領主代理
秋の季節ながら日差しは強く、窓から見える黄金の麦畑は輝くほどに照らされていた。光り輝く麦穂は、アストゥートの瞳の色を思わせる。プルデンテは声なく眺め、ただ揺り籠の中に寝かせたヴェネリオが声を上げれば、優しい微笑みを作って覗き込む。
アストゥートが出立して五日ほど。彼が父で領主のバジーレ辺境伯共々戦場に向かったことで、領主代理となったプルデンテは、彼らの帰還までバジーレ領の総責任者となった。
育児の合間に領地経営に関しての書類仕事を熟し、責任を持って領内の事業の采配や決定を行う。いまだに続く町村の絶え間ない襲撃報告を聞き、城塞の守護として残ってくれた将官の意見を聞きつつ、軍備の采配も行った。
この五日で、町村のいくつかはビセンテの内通者による襲撃を完全制圧し、強化した防衛力で安寧を保っている。何人かの人員が領都防衛のために派遣され、領地の心臓部である領都と城塞の兵力も補強はされた。
「オルサコリーナの町から、将軍自らこちらの守備に加わりたいという書状が届いています」
執務室に入ってきた将官から渡された封筒を開き、手紙の文章を読み込む。
オルサコリーナの警備隊長であり町長も兼任しているのは、あの狩猟祭で大熊と一騎打ちをしたバジーレ領軍の将軍だった。町内の内通者も掃討し、最近急増した熊の襲撃も討伐という形で制している。
老齢ながら筋肉逞しい巨漢の将軍ならば、非常に心強いとプルデンテは頷いた。
「オルサコリーナ将軍が町から離れても大丈夫でしょうか?」
ただ、町と同じ名を持つ将軍はバジーレ家同様に古くからある家柄。むしろ町が出来る際に、守護者だった彼らの名が付けられた。謂わばオルサコリーナの町の要であり、指導者不在となれば、その防衛は揺らぐのではないかという懸念が浮かび上がる。
彼女の問いに将官は首を横に振った。背筋を真っ直ぐに伸ばし、両手を腰の後ろに回した姿勢正しい彼は、そのままの体勢で言葉を返す。
「オルサコリーナ将軍は奥方も騎士を務め、お二人のお子様全てがオルサコリーナを守る騎士です。バジーレ辺境伯領でもっとも武力の集中している町だと軍内では暫し問題になってました。お子様の一人でもいいから他の町の守備に回すように言われていたほどです」
「まあ、そうなのですね。軍の内情には詳しくないので勉強になります」
「奥様が領主代理を務めるなど本来ならばあり得ぬこと。仕方のないことです・・・オルサコリーナ将軍のご子息方とご息女方は、出張という形で領内の町村を回っていましたが、此度の襲撃でご自身の町に戻られていた。ですから、オルサコリーナの町での襲撃、内通者の打倒は素早く終えられたのでしょう。強固な軍備の町の守備に関してはかの方々がいる。将軍がいらっしゃらなくとも問題ないでしょう」
プルデンテは頷きながら話を聞き入る。彼女はヴェネリオの眠る揺り籠から離れると、アストゥートの使っている机に近付いた。広げられたバジーレ領軍の軍備や人員配置の記された地図を、その灰色の瞳の目でなぞっていた。
「領都こそ軍備に対して些か不安があります。本来ならば、石組みの分厚い二重の障壁、障壁上部と塔による外部の監視、練度の高い守備部隊によって守られています。しかし、現在は人員の七割が北部に侵攻したビセンテ軍の殲滅に向かった。バジーレ辺境伯閣下とアストゥート様も指揮官として向かわれてしまっているのです。明確に守備力が落ちています。将軍格の方がいない状態は、好ましくありません」
「確かに、その通りですね」
軍のことを教えてくれる将官も、領都北の守備隊長という役職であり、その全体を掌握する立場にはない。彼の上の役職で経験のある者がいなければ、軍隊としての動きは遅れ、内部に乱れも生じるだろう。
