言葉を交わして
アストゥート視点
『貴殿と話がしたい、場所と時間は任せる』
目の前を横切る最中、投げかけられた簡潔な言葉。
否応無しに言われたアストゥートには不快感があった。敬すべき第一王女ディニタは次期女王であり、何より愛するプルデンテの姉である。彼女から提案により、恋しく思っていたプルデンテを妻にできた。ディニタがあってこそ今の幸せがある。
しかし、姉だからこそプルデンテに馴れ馴れしく触れ、お互いが親愛を向け合っている。血の繋がりと共に過ごした時間から愛し愛されている。
真顔に努めた内心で湧き上がったのは気に入らない、許せないという気持ち。二人寄り添う姿を目にするだけでも負の感情が溢れ出て、自身が嫉妬をしていると気付いたときには、いつの間にか執務室に戻り、一人で仕事をしていた。
「・・・」
万年筆で何かを綴っている。すぐに思い出したのは、商品売買に関する許可証の交付。届け出された書類の内容こそ目を通して不審はないと確認し、許可書を製作していた。だが、認証のサインは無意識に書いていたようで、手にした万年筆は蛇がのたうつような線を書いている。
「・・・書き損じたか」
脳裏には、常にディニタがちらついている。仕事に集中することで意識をしないように努めてようとしたのかもしれないが、そう至った記憶もない。意識が散漫していると自覚したアストゥートは、万年筆に蓋をして机の上に放り、落書き帳となった許可書を握り潰した。
卓上時計に目を向ければ、ディニタとの会食から二時間ほど経っている。
『貴殿と話がしたい、場所と時間は任せる』
ディニタの言葉が反芻する。もはや忌々しいとすら思ってしまう義姉は、言葉を交わしたいと言っていた。
見る者がいないことで、アストゥートの眉間には気持ちを表すような深い皺が刻まれた。その顔は、彼から戦闘訓練を受けるテオドラはともかく、皆から愛されて甘やかされているファビオラならば恐怖で泣き叫ぶような形相だった。
「何が言いたいのか・・・文句があるのは俺の方だ」
どこか冷静な部分が狭量だと訴える。だが、怒りは当然だとも心の奥底から湧き上がってくる。
プルデンテはアストゥートのもの。ディニタの「私のプル」という発言すら許せない。姉だろうとも、王国の女王となる女だろうとも、どのような立場の人間だとしてもプルデンテの心を奪うような者を許せなかった。
不意に革張りの椅子から腰を上げる。扉に向かいながら、怒りの表情を緩めて、表情を無くし、真顔に徹する。そのまま執務室から出た彼は、控えていた侍従に命じてディニタを中庭を望むサロンに呼び出した。
サロンに入れば、壁一面の窓ガラスから中庭が見える。十数人の兵士達が警備する中庭のテーブル席にプルデンテが座っていた。彼女の腕の中にはふくふくとしたヴェネリオがいて、つぶらな瞳をせわしなく動かして周りを見ている。花壇の合間、整枝で綺麗に整えられた木々の前。三人の子供達が頭を向け合い地面を眺めていた。そこに何かあるのか、何かを描いているのか、見えないことで当人達しか分からない。
目の前のソファに座る王国の第一王女がいることで、中庭を注視することはできなかった。バジーレ家のメイドが用意した磁器製の茶器を使い、ディニタは温かな紅茶を飲んでいる。その顔が中庭の子供達とプルデンテに向けられていると、アストゥートは気付いていた。
「お呼び出しとなって申し訳ございません」
「・・・貴殿にも謝罪の気持ちがあると知れたからね、構わないよ」
ディニタの容貌は美男子のようだが、体格は妙齢の女性そのものだった。王家の軍服を纏う彼女は、細身ながら筋肉の付いた引き締まった体、剣を握り慣れていると分かる骨張った手をしている。トラウザーズを穿く足は優雅に組んでいるが、日々鍛錬を続けているようで、筋肉で引き締まっていた。ディニタは象徴として戦場に立つ者ではなく、自ら戦う者であると姿から体現している。
