会食での会話
時刻は正午、昼食の時間。
アストゥートの案内のもとディニタとエーリオを食堂室に通した。内部は使用人の徹底した清掃と、給仕による飾り付けで整えられており、裾に刺繍が施された清潔な白いテーブルクロスの長机が用意されている。その上座にディニタが座り、右斜め席にエーリオが腰を下ろした。小さな王子と対面する席は、体力を取り戻したバジーレ辺境伯に譲るために空ける。
「若奥様」
調理場に続く扉の脇にプルデンテが控えれば、身を寄せてきたシエナに声量を抑えた声で話しかけられた。自身の娘達が姿勢よく座る姿を瞳に映しながら、プルデンテは耳を傾ける。
「エーリオ王子殿下の食器はテオドラお嬢様用のものでよろしいでしょうか?」
「構いません、お姉様は気まぐれで同行の許可を出し、こちらに通達をしませんでした。責を問われることはありません」
「畏まりました」
シエナは調理場へと戻る。だが、間を置かずに給仕長が姿を見せると、プルデンテの後ろに控えた。
「料理長は人数分の食事を提供できると仰っていますが、王子殿下の嗜好が分からず難色を示しています。苦手だとするものは下げたいと言っていますが」
「配慮の必要はありません。問題ないと料理長に伝えてください。ご提供する食材は、我がバジーレで収穫した作物と狩猟物です。臣下より捧げられた物であり、王家として食すのは当然のことです」
「分かりました。では、順次配膳いたします」
「ええ、お願いします」
心配事の相談は密やかなものであり、従業員達が安心するまで指示を伝え、家内を預かる女主人としての役目を熟していく。
アストゥートも側に佇み、プルデンテの指示を聞いているようだが、問題ないと判断したようで何も言わない。
「ええ、毒味は確実にお願いします。王家の食事でも必須でした。私が作った焼き菓子ですら」
「頼られているお前を見るのは心地良いが、そろそろ姉の相手をしてくれないかな?」
指示を出すこと何人目か、数えていないために分からないが扉から離れずに答えていれば、ディニタに呼ばれた。外戚である辺境伯家の前では姿勢を崩すようなことはせず、顔だけをプルデンテに向けているが、青い瞳の目が伏せ目がちになっていた。
寂しいと表現されたことで、彼女は小さく息を吐くと皆が待つ長机へに向かう。アストゥートも並び歩くが、プルデンテは対面する席に付くために離れた。そのままエーリオとファビオラの間に腰を下ろす。
「ジジイ以外はいるようだが、食事の席に遅れる者だとしても待たねばならないな」
「ディニタお姉様、辺境伯閣下はお姉様に精神誠意お仕えしたことで体を休めている最中です。多少なりともお気遣いくださいませ」
「なんだ、プル。あのジジイの味方をするのか?それは、妬けてしまうな・・・」
楽しそうに口元を緩めたディニタは、背もたれに身を沈めて腕を組んだ。食事の席では無作法である。だが、その美貌と伸びた背筋から、絵画で目にしたことがある美麗な女性騎士のような佇まいだった。
「きしさまのおひめさま・・・すてきぃ」
真隣から感嘆とした声が聞こえる。視線を向ければ、組んだ両手を右頬に添えたファビオラが、うっとりとした眼差しでディニタを見つめていた。
プルデンテは恋をする乙女のような顔の娘の背中に手を添える。その感触に、ファビオラはハッとして意識を取り戻した。目を丸くするほど驚いていた顔に微笑みを浮かべると、膝に両手を置いて姿勢よく座る姿を見せる。
「おや、熱烈な視線を受けていたというのに」
「魅力的なお姉様ですから、幼い子の心を奪われても仕方ないとは思っています。ただ、厳密には会食の場ですから自重してくださいませ」
「なるほど・・・お前達の母は美しいだけではなく真面目で忠誠心も高い。臣下として仕える心構えがある。分かるかな?公の場に合わせた所作と対応を教える良い母親だと褒めているんだ。お前達も母親に倣いなさい」
「はい」
「はい!」
ディニタの言葉にテオドラとファビオラは間を置かずに返事をした。プルデンテは気恥しさを覚えて視線を下げるが、自身の発言に反すると思い至ったことですぐさま戻す。
