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広場での演説

石畳の道を走り抜ければ、先行く護衛騎士の馬が速度を落としていく。プルデンテも自身の馬の手綱を操作して、ゆっくりと速度を落としていった。

家屋の合間を進み、商家の並ぶ商店街の前にあるもの、道路の石とは違う色味の石畳が敷き詰められた広場が見えてくる。様々な色味の石を組み合わせることで模様が描かれているが、現在は集った領都の人々によって全てを目にすることはできない。警ら部隊の兵士達が間隔を明けて警備に付くその広場全体を覆い尽くすほどの人数が集っていた。強固な鎧を身に着けている彼女は思わず息を呑む。

大衆の前に出て話すなど初めてのことだった。王女であったときは、それこそアストゥートも受けた騎士の叙勲式に数度参加してい。つまりは数十人にも及ぶ騎士達の前に立ったことはあるが、それは父親である国王の側に控えていただけのこと。新年の参賀でも、王都の民の前に出たことはあれど、王家の一人として国王夫妻と姉達と並び立っていただけ。ただその場に在るだけだった王女に過ぎなかった。

現在の領都の守り手として領主代理という立場を背負い、大衆の前に立つとは明らかに違う。広場に集まった人々は、プルデンテ自身を待っている。人々の意識も視線も、全て彼女ただ一人に向かうのだから。


「・・・・」


恐れがないわけではない。

領都の人口は、バジーレ辺境伯が引き連れていった本隊の五百人を差し引いたとしても二千人超はいる。その全員が広場にいるわけではないが、千人近くはいると思われた。

彼らの浮かべる表情から、不安、不信、怒りといった感情があると分かる。発言次第では、言葉選びを間違えれば、暴動に発展する可能性がある。


(・・・私は引くことなどしない)


護衛騎士達の馬が停止し、プルデンテの栗毛の馬も足を止めた。彼女達が次々に下馬する様子、着地で石畳を叩くような音に、プルデンテも小さく深呼吸をした。続いて下馬をする。着地に小さな衝撃を受け、ホッと息を漏らす。一番年若い護衛騎士と赤髪の護衛騎士が馬達の手綱を掴むことで抑え、近場の宿の馬繋へと運んでいった。

見送りながらも、残った逞しい体躯の護衛騎士と共に広場に足を進める。


「壇上の前には規制線と警備の兵を配置しております。民が若奥様、いえ、プルデンテ様に近付くことはできません」


「分かりました・・・ならば、声は張り上げなければいけませんね」


プルデンテは視線を感じた。広場の群衆に顔を向ければ、何名かが彼女に気付いて凝視をしている。その内、声を上げた者によって次々に気付かれ始めた。

舗装された道の移動に合わせて動く真っ直ぐな視線。驚きから丸くなった目と呆然とした顔。眉を寄せた険しい顔もあった。

人々はプルデンテが何者であるか、はっきりと分かっていない。最初こそ伝説にある優美な白銀の鎧の戦乙女が現れたと不思議に、怪訝に思うだけだった。しかし、彼女が近付くことで細工のある兜の下に見える髪の毛の色、瞳の色に戦乙女が誰なのか気付いた。


「灰色の王女だ」


「馬鹿、違うだろ?今はバジーレ家の方、跡取りのアストゥート様の奥様だよ。奥様が現状のお話してくれるみたいだ」


「じゃあ、やっぱり演説をするのはあの人?」


「綺麗なだけの女だろ。領都にいるバジーレ軍の総指揮官があれで大丈夫なのか?あれはバジーレ家の子供を産むための女だろ?」


「あんな弱そうな女じゃ頼りにはならねぇな。領都の包囲だって、ちまちま攻撃してるだけじゃどうにもできねぇだろ。ああ、辺境伯とアストゥートはいつ帰ってくるんだよ」


密やかな会話ではあったが、何十もの人が口にすることで騒がしい音となる。その中で、声の通りやすい者の発言はプルデンテに聞こえていた。それだけでも領都の人々が抱える感情がみえた。

彼女の内にある恐れが膨れ上がる。ただ、足は止まらない。手を振って、その反動で足を前に出して、と思い続ける。動きに意識を向けることで、吹き出そうな感情から目を背けることはできていた。


