毒使い
走ることでの息苦しさ、足の痛み。それに加えて後ろから追ってくる男への恐怖心。どこまでも続くような煉瓦造りの通路は、照明が付いていないことで闇に続いていると錯覚をさせる。絶望に続く道であると錯覚させた。
開けた胸元を布地を掴んで隠しながら走るプルデンテは、自身の呼吸音と心臓の音。走ることでの振動を強く感じていた。
一直線と続く通路で、まだレジェスは追ってきているのか。不意に気になって振り返れば、手槍を手にした姿が見える。憤怒と歪んだ表情から、彼に捕まってしまえば悲惨な最期を迎えるとも自覚できた。
「止まれ、クソアマ!!」
怒声が響く。空気すら振動する声量に彼女の鼓動が跳ね上がる。悪魔という伝説に記された者は、レジェスのような者だっただろうと納得しながら、懸命に走り続けた。
「はぁっ、はぁ・・・あ、階段」
ただ逃げることだけを考えていたプルデンテには、眼前にある階段がレジェスに引き摺られながら上ったものか分からない。塔内の構造を把握できるほど余裕はない。
ここで階段を降りれば、出口に近付けるとは思う。しかし、駆け上がってくる足音が聞こえたことで下りてはいけないと理解した。彼女は階段を上る。袋小路だとしても、迫りくるレジェス達に一人立ち向かう力はない。むざむざ命を晒すことになると、息せき切って階段の段差を上っていく。
「上階はどうなっている!」
「こちらでも領都の監視をすべく扉の施錠はしてありません。障壁上部に出られたら」
「馬鹿が!ベラベラしゃべろとは言っていないだろが!!」
階下から聞こえる問答はレジェスの怒鳴り声のあと、苦痛と呻く声と共に終わった。
彼は激昂から部下にすら危害を加えている分かり、プルデンテの足は止まらない。疲れたと苦しいと立ち止まれば、怒れるレジェスによって残虐に殺される。
(でも、この塔は障壁と繋がっていると分かったわ)
更に一層上り、階段を駆け上がる足音を身近に感じながら、足を止めずにまた一層上る。
小麦挽きと外部の監視を兼ねた塔は、確かに領都を覆う障壁と隣接していた。自身の役割から城塞からあまり外出をしなかったことが仇になっていたが、施設の立地を考えれば納得できる。
(最上階には障壁上部に出る扉がある。そこに辿り着けば)
喉も肺も痛みを発していた。苦しいと訴えている。足は重く、足の裏も膝も痛い。三層も階段を駆け上がって走ったのは人生で初めてだった。また一歩と足を踏み出した瞬間、膝が電流が走ったかのような痛みを発し、咄嗟に石造りの欄干に捕まって、足を止めてしまった。胸が張り裂けそうなほどの鼓動を感じながら、息を整えるために深呼吸をする。
「逃がすと思ってんのか、プルデンテ!!」
非常に近くから聞こえたレジェスの声と視界の端に映った人影に、再び彼女は走らざるを得なかった。よろけながらも段差を上り、痛みに耐えて進み続ける。
右手の内に包んだサファイアのペンダントトップを支えに、満身創痍になりながらも足を踏み出し続ける。
「ここが、さい、じょうかい・・・」
階段の終わり、小部屋程度の広さの空間に出る。最上階は風通しか、日光を入れるためか、小窓が付いていた。壁際には木箱や籠などが寄せて積み上がっている。
それらを視界に捉えるプルデンテの正面に鉄製の黒い扉があった。あれこそが障壁上部に出る扉だと、彼女は迫りくる足音にも背中を押されて飛び付いた。
心境から慌てながらもドアノブを掴み、一度引いて、開かないと分かれば身を寄せて全身全霊で押す。
鉄の扉は軋んだ音を立てながらもゆっくりと開き、隙間から吹き込む風がプルデンテの肌を撫で、灰色の瞳が澄んだ青空を映す。
「ああ、ほんとうに、繋がって」
「プルデンテ!!」