「私はお姉様に諫言を告げたつもりでしたので、なぜ褒めらたのか分かりかねます」
「よい指針になると判断したからだ。流石は私のプル。アストゥート殿もそう思うだろう?」
一切口を挟まずに静観を続けていたアストゥートに、ディニタは声をかけた。
「・・・王女殿下の仰せの通り」
彼はそれだけ告げると、再び口を閉ざす。緩い笑みを浮かべるディニタに感情のない顔を向けて視線を送っているが、それ以上は何も言わない。
少し緊張感を得た。それはプルデンテ自身から沸き立つものではなく、アストゥートが緊張を帯びていると感じたからだ。理由が分からず首を傾げるも、この場で問いかけるべきではないと唇を引き締める。
そうしていれば、重々しく歩幅の広い足音が聞こえ始めた。次第に大きく聞こえることで、真っ直ぐ食堂室に向かっていると察したプルデンテは、扉へと視線を動かす。瞬間、扉は勢いよく開き、肩を上下にするほどの呼吸を繰り返すバジーレ辺境伯が姿を現した。どうやら駆け足に近い速度で歩いてきたようで、心境も相まってか心拍数が上がっているのだと分かった。
「おお、やっと来たか。随分と遅かったが、呼吸は整っていないな。年齢による体力低下が著しいと見える」
「すぅ・・・ふー・・・王女殿下のお力により、私自身非常に鈍っていたのだと理解しました。今後は振り回されんように更なる鍛錬をいたしましょう。さすれば巡り巡ってバジーレ領の防衛力にも繋がるというもの」
深く息を吐き出すと、バジーレ辺境伯は振動が伝わるほどの力強い足取りで皆が着席をする長机に歩み寄り、自身の席がディニタの斜め左だと気付いたことで一旦立ち止まる。
引き攣った顔にアストゥートが「閣下、着席ください」と感情のない声で催促すれば、辺境伯は小さく唸り声を上げて、自身の席に音と振動を立てながら着席する。
「ははっ、不満そうだ!幼児ではないのだから平静に努めるべきだぞ。見ろ、私のエーリオはまだ六つ。それでも姿勢を崩さず、人間関係を知るために見守っている。この子はプルにそっくりでな。もう少し自己主張してほしいが、この落ち着きは為政者の器だと思わないか?」
「王子殿下がご聡明であられるのは、確かにおうじょ、いえ、当家のプルデンテと同様に王家の血によるものでしょう。叔母と甥という関係ながら母君よりもよく似ていらっしゃる」
「そうだろう!そうだろう!はははははっ・・・喧嘩を売っているのか?」
「いえ、私の本心をそのままにお伝えしただけです。なぜそれが王女殿下から怒りを買うのか。山籠りのジジイゆえに分かりかねますな」
正しく口論が起きているが、バジーレ辺境伯はディニタと目を合わせない。眉を寄せて目を泳がせて、長机の中央に座す赤いコスモスが生けられた花瓶に目線を向けていた。
隣に座るアストゥートが辺境伯を責めるように視線を向けているが、当の本人はディニタと視線を合わせようとしない。
「お母様、僕はバジーレ産のお食事をしながら親せきの方々とお話する時間だと聞いていましたが、まちがいだったのですか?ケンカしてどちらが上か教えるシツケの時間でした?」
エーリオが何やら不穏な言葉を発した。年甲斐もないバジーレ辺境伯を視界に捉えていたプルデンテだったが、思わず甥である王子に顔を向ける。
そうすれば、非常に緩んだ顔をしたディニタが、エーリオに体を寄せて、頬がつきそうなほど顔を寄せて、彼の艶やかな銀色の短髪を撫でくり回している。
「今は躾をしないよ。私はしっかり耐えるからね。会食という場に相応しくないと判断して母を止めようとするなんて、お前は空気も読めて度胸もある。良い子だな、エーリオ。かわゆい、本当にかわゆい子だ」
「ああ、全く・・・第一王女殿下の子とは思えない」
何かしら呟いたバジーレ辺境伯だが、体格からは想像がつかないほどの小声だったことで聞こえなかっただろう。ディニタは読唇術も体得しているが、彼女の目は息子に向かい、蕩けた笑顔を浮かべているために見えていなかった。
「ディニタお姉様」