「・・・」


人々の視線に追われながらも広場に辿り着き、低い木の柵による規制線と警備の兵達の後ろを進み、組まれた木の階段を上る。護衛騎士達は控えさせて、ただ一人、木組みの壇上へと姿を現した。数百にも及ぶ声は唸りが渦巻いているように聞こえ、足が止まりそうになる。

だが、立ち止まり、駆け出して逃げるなど出来なかった。真っ直ぐ歩き進んで壇上の中央に立つと、人々へと体ごと向きを変える。何百人の領都の人々。既に千人近く、今まさにプルデンテの姿を捉えた者達も加わっていくことで、数は更に増えていく。


(王都よりも人口は少なくとも、皆様の視線は私に向かっている。私を見定めようとしている)


集まっている人々の全員がプルデンテだけを見ていた。決して明るくない表情、暗い感情を抱えて見ていると、向かい合うことでより実感する。ただ、その後方に広がるようにある街並み、障壁も彼女の視界に映っていた。

今もなお、領都を守るべく戦う者達。オルサコリーナ将軍の率いる部隊と守備隊の動きも、プルデンテの目にはよく見えている。彼らは彼女と共に、非力な彼女の代わりとして領都のために力を奮っていた。

音として届いてはいないが、広場の後ろにいる人々には聞こえているらしい。時折振り返り、身を寄せ合う者達もいる。よく見える目を持つプルデンテには全てが映っていた。


「おい、いつ演説が始まるんだよ」


「棒立ちじゃねぇか、口が話せないのか?」


「何も言わないのなら、こんな招集みたいなことしないでほしいわ」


悪意のある声色の言葉が耳に届いた。その発言の根幹には、恐怖の感情があるとプルデンテは気付いている。

彼女はゆっくりと息を吸い、顎を僅かに上げて唇を開く。


「静粛に!どうか!私の声を聞いていただきたく!!」


鎧を纏っていても、むしろ女性の曲線を強調するデザインの鎧だからこそ、容姿だけの女だと思われていたのだろう。

その体躯からは想像だにしなかった響き渡る大声に人々は驚き、言葉を失うことで静まり返る。


「私の名はプルデンテ・バジーレ!!我がバジーレの領主オルランド・バジーレ辺境伯より領主代理を賜り、この地の守護を任命された者です!!現在、我がバジーレの領都は古代からの仇敵であるビセンテにより侵攻を受けています!!皆様の祖先が守り続け、命を繋げていったこの地を奪われようとしているのです!!」


僅かな間を空けて、言葉の意味を理解した人々はどよめく。領主代理から発せられた言葉から、抱えていた不安が真実だと分かり、恐れ慄いていた。

口元を手で覆う者、驚愕とした表情を隠すように視線を落とす者、張り詰めた顔を向かい合わせる者達など、誰もが衝撃を受けている。間近まで迫っている侵略者に対して恐怖を感じていた。


「突如、領都の四つの門を閉ざして籠城となったことで、皆様は多大な不安とバジーレ家に対する不信感を抱かれたでしょう!しかし!それはこの領都と皆様の生命を守るためのこと!侵略を繰り返すビセンテにこの地を踏ませれば、略奪と殺戮、例え生存できたとしても隷属を強いられると歴史が示しています!ですから、私は領主代理として、バジーレの要たるこの領都を死守しなければなりません!」


ざわめきは強くなる。プルデンテの言葉こそかき消すような声量はないが、誰もが何かしら言っていた。彼女に険しい顔を向けながら、今にも泣きそうな顔をしながら、真顔で見つめながら、口々に言葉にしている。

千人もの呟きであるため、その一言一句は聞き取れない。ただ、恐怖や不信感、戸惑いを言葉にしていると、そのざわめきの中から僅かに聞き取れたことで理解できた。


「どうして?」


「ビセンテに殺される」


「領主様はどうしたんだ?」


「声がでかいだけの女が地位を得たことで勝手に決めやがった」


プルデンテに対する負の感情を隠さない言葉も無数の声の中から拾ってしまったが、彼女は顔を下げずに、ひたすら人々と向かい合うように見つめる。

そして、再び息を吸い込むことで大きく口を開いた。


「皆様の抱える不安、恐怖、怒りは凄まじいのだと理解しています!領都を囲う障壁では現在もオルサコリーナ将軍の部隊と四方の守備隊によって戦闘が行われている!破壊音、叫び声、刃を交える音、矢が風を切る音すら聞こえているはずです!戦場の中心にこの領都があり、生命を脅かされていると自覚されているでしょう!!それは正しい認識であり、だからこそ領都に残った兵士の方々が戦っているのです!!この地に住まうあなた方を守るべく、命懸けでビセンテ軍と応戦しているのです!!」