その勇ましい第一王女は手にしていたカップをテーブルの上のソーサーに戻した。背もたれに深く身を預けて、それでも顔は中庭に向けたまま、アストゥートには視線だけを向けている。
彼女の眼差しには敵意があった。戦場で受けるものとは違うと分かるが、明確な敵意を向けられている。それがどういった意味のものかは分からない。だが、彼は理由だけは理解している。プルデンテに関することだと理解していた。
何も言わず、対面するソファにも座らずに、アストゥートはディニタの真横に佇む。臣下である彼は武装せずに丸腰で、敵意を隠して両手を背中に回す。右の手首で左の手首を掴み、抑えている。
何を言われても怒りは隠す。狭量な嫉妬心は見せない。中庭にいるプルデンテに本性を知られるのを恐れて、耐えることを選んだ。
「義弟となったアストゥート・バジーレ殿と話すのは初めてだな・・・プルとの結婚を打診した日以来か。あのときは即答されて面食らったが、なかなか愉快な気持ちになったよ」
ディニタはソファの肘掛けに肘を載せて頬杖を付いた。宝石ような煌めきのある瞳を眉を寄せることで細める。
「だからこそ、ビセンテ軍の侵攻を受けて一時でもプルが捕虜となったと聞いたときは、お前との結婚は間違いだったと思ったものだ」
アストゥートの左の手首を掴む力が増し、骨が軋んだ。真一文字に閉ざした口の中で歯を食いしばる。反論の言葉は浮かびもしなかった。
感じるのは自身の不甲斐なさ。責められて当然のことをしたと自覚している。レジェスの奸計によって山間の鉱山町に引き寄せられ、プルデンテを敵前に晒すことになった。危険な状況に陥らせた。
奥歯が軋む。怒りの矛先はディニタから自分自身に向かい、掴んでいる手首の皮膚に爪が食い込んでいく。
「・・・お前とプルの結婚は双方の家の利益のためではない」
横目で睨みつけながら語る彼女は足を組み替えると重心も変えて、中庭へと身を寄せた体勢を取る。
「なぜお前にプルとの結婚を進めたのか、分かるか?」
「・・・いえ、皆目見当もつきません」
プルデンテとの接点は初対面を果たした叙勲式から、王家主催の夜会や国の式典などの社交の場のみで、顔を合わせて挨拶を交わす程度だった。アストゥートこそはその姿を視線で追っていたが、彼女にとっては臣下の一人に過ぎなかっただろう。
「あれほどプルを熱心に見ていたからな、周りが見えていなかったのだろう。お前がプルを情熱的に見つめていると、私は知っていた」
プルデンテへの視線はディニタに気付かれていた。密やかに、すれ違いざまに視線を送るに留まらせていたが、それを熱心と思われていた。彼は内心で己を恥じる。
「私のプルは最初こそ人目を引く。灰色の髪と瞳を奇異だと見つめられるが、性根を見誤ることで関心は無くなる。連中の話では、王妃不義の子と噂された地味で無能な姫に無駄な時間は割けないらしい」
「そのように見る者達は頭がおかしいと言わざるを得ません。プルは知性高く、度量と責任感もある。為政者としての器すらあります」
「ははっ!私がまだ話している途中だと言うのに・・・いや、許そう。お前のプルへの評価は真っ当なものだ。プルのことを正確に捉えている。あの子もグラツィアーニの姫君として生まれ落ちた者。もし通常通りの教育を受ければ、姫将軍として私とも肩を並べていただろう」
ディニタは溜め息を漏らすと、アストゥートに向けていた眼差しを中庭に向ける。彼も視線を向ければ、ヴェネリオが載る乳母車をプルデンテが押して歩いていた。並び歩く子供達と一緒に、色ごとに纏められたコスモスの花壇の合間を進んでいく。その様子に中庭にいる警備の兵士達の顔も緩み、今眺めているディニタの顔も穏やかな笑みを浮かべている。