物事が先に進まないと判断をしたプルデンテは、緩んだ表情でエーリオをずっと撫で続けているディニタに声をかけた。ひたすら髪を撫でていた手は止まり、青い瞳の目を向けられる。
「料理が運ばれます。本日は私達バジーレの者に馴染み深い食材でご用意させていただきました。お姉様と王子殿下のお口に合えばよろしいのですが」
「好き嫌いなどないと知っているだろう?何でも食べられる」
「ええ、勿論。特にメインの肉料理ですが、山深い土地の獣肉ですから引き締まっています。噛み応えがありますのでお姉様も好まれるでしょう」
話す最中に料理が運ばれてくる。王国の形式に則ったコースメニューだが、昼食であるため食前酒ではなく、バジーレの山麓から湧く天然水を飲む。次は新鮮なトマトとチーズのカプレーゼ、そして野菜をよく煮込んだスープが運ばれた。全てバジーレ産の食材を使った料理を談笑をしながらも平らげて、プルデンテこそは隣のファビオラの介助も熟す。まだ辿々しい手つきの彼女が食べやすいように手を加えながら、八歳にして完璧な食事マナーを見せるテオドラにも目を向けた。零すこともせずに綺麗に食べる姿に内心安堵する。
そのプルデンテのことを、ディニタが優しい眼差しを向けているとは気付けない。
「この領都に来る前に、二つほどの町に立ち寄った」
「こちらへの通達では、王都方面から第一の町のみに立ち寄ると聞いていましたが?」
「その第一の町の様子から、他の町も気になってな。山道を登った崖際の町に立ち寄った」
「あれは土地開発も済んでいない強固な障壁に守られただけの小さな町ですが」
「だからこそ、だ」
メインの肉料理をしっかりとした作りのナイフとフォークで力強く切り分けながら、ディニタは語る。視線を合わせなかったバジーレ辺境伯も、いつの間にか彼女と顔を合わせて会話をしていた。
「古くから常に外敵と戦っていたバジーレらしい砦のような町だった。それは第一の町も変わらずだが、敵国に獰猛な獣といった敵ばかりの土地では守りに徹することにはならず、自らが脅威に立ち向かうために日々鍛錬に勤しむのだろう。領軍の騎士と兵士の姿からも察することができた。民間人である農民も猟師も他の領地より遥かに逞しい。バジーレの者達は王国随一の鍛え抜かれた肉体を持つ者達だな」
ナイフで切り分けた大きめの一口分をディニタは口に入れるも、弾力から噛み砕くことができず、咀嚼し続ける。口が塞がった状態から、バジーレ辺境伯が言葉を漏らした。
「環境と戦争によって、我々は自身を鍛えることを義務付けられたようなものです」
「・・・ん・・・はぁ、確かに肉厚で噛み応えもある。肉汁も多くて美味いな・・・話の続きだが、隣国のビセンテ領がバジーレ領にとって一番の脅威であり、開拓を阻害していた要因だったが、彼らは二度とバジーレ領に侵攻することはない。心配することもなくなり、この土地を発展させることができる」
「不可侵条約は結びましたが、あちらが守るとは限りません。この地が王国に属する以前から侵略を繰り返していた敵対者です」
「安心しろ、隣国にはスプル、第二王女であるスプレンディドを派遣した。あちらの現在の国王とは非常に親しくしているようでね。スプレンディドも他国への外遊中に何度も招待状を受けて困って・・・うん、忙しくしていたよ」
二番目の姉の名前を耳にしたことで、プルデンテのナイフを持つ手の動きが止まる。
「スプレンディドさまって、どなた?」
「私たちにはムズカシイお話だから気にしないでいいよ」
長机を挟んで言葉を交わす娘達の声も聞こえたが、一旦ナイフを置き、ナプキンで口元を拭きながらも彼女は姉と義父の会話に集中する。
「第二王女殿下ですか?」
「ああ、国王に侵攻を受けて悲しいと訴えさせる。妹が嫁いだ土地だから心配だと言えば、あちらの国王は王命を下すだろうな。ビセンテの領主が従わなければ、彼らは反逆者として討たれるだろう」
二番目の姉スプレンディドとは、定期的に手紙や慶事での贈り物を渡し合っている。だが、十年前になる結婚式以来会っていない。バジーレ領に留まっているプルデンテと、友好の架け橋として世界を巡るスプレンディドでは再会など難しいとは分かる。