後方の人々の半数が後ろを振り返る。プルデンテの言葉によって振り返り、身を震わせて、隣り合う者と寄り添っていた。


「私は領主代理として、総指揮官として力のない女ではありますが、領都を守る剣となって戦う戦士達を信じ、この身を託しています!!ですから、どうか皆様も命懸けで戦う方々を信じてください!!感情が抑えきれなくとも、どうか、同じバジーレを故郷とする者として耐え忍び、彼らの勝利を願ってください!!」


彼女が語った相手は民間人。職人や商人、農民達。家事ごとをする女性や子供。戦う力のない人々。

そんな彼らを徴兵するつもりはなく、プルデンテの意思に従わせるつもりはない。ただ、同郷として心同じく在ってほしいと願っただけだった。

ざわめきは更に強くなる。密やかな声でもそれが千人を超えれば、小声とはならない。振動になって響き渡っていく。見える顔色、表情から全てが好意的に捉えてくれているとは分からない。人は千差万別。思想や意思、感情は人それぞれなのだから。

無数の視線、無数の声。一人壇上に立つプルデンテは一身に受けることで心が苦しくなっていた。自身の意思は届いたのか、間違った文言を言ってはないか、信用を得られたか。

脳裏に浮かぶ不安に、心臓が締め付けられるような痛みを感じ、胸焼けのような感覚を得て、足が、体が震えようとする。

ただ、彼女は決して顔を下に向けず、目をそらさず、背筋を伸ばして千人以上の人々と向かい合っていた。それが誠実であると体現するために、一歩も退かずに佇んでいる。


「部外者が同郷の人間の振りをするんじゃねーよ!!」


ざわめきが少し収まりかけたとき、低い男の声が広場に響き渡った。

誰の声かは分からない。向かい合っていた人々も発言者を探しているようで、視線を彷徨わせていた。中には首すら回す者もいる。

プルデンテも反射的に視線で発言者を探し、壇上の下にいる警ら隊長が警戒と身構えた姿を捉えた。警ら部隊の兵士達も、視線内に収めている者は広場の人々から探し出そうと顔を向けている。


「何が同郷だ!お前は灰色の王女!王都生まれだろう!!遠い王都とバジーレ領じゃ人種が違うんだ!!別の部族なんだよ!!」


「領主の息子に取り入って権利を得た異郷の女が何を言ってるの!!」


別の男の怒鳴り声のあとに女の声も続き、人々は騒ぎ始める。明確な悪意のある言葉が複数もプルデンテに向けられた。そうして、彼女も含めて警ら部隊が発言者を探す最中。


「無能な灰色の王女が何でバジーレ家の代表をしているんだ!お前が馬鹿だからビセンテ軍とまともな交渉にならなかったんだろ!!」


「領都に来たビセンテ軍と戦闘になったのはそいつのせいよ!!あの女がビセンテの指揮官を怒らせた!!矢を受けたと糾弾してビセンテ軍に先制攻撃をしたの!!だからビセンテの連中は怒っているのよ!」


護衛騎士達が壇上の段差に足をかけ、プルデンテの前に立とうとしたが、彼女達に手をかざすことで制する。人々の中から悪意をぶつけてくる相手に、武力を見せれば刺激してしまうと思ったからだ。