「ただ、オルサコリーナ将軍は少々独断で動かれる方といいますが・・・自らの力で押し切るという考えの強い方です。単騎で挑まれる可能性もあるので、その時こそは奥様のご指示が重要となります。熊のような、いえ・・・大柄の老将軍に対する発言には躊躇いが生じるかと思いますが、どうか恐れずに。オルサコリーナ将軍が善良な方であることは間違いありませんので」
将官にプルデンテがどのように映っているのか。察することができる発言だった。
元王女で訓練などしたことのない女性らしい体格には、か弱さが見えるだろう。雰囲気と顔立ちから、守られてきた淑女という認識をされている。戦闘経験豊富で戦い方からも死を恐れない強靭な戦士に対峙するなど、酷だと思っているのかもしれない。多少曇った表情を浮かべることからも心配されている。
だからこそ、プルデンテは口元を緩めた微笑みを浮かべた。
「オルサコリーナ将軍の人柄に関しては、以前の狩猟祭にて知り得ることができました。か弱い体躯の私を慮って、栄養価のある肉をと勧めてくださった気さくな方です。逞しさのある容貌と相まって非常に頼もしく思います。そのような将軍が忠義により領都にいらっしゃることは非常に喜ばしいこと。門外漢だからこそ、防衛に関するお話も伺いしたく思います」
淀みなく言い切った彼女に、将官は面食らったと表情を変えたが、すぐさま引き締めると頷いた。
彼の発言は善意からだとプルデンテは理解している。追及をすべきではない事柄。
「このように領主不在となることは稀ですが、奥様の学びとなるのでしたら幸いではありますね。オルサコリーナ将軍の到着次第ご報告をします。軍備に関する采配についても現状不安はありません。障壁を破壊しようとする襲撃者を捕縛できれば、より安全に過ごせるのですが」
「ぁぷう」
窓の脇に設置した揺り籠から声が上がる。ヴェネリオが目覚めたと、プルデンテはやや早足で近付いた。丸い金色の瞳が忙しなく動く。視界の中に彼女がいないことを不安に思っていたようで、その瞳と視線が合えば、彼は明るい声を上げた。
「ヴェネリオ様がお目覚めになられたようですね。お母様との時間をこれ以上は奪えません。私は失礼いたします」
穏やかな顔で敬礼をした将官に、プルデンテは会釈を返す。立ち去る彼を視界に捉えつつ、揺り籠の中に手を伸ばして、成長から重さの増したヴェネリオを抱き上げた。
「あうー」
その温もりを胸に寄せた瞬間に、将官が扉を開いた。再びプルデンテに礼をした彼が退室する姿を見届けると彼女は一旦、揺り籠の側に置いていた椅子に腰を下ろす。
「領都に対する襲撃は最小限。この規模ならば、どうやっても障壁と高台にある城塞まで踏み込める者達はいない」
「うにぁ」
ヴェネリオと目を合わせながら体を揺らすプルデンテ。その唇は聞く者がいなくとも、僅かな不安に言葉を紡ぐ。
「でも、破壊工作を続けているのが内通者だとしても、いずれ障壁を突破できるほどの力と人数が揃えば領都も安全とはいえない。ただの嫌がらせではないはず。突破口を作るべく、攻撃を続けているはず」
バジーレ辺境伯領に潜ませた内通者は、結局は末端の工作員。彼ら自身に領都を制圧する力も人数もないため、だからこそ、その力がある者達を待ちわびて日々絶えず破壊工作をしている。
これは今までの被害から思い至った憶測。確実とは言えないものの、あり得ないとも思えないことだった。
いつも側にいてくれたアストゥートがいないことから、プルデンテは不安から最悪の予測まで至り、助けてほしいと願って、それは口に出してもいけないと必死に気持ちを抑える。彼はバジーレ辺境伯領の平穏を取り戻すべく戦地に向かった。バジーレを守るために戦う。