「そういった本質は、噂と上辺の評価によって隠されてしまった。臣民達が認識に至るまで関心を寄せないことで、プルは血筋だけの姫として社交の場の片隅に咲いていただけ・・・そのように在ったあの子を熱烈に見る者がいた。儚い色味に隠されていた美しさを見抜いたか、身に着けた気品のある所作に惹かれたのか分からないが、執着のある眼差しを向けるのならば姉として気にするというものだ」
窓ガラスの向こうにいるプルデンテが顔を上げた。ディニタとアストゥートに気付いたようで、最初こそ目を丸くしていたが、柔らかな笑みを浮かべると連れ添う三人の子供達に声をかけた。テオドラは手のひらを見せるように上げ、ファビオラは跳ねて、二人に挟まれたエーリオは控えめに手を振る。
ディニタは大きく手を振って答えると、両手を後ろに組んだままのアストゥートに顔を向けた。
「プルを認識して、決して目を離さないと追っていた。それが敬愛を抱いてか、邪な感情によるものか。感情を見せないお前を眺めていても推し量れないだろう?結婚の打診は一種の賭けだった。どのような返答をするかと思ったが・・・あれには本当に驚いた」
「初恋だったと認識しています。その思い慕う女性を妻に迎えられるのならば、即断するのは当然です」
「だろうな・・・だからこそ、レジェス・ビセンテという奸賊の謀に引っかかり、プルを危険に晒したのは度し難い」
アストゥートは喉を引き攣らせると、自責の念からすぐさま頭を垂れた。
「俺の罪だと理解しています。二度とあのようなことは起こしません」
「二度があると思っているのか?」
「・・・」
頭頂部に投げかけられた言葉にアストゥートの声が詰まった。
言葉の通りに受け取れば、プルデンテの身を案じた発言だろう。しかし、彼はそのままの意味で言い放たれたとは思わなかった。
「プルは、俺の妻です」
「今はな」
「もはや王家にお返しすることはできません」
「はははっ!お前に何の権限があるというのか」
「俺は、プルの夫です。貴女が公務を理由に参列しなかった結婚式で誓った。健やかなるときも病めるときも、死の間際だろうとも・・・死んだ後でさえ、俺とプルは共にいると誓った。死すら俺達を分かつことはできない」
顔を上げてディニタを睨み付ける。アストゥートは、敵意を隠さない鋭い眼差しと怒りを抑えきれない険しい表情をしていると自覚している。いつもならば隠そうとするが、溢れた気持ちを抑えきれなかった。
「二度とあのようなことは起こさない。プルを奪う者も傷付ける者も等しく許さず、思うことすらさせず、文字通り叩き潰す」
血を這うような低音で囁き、瞬きもせずにディニタを睨み付ける。それは臣下が取るべき態度ではなく、明らかな不敬行為だった。
だが、女王となる彼女は表情なく、ただアストゥートを見下ろすだけで。
「ふ・・・はははっ!」
僅かな間を置いて、天を仰ぐほど笑い始めた。
アストゥートの視界には大笑いをするディニタ、窓ガラスの向こうで不思議そうに見つめてくるプルデンテと、庭師から受け取ったコスモスで花冠や花束を作り始めた子供達が見えた。
「いやぁ、凄まじい執着心だな!結婚の宣誓まで改変するとは思わなかったぞ!貴殿のプルに向ける気持ちは相当熱烈だと分かる!」
笑いで浮かび上がった涙を指先で拭うと、彼女はアストゥートに近い肘掛けに寄りかかり、にやついた笑みを浮かべて頬杖を突いた。
「実の姉にすら嫉妬するのだからな、始末に負えない・・・プルは随分な男に惚れられたものだ」
前屈みになったディニタは、テーブルに置いてあるティーポットを掴み、自ら紅茶をカップに注いだ。湯気と共に広がる香しさがアストゥートの鼻腔も擽る。
「プルの結婚祝いに贈ったサファイアのネックレスは知っているな?」