警ら部隊の兵士の何人かが人々の中へと入っていく。発言者を捕らえようとしていたが、プルデンテは首を横に振った。引き締めていた唇を開いて声を張り上げる。


「警ら隊は動いてはいけません!武力行使で制圧しては」


「あの女!批判しただけの俺達を兵士を使って制圧するつもりだぞ!!自分の権威を侵害する奴は許さないんだ!!」


「武力による言論統制をするつもりか!!領主が不在の今、部外者の灰色の王女が独裁を敷くつもりなんだ!!」


複数の悪意ある大声によって、人々は恐れを口にする。不信だと険しい表情を見せた。プルデンテに恐怖する眼差しを向ける者もいる。

扇動者達によって人心が掻き乱されている。彼らのしっかりした強い言葉に、印象操作をされ始めていると彼女は感じ取った。

何か話さなければ。思考の時間がないことで、プルデンテは思い浮かんだ言葉をそのまま発した。


「武力制圧などいたしません!私は皆様に何も強要するつもりはなく、領都の軍によってビセンテ軍が打倒されることを信じていただきたいだけなのです!!」


「バジーレの人間じゃない奴の言葉なんて信じられるか!!辺境伯と旦那が戦場に行っている隙に領都の軍人共を懐柔しやがって!!」


「ああやって伝説の戦乙女の振りをして扇動している!いや、違う!!顔と体で誘惑したんだ!!それこそアストゥートのときと同じようにな!!」


様々な場所から声が上がる。どよめき、みじろぐ人々の合間で悪意を放っていく。根拠のない言葉でプルデンテを貶めて、領都を守る兵士達とアストゥートすら見下し、それが真実であるかのように暴言を吐いていた。

兵を用いずに止めなければ。人々の感情を逆撫でする行為はしてはならないとプルデンテは思う。ただ、突如と向けられた言葉の刃に感情を揺さぶられたせいで、考えることができていなかった。


「私の領都を守りたいという気持ちに兵士の皆様は賛同していただいただけです!!この領都が落ちればバジーレ領は掌握されたも同然!現在、山間の鉱山町に現れたビセンテ軍と交戦中の辺境伯閣下とアストゥートが」


「領都の門は固く閉ざされている!何の情報もないのに何で辺境伯がビセンテ軍と戦っていると分かるの!!あの女は妄想ではなしているわ!!根拠のないことを言っているから何もかもが信じられない!!」


「あ・・・」


どこかの女の言葉は正論ではあった。情報が一切入ってこない状況下で憶測を言葉にしてしまった。

僅かな躊躇いで声を失ったプルデンテ。悪意のある者達はその隙を逃さなかった。


「嘘つきだ!灰色の王女は嘘つきだ!!」


「王家の人間っていうのも嘘だわ!灰色の髪と瞳は王家の色じゃない!!あの女は昔の噂にあった王妃の愛人の子供なのよ!!」


プルデンテを貶めるべく、母である王妃を貶めた発言が聞こえた。以前、バジーレ辺境伯を惑わた噂を今の時代に言葉にする者がいる。その目は鋭さを増し、発言者を探し出そうと視線を動かす。


「王家の人間だって偽ってバジーレ家に取り入った!無能で頭も足りないからビセンテ軍と仲違いして戦闘状態になったんだ!!こいつこそ俺達を領都に閉じ込めている原因なんだよ!!」


「引きずり下ろせ!あの女こそ領都を滅ぼす元凶だ!!あいつがいるからレジェス・ビセンテは怒っている!!あいつのせいで私達は皆殺しにされる!!」


唇が震えるのは鋭い悪意に対する恐怖ではない。自分の不甲斐なさと、領都の人々に紛れてプルデンテを悪と誘導しようとするビセンテの内通者達への怒りに対するものだった。

唇を噛むなど品位を保つためにはしない。その震える唇は引き締めて、鼻から肺が膨れるほど空気を吸い込み、そして口から吐き出す。


「私は南門周辺の区画に住んでいるから聞こえたわ!ビセンテ軍の指揮官レジェス・ビセンテが、あの灰色の王女を引き渡せば私達を殺さないと言っていた!あいつを差し出せば他の人は無事に」


「侵略者の発言を信じると言うのですか!!」


大声を張り上げて轟かせる。

感情的になってはいけないと分かっていた。怒気を孕んだ声など以ての外だった。しかし複数人、声から十人はいる敵対者に押し負けてはいけなかった。

一瞬でも躊躇い、言葉を詰まらせれば、声高な者達によって惑わされた人々が扇動されてしまう。状況から不安定な彼らはプルデンテを悪と断じて、侵略者レジェスのために門を開いて引き入れてしまう。この領都は蹂躙されてしまうだろう。