背後から聞こえた呼び声に彼女は体を跳ね上げた。力を加え続けて扉を押し開くと、飛び出して駆け出す。
障壁の上部を明らかに疲弊しながら走り続け、辺りを見渡す。塔から数キロメートル先にバジーレの兵士達が守る門が見えた。どの方角の門だろうかと、彼女は領都に目を向ける。
「はぁ・・・はぁ・・・あぁ」
緑地や家屋の合間の道路、やや遠くに見える広場。そして、東門だけは人がひしめくことで分かる。そこかしこで兵士達が戦っていた。鎧の色と僅かに見える意匠から、バジーレ軍とビセンテ軍が刃を交えていると分かり、騎馬兵同士は馬で駆けながら戦っていた。領都は戦場となっている。バジーレ軍の兵士達は土で汚れているようで、先程レジェスに報告した部下の言う通り土砂崩れから復帰した者達、つまりはアストゥートが引き連れた二百の兵士達だろう。事実を目にしたことで安堵を得る。それはアストゥートが帰還したという証左と、領都を蹂躙するビセンテ軍が打ち倒されるという希望そのものだった。
プルデンテの灰色の瞳は人数の多さと倒壊から東門と分かる門扉へ向かう。守備部隊には他の門からの加勢もあって、石壁が崩れた穴から侵入しようとするビセンテの兵士達を押し留めていた。領都内にいるビセンテの兵は、レジェスと同様に力ずくで侵入した者達だろう。そんな彼らも、追撃をするバジーレ軍に押されていると分かる。
視線を動かして丁度、一人のバジーレの兵がビセンテの兵を鍔迫り合いから斬首した。弧を描いて舞う首を目で追えば、黒鹿毛の馬を走らせる騎士が見える。その鎧の様相と黒い髪の色にプルデンテの灰色の瞳は釘付けになった。馬を駆る騎士の瞳の色こそは距離から分からなかったが、それでもアストゥートであると障壁の欄干に身を寄せる。
「アストゥート!!」
千人を超す領都の人々の前で発した大声と同じ声量で名前を読んだ。駆け寄るように距離を詰めてくる騎士の顔が動く。プルデンテに向けて顔を上げた。まだ性別も分からないほどの距離。声が届いたとも分からない。それでも、間違いなくアストゥートだと信じる騎士が、彼女を目指すように一直線で駆け寄ってくる。
「アス」
「余所見するなんざ、随分と余裕だな」
レジェスの声、息を荒げた苦しそうな声色を耳にした瞬間、プルデンテの足に衝撃が走った。細かな硬い物が剥き出しの足に当たる。
息を詰まらせながら視線を落とせば、左足から数ミリほどしか離れていない石の床に手槍が突き刺さっていた。
それは当たらなかったではなく、威嚇のための投擲ゆえに当てなかっただけ。技量の高さを理解しながらも、視線を自身の足元から上げて、真っ直ぐにレジェスに向ける。
彼は黒いインナーを張り詰めるほどの胸板を呼吸で上下にさせながら、投擲で振り下ろした手をそのままに佇んでいた。眉を寄せ、食いしばった歯を見せることで忌々しいと表情で表していた。
「もう逃さないぞ・・・諦めて、こっちに来い。今なら許してやる」
レジェスに従属しているわけではないのに、何の許しを得ると言うのか。内心に浮かんだ思いが染み渡っていく。
恐れはある。今も貞操と命の危機に晒されていると、プルデンテには分かっている。しかし、眼下に広がる光景と何よりもアストゥートがいる。怪我の有無こそは分からないが、駆け付けてくれている。
破られた胸元の布地を握り締めることで寄せながら、彼女はレジェスへと体ごと振り返った。
「私が貴方に許しを得る必要はありません。私は罪人ではなく、貴方こそ罪人です。レジェス・ビセンテ。国家間の関係悪化も招く侵略戦争を仕掛けたにも拘らず、ご自身を至上と考えていらっしゃるから犯した罪を理解していない。もしくは罪ではないと判断を下した。愚か者な罪人」
