反応を見ていた。
評価は変わらない。
「……処理を継続しろ」
後ろの男はすぐに動いた。
イレーネの身体に何かが触れた。
冷たいものが内側に入ってくるような感覚。
違和感。
でも、イレーエは拒否しない。
「……これ、なに」
小さく聞く。
「分解処理」
答えが返る。
「……ふうん」
それだけ。
身体の感覚が、少しずつ消えていく。
指先。
腕。
内側。
徐々に、順番に“削られていく”。
でも、怖くなかった。
どうでもいいから。
「……ねえ」
少しだけ、誰に向けるでもなく声を出した。
「……選ばなかったら、こうなるんだね」
イレーネは、少しだけ目を閉じた。
思い出すものは特にない。
残したいものも、ない。
「……まあ、いいか」
小さく言う。
そのまま、何も残らずに、削られていく。
ヴァルドリックはそれを最後まで見ない。
価値がないから。
ただ終わる。
それだけだった。