だからこそ、妻であるプルデンテは耐えなければならない。留守を任された責任者として領都を守らなければならない。
金糸が文様を描く厚手のドレスの胸元の奥、サファイアのネックレスの存在を強く感じながら、彼女は自身の役目を内心で復唱する。
オルサコリーナ将軍が領都に到着したのはその二日後。自らが守護する町の防衛隊長の一人である三男と、数人の騎士達を引き連れていた。プルデンテは彼と城塞の応接の間で面会する。
「アストゥート様の細君、いえ、プルデンテ様。此度は領都防衛のために馳せ参じました。ご存知でしょうが改めて・・・チェチーリオ・オルサコリーナでございます。バジーレ辺境伯、アストゥート様不在である今、守護として命を懸けて領都を守りましょう!」
引き連れた騎士達と膝を付いて頭を垂れる将軍に、プルデンテは一度頷いて応えると、立ち上がるように声をかけた。
素早く体勢を戻した彼らは、腰の後ろに両手を回して佇む。その様子に、椅子に座っていた彼女は腰を上げた。
「ああ、立ち上がらずともよろしいのですぞ」
「いえ、遠方より馬で駆けてきたと伺っています。領都のためとはいえ、ご苦労をおかけしました。貴方方のバジーレに対する献身に感謝いたします」
敬礼をするプルデンテに対して、オルサコリーナ将軍は慌てた声を上げたが、彼女が姿勢を戻して見つめれば、再び背筋を伸ばして佇む。
「私も貴方と同様にバジーレを守るべく領主代理を務めさせていただいています。謂わば同志。共に要たる領都を守りましょう」
目を合わせながら、はっきりと淀みなく述べる。その真っ直ぐな視線に、将軍は明るい茶色の瞳の目を細めた。快活とした笑い顔に釣られて、プルデンテの口元にも笑みが浮かぶ。
「美しくも聡明なプルデンテ様よりお言葉をいただけたのは喜びですな!三年ほど前でしたかな?狩猟祭では見た目からか弱い方だと思っていましたが、領主不在となったこの地を守らんと立つ貴女は、我が妻にも似た気迫がありますなぁ!曲げようとしても折れない、いや、曲げようなどとする者がいたら、その不届き者は俺が曲げましょう!」
オルサコリーナ将軍は、腰に回していた両手を前に出すと、拳にして横に並べた。そして、豪快な笑い声と共に向きを縦にする。それは棒状の物を曲げる動作であり、物理的な制裁を加えるという暗喩だろう。
「父上」
精悍で顔の至る所に古傷のある男らしい顔立ちの将軍とは違い、女性と見まごう中性的な美貌の子息が声をかけた。
それに将軍は「ああ!」と声を漏らすと、手を下げて頭も下げる。
「軽はずみな発言でしたな!思ったことは口に出さずに実行するのみ!以降は気を付けましょう!」
すぐさま頭を上げたオルサコリーナ将軍は豪快な笑い声を上げると、にこやかな顔のまま会釈をする。
「現在の領都と城塞の守備状況と兵の配置を知りたく思います。プルデンテ様の軍事においての副官はどちらの者でしょうか?」
「領都北の守備隊長と相談の元、采配をしています」
「そうでしたか!彼の者は勤労で知恵者としても軍内で名を馳せている男。美人には弱いのですが、だからこそプルデンテ様に親身なのでしょうなぁ」
「・・・父上」
低音ながらもよく通る豪快な高笑いが応接の間に響き渡る。それは、呆れた表情を浮かべた将軍の子息が声をかけるまで止まらなかった。
「軽率な発言でした!」と明るく言い放った彼は、部隊と共に退室した。両開きの扉が閉じるが、その向こうからも快活な大声が聞こえる。
「・・・悪い方ではないのです」
控えている女性の護衛騎士が立ち去ったオルサコリーナ将軍を庇うが、プルデンテは笑みを零しながらも頷いた。