「・・・ごちゃごちゃと偉そうに言いやがって。助けが来たと思って気が大きくなっているみたいだが、俺はお前を誰にも渡さない」
彼は躊躇いなく近付いてくる。プルデンテが非力な女だからこそ、力任せに従えられると考えているようだった。
「数の差で俺の連れてきたビセンテの小隊は全滅するだろう。領都の攻略は絶望的だ。だから、せめてお前だけは・・・人質にすれば、アストゥートは俺に手を出せない。お前が嫌だと暴れても力で俺には勝てないんだ。痛い目を見たくないなら大人しくしろよ・・・無事、ビセンテ領に辿り着くまで、お前は俺を守る盾にする。それが奴隷の役割だ」
荒い呼吸を繰り返して言いながらも、レジェスの視線は何度か障壁内の街並みに向かう。早馬で駆け寄るアストゥートを警戒しているようだった。
そう理解しながらも、プルデンテは胸元の布地を掴み寄せていた手を離した。ドレスは腹部まで引き裂かれたことで、肌を撫でるような風であっても白い肌を晒してしまう。
近付いてくる彼の目にも映っただろう。視線は下がり、布地の合間から見える胸元を凝視していた。
「私は貴方の奴隷ではありません。バジーレ辺境伯子息、次期辺境伯であるアストゥート・バジーレの妻です。ビセンテ伯爵家の貴方とは明確な敵対者。バジーレを害する者に、私が頭を垂れると思っていますか?」
「黙れ、しゃべるな。お前は俺に従ってればいい。俺の奴隷だ、俺のものだ・・・お前を手に入れれば、バジーレも王国も俺に屈したことになるんだ!」
骨ばった大きな手。筋肉が浮き出た太い腕から伸ばされたその手が、プルデンテを捕らえようと迫ってくる。
彼女は視線を外した。足元に刺さる手槍と、逞しい男に迫られることで身が竦み、せめて視線だけはそらそうとした。レジェスにはそのように映っただろう。
口元を緩めた彼は、にやついた表情でプルデンテのドレスの肩口を掴んだ。引き寄せることで絹が裂ける音が立ち、更に滑らかな白い肌を剥き出しにさせる。レジェスの視線を釘付けにさせていた。
「ああ、そうだ。大人しくしていなよ。ビセンテに帰ったらお前で遊んで鬱憤を」
欲望を口にする男に対して、プルデンテは力なく垂らしていた右腕を動かす。その右手の内に見える煌めきを灰色の瞳に捉えながら、レジェスの分厚い胸筋の奥にある心臓に目掛けて叩きつけようとした。
「っ!?お前!!」
「ああっ」
しかし、彼の大きな手に素早く右手を掴まれると、捻られた。手首から走る痛みに苦悶の声と表情を浮かべる。レジェスは彼女の顔を眺めつつ、手の内にあるものを捉えていた。
「また仕込み針かよ。そんな細いもので俺が殺せると思って、ぐぅっ!?」
一歩と彼へと踏み込み、膝を上げた。インナーだけの腹部に体重を乗せて叩き込む。
王女という存在に夢を見ているレジェスには、予想のつかない一撃だっただろう。元王女で今も貴族女性であるプルデンテが、足を上げるという下品な真似をするとは思わなかったと、油断していた様子からよく分かる。
痛みによって腕を捻る手の力も緩み、プルデンテは腕を引くことで逃れる。彼がよろけている隙に突進と身を寄せて、ペンダントトップの針を胸に刺そうと試みた。
「このっ、クソアマ!!」
「きゃあっ」
だが、逞しい腕で払われたことで石の床に落ちてしまう。打ち付けられた半身の痛みに悶えれば、レジェスは彼女の体を跨ぎ、腰の上に座った。
「はぁ・・・膝蹴りなんてするとはな。声はデケーし、足癖が悪いし、麗しいお姫様がすることじゃないな」
「ぅ、うぅっ」
徐々に力を加えられることで圧迫感が増し、腰骨が悲鳴を上げる。思わず苦痛の声を上げれば、彼はいやらしい笑みを浮かべた。