それでも久方振りに耳にした姉がが、敵国に再入国することを心配に思う。その気持ちは表情に浮かび、眉根を寄せたプルデンテは唇を開いた。
「スプレンディドお姉様はご無事でいらっしゃいますか?」
問いかければ、すぐさま彼女へと顔を向けたディニタは穏やかに微笑む。目に入っただろうファビオラがうっとりした声を漏らしていた。
「隣国が我が国の大使であるスプレンディドを害すれば、それは宣戦布告と同義語だ。何よりあの子もただ蹂躙されるだけでは終わらない。プルも知っているだろう。お前も含めた王家の姫君達を力ずくで従わせようなどできない、とね・・・スプレンディド第二王女自身も戦士であり、何より我が国最高の騎士と従軍経験がある戦術に優れた文官、三十人に及ぶ精鋭の護衛騎士を付けている。万が一宣戦布告を受けたとしたら、その場で隣国の国王を下して一目散に戻ってくるさ」
「危害を受けると見越した人員配置ですな」
バジーレ辺境伯の声にディニタは笑みを零すと頷いた。
二番目の姉スプレンディドのことは心配に思うままだが、姉達の予測と備えに多少は癒えた。プルデンテは小さく息を漏らして、口元に笑みを浮かべる。
「相変わらず、お姉様達には敵いませんね」
「当然だろう?私とスプルはお前の姉だぞ」
ディニタは先程よりも小さく切り分けた肉を口に入れると、それでも中々噛み砕けずにいて、暫く言葉を発することができなかった。王子のエーリオは母親の言葉や会話を聞いていたようで、適度に頷き、視線を向けながらも黙々と料理を食べていた。口を挟むべきではないと控えていたテオドラ。ファビオラは姉の姿を見て倣い、美味しそうに食べるだけだった。
アストゥートも静観に徹していると思い、プルデンテは視線を向る。そうすれば金色の瞳の目と合った。真っ直ぐにプルデンテを見つめていたようで、目線が合っても瞬き少なく、ひたすら見つめてくる。様子がおかしい彼を不思議に思い、彼女は首を傾げる。
そうすれば、アストゥートは瞬きのあとに視線を落とした。手を付けていなかった肉料理を食べ始める。
「バジーレ領を攻め落とさんとする者達は首輪を付けられた。この地は安全になっただろう。二つの町、領都を視察したことで辺境の領地とは思えない文化水準も有しているとも分かった。豊富な鉱物資源とその加工技術によるものか。開拓が進めば、バジーレは王国第二の都市になるだろう」
明るい声色での発言だった。
プルデンテが顔を向ければ、肉料理を平らげたディニタは朗らかな顔をしている。その表情から食事にも満足感を得たと分かり、プルデンテは安心感を得た。
「ジジイが隠居したあとも、アストゥート殿とプルがこの地を盛り立てるだろう。であれば、役目を終えたジジイは王都に送ってくれないか?周辺国との和平が保たれて、私が戦場に立つことも皆無になった。体が鈍っていると思っていてね、またジジイに鍛えてもらいたい。以前よりも、それこそどちらかが地に伏すまで鍛錬をしたいものだ」
肉料理の皿は片付けられてデザートが運ばれる。甘味は要らないと断ったバジーレ辺境伯とアストゥート以外の席に置かれた。パンナコッタは透明なガラスの器に盛られている。その器が窓ガラスから注ぐ太陽の光によって輝き、家族の前のように姿勢を崩したディニタは指先で撫でた。
「はぁ、あ、いやご冗談、いえ・・・私は生涯現役を貫くつもりです。死ぬときはバジーレの平原で馬を駆るときだと決めていますので」
「そのまま落馬して顔面叩き付けたお前の死体の始末をする従者の気持ちを考えろ。足腰も弱っているだろうから、やはり私の指導者として招集してやろう」
「足腰が弱っていると認識されているのなら、是非止めていただきたく存じますが?」
皆がデザートを食べる最中。アストゥートは多少首を動かす程度で、横目でディニタを見ていた。プルデンテは夫の所作を視界に捉える。不敬と断じられれば言い逃れのできない態度ではあるが、見られた本人は口元に笑みを浮かべていた。
「父が引退を宣言した折に指導役ついて考慮します」
「考慮もするな、馬鹿者」