「・・・はい、正確には麻痺毒の瓶のネックレスだったとも知っています」
「ああ、そうだ。何かしらに使用した、おそらく侵入を果たしたビセンテ軍の何某に使用したと考えられるが、とにかく、空になったから現在は身に着けていないのだろう。私はプルの身の安全のために新しい物を贈ると言ったんだ」
カップの持ち手を摘み、香りを楽しんだあとでディニタは一口飲んだ。好ましい味だったのか、彼女の口元は緩んでいる。
「だが、お前が、アストゥート殿がいるからいらないと言われた。どうやら、貴殿は私のプルから信頼を得ているようだな。身を託すことができる男だと認定されている。誇れよ」
「はい、嬉しい限りです」
アストゥートは、ほぼ一目惚れだったプルデンテを得た喜びを彼女自身に対して隠さず、残虐な本性だけは包み隠してきた。愛情を見せて与えて、その言動は尊重し、悪意のある者達から守ってきたと自負している。レジェスの蛮行を許してしまったのは致命的なミスだったが、それでもすんでのところで救えた。
今までの積み重ねと現状の様子から、信頼だけではなく愛も得ていると自信を持って言える。
「貴殿も笑えるのだな。初めて見た・・・まあ、ともかく」
ディニタは紅茶を飲み干すと、また背もたれに深く身を沈めた。その顔には、相変わらず緩んだ笑みが浮かんでいる。
「相思相愛の夫婦を引き離すほど野暮ではない。ビセンテの奸計に引っかかったことは咎めるが、それだけだ・・・これからもひたすらにプルだけを想い、死の間際、いや、死んだ後もか。その熱烈な愛をプルだけに捧げろ」
「勿論です」
「躊躇いもなく即答するところ、本当に相当な男だと感心するよ」
腰を上げたディニタは、サロンの出入り口である扉に向かった。アストゥートは顎をしゃくられたことで、一歩下がって同行をする。
「本来ならば、プルも私やスプルのように武術を習うはずだった」
通路を歩きながら彼女の言葉を聞き入れる。
「あの子も体格は悪くない。鍛えれば私と同じような体形と筋肉量になっていただろう。我がグラツィアーニ王家は武の家系。貴殿も知っての通り、初代国王は武神と言われ、生まれた王子王女の全てが武具を手に取って戦場で戦った。戦いによって領土を守り、民を守った。であるから、現在であろうとも武術は王家にとって必須だ」
「プルは多少の護身術のみしか体得していないと言っていますが」
「ああ、私が父上に願ったんだ。プルが武術を学べば、私に害なす者へと玉砕覚悟で挑むだろうとな」
驚きの発言にアストゥートは言葉を失い、先行く勇ましい第一王女の背中を眺めて歩くだけだった。
「私も子供だった頃、確か十二歳を迎えた次の日だった。前日の誕生祭の熱が冷めず、涼むつもりで王城の庭園を散策していたんだ。まだ四歳のプルを連れてピクニックをしようなど考えてな」
軽快な足取りで進むディニタは後ろを振り向かない。
「あまりにも隙だらけだったから狙ったのだろう。父上、国王陛下には以前まで王弟が二人いたのは知っているな?」
「存じています。お一人は妃殿下と一緒に俺とプルの結婚式に参列してくださいました」
「ああ、今や唯一となった王弟である叔父上は家族思いで穏やかな方でね。兄である国王陛下の敵でなければ無欲で無害な方だよ。私達姉妹にも良くしてくれる」
「左様ですか、俺も風の噂程度ですが評判は耳にしたことがあります。ただ、バジーレ領の防衛に忙しく、国勢にまで意識が向いていなかったので詳しくありません。二十年ほど前に処刑された王弟についても何も知りません」
少年期に現国王の弟の一人が重罪によって処刑されたとは知っている。だが、犯した罪は元より顔すらも知らない。