「品性っていうものを教えてやるよ、灰色の王女。お前は伯爵付きの奴隷になるんだからな、上品で従順な女になるように教育してやる」
レジェスの手がプルデンテの首に触れる。その大きな手に掴まれた瞬間、ゆっくりと締め付けられていく。
「ぅ、う・・・っ、ん・・・」
「苦しめるのは躾のためだ、殺しはしないから安心しなよ。気を失っても大丈夫だ、ちゃんと盾として使ってやる」
「っ・・・ぁ・・・ん・・・」
圧迫されたことで呼吸ができず、視界が霞み、意識が落ちようとしていた。
プルデンテは右手を握り締める。思わずでも、ついでもなく、意識を保つために強く握り締めて、その右手をレジェスの太腿に叩き付けた。
「うっ!?いってぇ!お前ぇ!!針か!!」
彼女の霞む視界には、激痛に険しい表情を浮かべたレジェス。首を絞める力も弱まり、プルデンテは咄嗟と手で薙ぎ払った。締め付ける力がなくなった瞬間、彼女は急いで酸素を取り込むために呼吸をする。
「はぁっ、はっ、げほっ・・・はー、はぁ、はぁっ・・・はぁ」
「お前ぇ、あぁっ、あ?足が、感覚がおかし」
彼女は困惑する様子を、呼吸を繰り返すことで次第に鮮明になっていく視界に捉える。
「なんだ、足が痺れて?お前、俺に何を・・・」
レジェスはプルデンテの体を挟むように石の床に手を突いた。向かい合う顔には大粒の汗が浮かび、小刻みに震えている。
彼女はその様子を静観しつつ、太腿に叩き付けていた右手を離す。じんじんとした痛みを発する首を、右手の指でなぞれば。
「その、仕込み針のネックレス、石はサファイアじゃ、なかった」
薬指と小指で支えながら持っていたペンダントトップが彼の目に映ったらしい。違和感を口にする様に、彼女は呼吸で胸を上下にしながら答える。
「・・・いいえ、サファイアなどではありませんよ。これは銀細工の中にガラス瓶が嵌め込まれていただけです。注入されていた青い液体を失ったことで、空になっただけ」
「ガラス、びん?注入?液、たい?」
困惑するレジェスの顔色は悪い。血の気が引いたのは、感情によるものではないとプルデンテには分かっている。
「私は自身の身分というものを幼い頃から学んでいます。私一人の身で国勢が左右されるとも理解しています。この身が敵国に渡れば、それだけでも我が王国は不利になる。国防の担い手である名家に嫁いだとしても、この身が危険に晒されたのならば守らなければなりません。だから、これは非力な私が唯一対抗できる手段」
ガラス瓶のペンダントトップをレジェスの眼前に掲げる。
「ビセンテの内通者であった元守備隊長は、毒を用いてバジーレ家を害した。それは親の世代、いえ、代々毒使いだったかもしれませんね。バジーレの山間部にある致死性の高い毒の花に目を付けたのですもの、毒に精通していたのでしょう。分かりますわ、私の家もそうですから」
「それ、まさか」
「ええ、非力な女でも使える護身用の毒薬です。王家が古より用いていた麻痺毒で、心臓に刺せば機能を麻痺させて心停止となります」
「は・・・」
ペンダントトップの中央、宝石のようなカットが施されていた瓶の側面を、彼の見開いた目が凝視する。プルデンテは呆気に取られた様子に小さく息を吐くと、疲労を感じたことで掲げていた右手を石の床に落とした。
「最初こそ、交友などなかったバジーレ家の内に入ることで虐げられ、もし命を狙われたのならば使用するだろうと思ってました。しかし、アストゥートが私を受け入れてくださったから、バジーレ家の皆様は私の脅威とならなかったのです。このネックレスを使用する日はないと保管していましたが、貴方のような方が無謀にも野心を見せた。護身のために身に着けていて良かった。ネックレスも無事役割を果たせたというもの」