「遅かれ早かれ、バジーレ家の当主はアストゥート殿だ。義弟である貴殿の采配に期待しよう」
一瞬、ディニタが目を細めた。探るような眼差しだとプルデンテすら気付く。何かしら思うことがあるのかもしれないと思い、もし気に入らないとしたら言葉を送るべきかと彼女は考えて。
ディニタ自身の声によって思考は妨げられた。
「バジーレ領は食材も豊富のようだ。土地を覆う山林から獣と山菜、面積の劣る平野部でも土地を活用して多種多様な作物を栽培している。これらは全ての領民が食べられているのか?」
「無論です、戦時であっても飢えることがないように農耕地を改良し、力を付けるために山の獣を狩って暮らしています」
「やはりバジーレ辺境伯領は強いな。武力に食料、鉱山資源に加工技術。この地が王国の一部であることは我らにとって幸いだ。プルも、これからは平穏に暮らせると確信が持てる」
食後の紅茶も飲み干したディニタは腰を上げた。彼女は静観に徹していたエーリオの手を取る。会食の終わりに、プルデンテも席を立ち、椅子から降りようとするファビオラの介助をする。
「食休みとしようか・・・プル」
「はい、いかがしました」
本日は言葉の少ないアストゥートが、席から立つテオドラを待つことで佇んでいる。その姿を視界に捉えていれば、ディニタに呼ばれた。プルデンテは顔を向けて、すでに扉の前にいる姉と甥の姿を目に映す。
「もう一人、ヴェネリオという子がいるだろう?できれば顔が見たい。上の子達はエーリオの相手をしてあげてくれないか?年齢から今まで王城の外には出せなくてね。いい機会だと思うのだが、どうだろう?」
「私はよろしいと思います・・・どうかしら?」
娘達に顔を向けて伺えば、テオドラはすぐに了承と声を上げ、ファビオラはディニタが気になるせいで渋々ながら頷いてくれた。
「私の孫も王子殿下も幼いので、大人の目があったほうがよろしいでしょう。王女殿下が連れ立った護衛騎士達と我がバジーレ家所属の騎士達の両方を配置させていただきます」
「ジジイ、お前も見守れ。少しは働いたほうがいい」
「私は常に職務に就いている状態ですが!?」
ディニタの軽口に声を張り上げるバジーレ辺境伯。文字通り肩を怒らせた彼は先行と真っ先に退室し、近付いて身を寄せ合った子供達が続く。プルデンテは姉に連れ立つためにその場で控えていた。
ディニタは彼女を迎えようとしてか、自ら歩み寄ってくる。だが、アストゥートの前を横切ると、一度立ち止まり、彼へと目線を向けて何かしら言っていた。
何事かとプルデンテが問おうとするも、すぐに振り返った姉は微笑みを浮かべている。
「では、行こうか。私のプル」
その場で手を差し出された。長机を回り込んで近付き、その手に触れれば緩い力で握られて、心赴くままのディニタによって食堂室から出された。
「あれほど娘達が愛らしいのだから、末の男の子だったか?その子も可愛いのだろう?」
「・・・ええ、とても」
アストゥートに何を言ったのか言及すべきかと考える。なぜなら、常に側にいるはずの彼が追ってこないのだから。
「なあ、私のプル」
「はい、いかがしました?」
だが、問おうと口を開いても、振り返って名前を呼ぶ姉に遮られてしまう。
「身の安全のために与えたネックレスは『使った』のだろう?何に使用したのか、大体察している。お前の身を案じて新しいものを渡そう。私は危険が去ったとは思っていないからな」
「・・・いえ」
真剣な表情を浮かべたディニタは何を脅威としているのか。
はっきりとは分からないが、プルデンテには否定ができる。自身を害する者はいない。アストゥートが近付くことすら許さず、何よりも彼を信頼しているのだから。
「もう私に毒など必要ありません。私にはアストゥートがいますから」
「・・・そうか」
ディニタは前を向く。「早く甥の顔が見たい」と言って、プルデンテに優しい笑みを見せる。
スプレンディドって人名ではないので、多分。綴りから愛称どうなるんだと思いながら書きました。ちまみに最初はスプラでしたが、これは駄目だと断念。