「分かっています。明朗快活で真っ直ぐな心根の方ですね。オルサコリーナ将軍ならば、この領都を守り抜いてくださるでしょう」
非常に頼もしく思いながらも答えると、彼女も両開きの扉に近付いていく。常に側で警護をする護衛騎士を引き連れ、左右に控えている騎士達によって扉の開かれた出入り口を潜った。
「お食事のご用意ですか?」
時刻は十時に差し掛かろうとしていた。毒殺犯は判明し、息のかかった者も審査により現在はいないが、それでも安全は確保せねばならない。バジーレ辺境伯家では毒味は永劫になくならないだろう。
だからこそ、子供達の食事は未だにプルデンテが用意している。毒味はされても母である彼女の手製となれば、温かいうちから食べることができるからだ。
「ミートボールが食べたいと強請られてしまったのです。じっくり煮込んだほうが美味しいでしょう?」
「奥様は本当に勤労でいらっしゃいます」
護衛騎士に微笑みで返すと、プルデンテは迷いなく厨房に向かう。厨房の入り口すら警備の兵がいるが、それはバジーレ領全土が緊迫した状態だからであり、物々しく思うも兵士を労うために会釈をした。
忙しなく動く調理人に場所を借りると声をかけて、氷を用いた保管庫から材料を手にする。
「お肉にも野菜にも毒薬はかけられてはいない。調味料も、目視と匂いは大丈夫」
「最後は毒見係がきちんと調べます。ご安心ください」
調理人が用意してくれた牛肉をトレイからカッティングボードに移動させた。
「ええ、あの方には感謝が尽きないですわ。いつか、そうね、今までのバジーレ家に対する忠誠心から褒賞を贈りましょう」
「奥様にお仕えしている時点で褒美を貰えているなど言っていましたが」
「まあ、慎ましい方だわ。尚更、アストゥートと相談してより良い物を贈らなければいけませんね」
分厚く切り分けられている牛肉を、ナイフを用いて細かく切っていく。地道な作業を黙々と熟す彼女に、護衛騎士は勿論、調理人達も時折目を向けて、調理の工程が進む様を見守っていた。
ソースを野菜と調味料で作り、鍋で煮込むプルデンテは幼い頃から親しんだ歌を鼻歌で奏でる。
「腕を止めるな、兵士の奴らに遅いと怒鳴られるぞ」
見惚れるように眺めていた調理人の一人が仲間に叱責を受けていたが、高貴さの滲むプルデンテが調理をする様は、一瞬であろうとも誰の目も奪っていた。
オルサコリーナ将軍の助言から、領都と城塞の軍備の采配は多少変わった。ただ、やはり強固な防衛は変わらず、問題点は外部からの障壁に対する破壊工作のみ。
将軍の子息が部隊とともに襲撃犯を追い立てて、何人か捕らえることには成功した。しかし、彼らはやはりバジーレの領民であり、近郊の町村から集結した反逆者とは分かるも、誰も口を割らなかった。
プルデンテは領主代理として彼らと対面するが、その表情のない顔、それでいて鋭い眼差しを向ける様は異様だと思う。
彼らは命を懸けた行動だった感じ取る。それは推測に留まってはいるが、故郷であるビセンテに対する忠誠心からか、それとも過去の侵攻から何百年も経ち、何代も前の先祖の悲願を達成したいがための行動か。
初めて反逆者と対面となったプルデンテにはそう思えなかった。彼らの表情の無さは、必死と感情を抑えているから。鋭い眼差しは、攻撃性というよりも怯えによるものに見えた。
「此度の反逆行為は極刑となります。東の防衛を担うバジーレ領の根幹を揺るがす行いが散見されていますからな」
「障壁を破壊すれば、敵陣営は侵入できてしまう。彼らの行いは敵陣営、つまりはビセンテにとって有利になる。ビセンテの内通者という証拠はありませんが、利敵行為に他ならない、ということですね?」
「その通りです、プルデンテ様」