プルデンテは身動ぎ、体の向きを変えるとレジェスの下から這い出た。痛みを訴える体を鞭打ち、身を離すために這いずりながらも徐々に距離を空ける。石造りの欄干の側まで移動すると、座ったまま振り返る。
彼は、茶色の瞳の目を丸くしてプルデンテを凝視している。驚きを得ているのか、絶望を得ているのか。彼女の言葉に理解を示せていないといった様子だった。
(・・・あの麻痺毒は心臓こそに打てば、数秒で死に至らしめるけれど、私は足に打つことしかできなかった。心臓までは遠い。下半身は動かないとしても、絶命には至らないかもしれない)
レジェスの胸は呼吸で上下している。毒の量と刺した位置からして、効果は薄いと感じる。
「ふざけ、んなよ」
実際、やっと理解に及んだ彼の表情は怒りで歪んだ。青白い顔で、震えた声を発して、対面しているプルデンテを鋭く睨み付ける。
「毒の成分は知らないが、こんなものが、俺に効くとおもってんのか?あぁ?俺だって、僅かにだが耐性はある。お前は、心臓を刺せばと言ったな?心臓から離れた、位置を刺せばどうなるんだ?血管から伝わったとして、効くのか?バジーレの毒薬みたいに、体組織を壊死させるものじゃない。機能を低下させる、麻痺の毒、なんだろう?」
レジェスの腕が動く。悔しそうに歯を食いしばりながら、プルデンテに迫ってくる。麻痺によって下半身が動かないにも拘らず、迫ろうと上体を捩りながら近付いてくる。
その必死の様子に、彼女は離れようと体を動かすが、足に痛みを感じた。床に落とされた際に怪我をしたようで、動かそうとすれば、内から疼くような激しい痛みが電流のように走る。
「王家の毒っていうのは、ちゃちだな。殺意が足りない。そんな小さな針なんだ、直接心臓に、打たなければ意味がなさそうだ・・・なあ、プルデンテ」
這いずって後退しようにも、欄干が背中に当たる。それ以上は動くことができなかった。
「お前さえ、いればアストゥートは、俺に手出しができない。離さないからな、絶対に、お前を」
「うぅっ!?」
レジェスの大きな手がプルデンテの右足首を掴んだ。途端に、痛みが全身を駆け巡り、彼女を呻き声を上げる。足首の骨に亀裂が入っている。そのようなことを痛みで霞んだ意識の中で考えて。
足首を掴むレジェスの手によって、その体は床を擦って引かれる。彼の下に戻された。
「・・・」
だが、突如と真顔となったレジェスは上体を起こし、床に突き刺さっていた手槍を引き抜いた。
だが、しかしその手槍は彼の手の甲を貫いた矢により、床に落ちる。
「ぐっ、くそぉ!」
毒によって下半身が麻痺した状態では反転も叶わず、彼は首を捻って顔だけで振り向いた。
「寄るんじゃ、ね」
張り上げた声は途中で途切れる。プルデンテは風切音を耳にする。呻き声を上げたレジェスは、衝撃を受けたと飛んで床に倒れた。
「・・・」
突然のことに驚きながらも、彼女は上体を起き上がらせる。動きに足首から痛みが走り、苦痛と顔を歪めながら、その灰色の瞳に映した。
弓を構えたアストゥートの姿。細やかな細工がある鋼鉄の鎧を土で汚し、顔も僅かに汚れているが、彼はしっかりと地に足を付いていた。はっきりと生きている姿を見せてくれた。
彼はプルデンテの姿を目にしたことで、射殺すような鋭い眼差しを止め、曇る表情を浮かべながら素早く駆け寄ってくる。
彼女は両手を広げた。愛しい人の姿に胸に込み上げてくるものを感じながら、視界を歪ませながら、アストゥートへと手を伸ばして。
「プル!!」
安心感を得る温もりに包まれたことで、抑え込んでいた感情が涙となって流れ落ちていく。嗚咽を漏らして震えるプルデンテを、アストゥートは優しい手付きで撫でてくれた。