「その王弟、いや、王族籍からは抹消された重罪人だ。父上は名無しの愚か者として処理をしたからな・・・その愚か者の罪は、王族殺害未遂だ。後継者として認定を受けた私の暗殺を企て、プルに怪我を負わせた。父上は許し難いと激昂して捕縛即日に斬首したのさ」
「ディニタ王女殿下を狙い、プルを傷付けた?」
「そう・・・侍女として潜ませた暗殺者が刃を持って私に迫ってきてね。咄嗟のことで少々動きが遅れて、気が付けばプルが私の前に肉壁として立っていた。私を庇おうとして盾になったんだ。分かった瞬間に私の体も動いて、腕を斬られたあの娘を突き飛ばし、それから・・・気が付いたら奪った刃で暗殺者を斬り刻んでいた」
「・・・」
「当時のことはあまり覚えていない。覚えているのは、私も辺りも真っ赤に染まっていたことと、プルの言葉に怒って最初で最後の暴力を振るってしまったことだ」
ディニタは立ち止まりはしないものの、自身の右手を上げて眺めているようだった。
「なぜ私の前に立ったのかと聞いたら、四歳のあの子は『王様になるお姉様を守るのが予備の子供の役目』と答えたんだ。王家の在り方、序列などを学んだ際に思い至ったらしいが、幼い妹が、守るべき大切な子が私のためだと命を散らそうとした」
彼女ら右手を握り締めるが、その手は力むことで震えていた。
「カッとなって殴ってしまった。そのあとで痛みか、私に怒鳴られたことか、どちらか分からないがプルは大泣きしてね。異変に気付いて走ってきたスプルに怒られたよ。『私のプルデンテに何をするの』ってね。スプルにも泣かれてしまった・・・あのようなことは二度とごめんだ。だから、プルが武術を学ぶことは禁止してもらった。力を付ければ、あの子は間違いなく私の盾になってしまう」
「ディニタ王女殿下の采配には感謝します」
「そうだろう、私のもとを離れたとしても、戦時になれば家長を守るためだと先陣を切るのは明白だ。だから、アストゥート殿」
中庭に至る扉を自ら開きながらディニタは振り返る。
「今後のバジーレ領は平穏となるだろうが、争いが起こった際はプルを守ってほしい。戦乙女の鎧を纏って扇動するなど以ての外だ」
プルデンテがレジェスと対峙した際に身に着けていた白銀の戦乙女の鎧は、修復後に施錠のされたガラスケースの中に飾られた。鍵はバジーレ家の当主が管理することになっている。
「・・・勿論、あのようなことは二度とさせません」
「ああ、そうだ。熱烈な貴殿が常に側にいれば強行に及ぶこともない」
中庭に降り立つと、アストゥートはディニタに追従してプルデンテと子供達の待つコスモスの花壇に向かう。その道すがら、ふと思うことがあった。
「殿下と俺の父は仲がよろしくないとお見受けしますが、なぜあの父の息子である俺にプルとの結婚を勧めてくれたのですか?」
「ははっ!仲が悪いとは見当違いだぞ!オルランド・バジーレは私の剣の師匠だ。出会いこそ『女性である貴女には武術は必要ない』などという馬鹿な発言によるものだが、私はしつこく奴の認識を、いや・・・んー、情熱的に師事を乞うてね?お互いの体力が尽きるほど剣を交えて抗議した。いやぁ、格下の、それも女に根性負けをする様は爽快だった。喜びから目にしていた青空がいつもより鮮明に映った記憶すらある」
「・・・なるほど、父らしく失言をして殿下の反感を買ったのですか」
「か弱き女性は守るべき存在という認識は良いことだ。ただ、全ての女がか弱いわけではないとオルランドにも分かってもらいたいものだね・・・さて、そろそろ二人きりでの話は終わりにしようか、アストゥート殿」
ディニタが立ち止まったその先、赤いコスモスの花壇の前にプルデンテがいる。乳母車に載せていたヴェネリオを抱き上げた彼女は、コスモスの花で飾った子供達に囲まれながらも、アストゥートへと手を振っていた。
佇むディニタをそのままに、彼は何よりも愛しい人に向かって歩き出す。