彼女の見た目からは想像できない大声は動揺を与える。潜んでいる内通者達も言葉を詰まらせた。


「この領都を包囲するは敵国、それも古代期からバジーレに侵攻を繰り返していたビセンテの者!!明確な侵略者に対して私一人を差し出せば無事に済むとはあり得ない!!過去の記録が何よりの証左であり、現在も完全武装した軍を引き連れて包囲戦を仕掛けている!!この土地を狙い、人命を脅かすなど分かりきっている!!それを!!」


灰色の瞳はくすんだ印象を与えるため本来、鋭さなど感じない。しかし、兜の額飾りから覗くその瞳は太陽の光を受けて輝き、視線を受けた者は突き刺されたかのような強さを持っていた。

プルデンテは人々の中から扇動を図った内通者を探す。誰がなど、顔が分からないため探し当てるなどできないが、なぞるような視線に目の合った者は肩を跳ね上げた。二名ほど顔色の悪い男女を見つけた。視線を落とす様から後ろめたいものがあると分かる。


「侵略者レジェス・ビセンテを頼るなどおかしいにも程がある!!何故バジーレに属する者ならば未知の人物である者が信用に足ると発言をするのか!!私に対する嫌悪と不信によるものだとしても異常です!!」


一度息を漏らして、新たに捉えた内通者と思しき女を睨みながら、反論を与えずに口を開く。


「我がバジーレ辺境伯領には長い月日をかけてビセンテの者達が潜んでいる!!先祖の代よりこのバジーレに入り込み、陥落させる機を伺っていた内通者達!!現在、領都を含めた町村はビセンテの内通者であるその者達に襲撃を受けていた!!障壁の破壊工作、武装集団による強襲、誘拐事件!!それらは内通者によって内部からバジーレを落そうという行為です!!すでに数多くが捕縛され、捜査により事実であるとも証明されている!!」


悔しそうに顔を顰めている男が目に入った。体格の逞しさと衣服から鍛冶師ではないかとプルデンテは予測する。職人の中にも内通者がいたのかと落胆をしながら。


「レジェス・ビセンテに寄る意見を申す者はその内通者と思わざるを得ない!!人心を惑わして領都の団結を乱す者である!!私はこの地を守る者としてビセンテに寄る者を見過ごすわけにはいきません!!」


睨み合う職人の男が身を屈めた。その手に石が掴まれていると腕を振り上げられる前に気付いた。

駆け寄る足音、警ら隊長が兵士に命じる声が耳まで届く。プルデンテは怯むことなく、男を見つめている。石がどんなに鋭くとも、重かろうとも小さな抵抗に過ぎない。その程度のことで怯むなど、千人以上の人々にか弱い女だと断じられてしまう。

投げられたと視界に捉えてつつ、受ける前に赤い髪の護衛騎士がその身を盾にすることで守られた。。


「自分に反抗する奴は犯罪者扱いかよ!!独裁者が!!」


狼狽える人々の合間を警ら部隊の兵士達が掻き分けて進み、途中で立ち塞がった男女の何名かを捕らえる。悲鳴が上がり、抵抗と手を振り上げる内通者達。捕獲した兵士達の手から逃れようと身を揺らし、罵声を浴びせていた。

騒然とした広場。最後方にいる人々には何が起きているのか分からないだろう。プルデンテにもどよめきが聞こえるだけ。

鍛冶師として潜り込んでいた男との睨み合いは続いているからだ。三人の護衛騎士に守られた彼女から目をそらさず、驚く人々を掻き分けて迫ってくる。だが、男は規制線を越えることもできずに二人の兵士に捕らえられて、石畳の地面に押さえ付けられた。

領都の人々の中に紛れていた内通者達が次々に捕まっていく。それをプルデンテは壇上から静かに見下ろしていた。


しかし、間をあまり置かずに轟音が響き渡る。何かが崩れ落ちる音も響く。

驚きの悲鳴が無数に上がる最中、彼女のよく見える灰色の瞳の目に、東門から噴煙が立ち上がるのが見えた。

ここでお義父さんの名前が判明するっていうね。

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