何も話さないことから再び牢獄へと連行される襲撃犯達。その様子をプルデンテは目に映しつつ、並び立つオルサコリーナ将軍と言葉を交わす。
「王女殿下であった貴女だからこそ、国の防衛の重要性は熟知されていらっしゃる。今も防衛の長バジーレ家の女主人として、ご自身の役割をご理解されていますな」
プルデンテは頷くと、領都の留置場から去るように離れる。彼女の後ろには将軍が続いた。更に後ろの護衛騎士達も引き連れていく。
その足は城塞に向かい、徒歩で高台を登る坂をゆったりとした足取りで進む。背後のオルサコリーナ将軍は「一苦労ですなぁ」と明るい声で漏らしているが、彼女の歩みは止まらずに、居城である城塞の門扉に辿り着いた。
今は数の少ない守備の騎士達が、穏やかな呼吸のプルデンテと、盛大に大げさに荒々しく呼吸をして身を屈める将軍を目にした。彼らは表情を引き締めたまま敬礼と頭を垂れると、重厚な扉を開く。
開かれた門を潜り、石畳を軽快な足音を立てる靴音を耳にする。
「はぁ〜・・・バジーレ辺境伯閣下とアストゥート様が戻られるまで、貴女こそが領都を守り抜く者。バジーレ領が落ちぬように常に情報を得て、的確な采配を振るわねばなりません」
「ええ、理解しています」
プルデンテは振り返らずに、城壁の上に至る階段を上り始める。高台にあることで風を強く感じる。金のリボンで一つに纏めて背中に流した灰色の髪が、風によって踊る。彼女は肩の前に流して手で押さえると、城壁の上に辿り着いた。
広大な平原は、更に緑深い山々に囲まれている。遠くに見える集落や、眼下にある領都の前には、黄金の麦畑が敷き詰められているようには見える。正しく開拓途中の自然豊かな辺境の地。
「一見すれば、穏やかな情景に映るでしょうな。しかし、この視界に映る町村も、未だに襲撃を受けています。ビセンテから入り込んだ者達は度重なる戦いの最中に我がバジーレに潜み、同胞と呼べるようになるまでの歳月を経て、今まさに尖兵として刃を突き立てています」
オルサコリーナ将軍はプルデンテに追いついて、その隣に佇む。快活な老将軍の真顔は、本来の眼差しの強さを強調させていた。それは人を射殺せるような鋭さ。元からの人相に加えて、戦場でも培ったものだと彼女は理解した。
「北部の鉱山町の襲撃は、この混乱の最中に行うつもりであり、実際に実行に移した。他の町村から援軍は望めず、こちらに気付かれなければ鉱山町と周辺、それらを含む北部全土をビセンテに奪われていたでしょうな。つまり、ビセンテ伯爵家は以前より計画していた可能性があります。それも十年二十年といった年数ではない。確実に王国のバジーレ領を奪うべく下地を作っていた。それが整ったことで、今こそ行動に移したのでしょう」
オルサコリーナ将軍の発言を聞き入る。風に前髪が踊り、視界を遮ることで、手のひらで押さえた。
彼女の目には山脈の前に広がる森と草地。その緑の中を進む小さな粒のような物、人か馬かが、非常に小さく見えていた。
「無論、バジーレ辺境伯閣下もアストゥート様も、その武力と戦士としての経験から討たれるなどとは思っていません。不安があるとすれば、この領都の安全性ですな。守り手たる城主と後継者のいない今、この地は敵の目にどう映るのか」
「・・・」
返答のために声を上げるべきだと脳裏に過る。ただ、景色の中に見えるものに異常を感じた。粒のような小さな物、人と思しき二人がが凄まじい速さで動いている。領都へと向かっている。
それに気付いたプルデンテは、隣の将軍を見上げた。彼と目が合った瞬間、手で速く動くものを指し示す。
「あれは人ですよね?こちらに近付いてきます」
「む!誰か望遠鏡で見てみよ!」
城壁の上にいた守備の兵士が望遠鏡を手にした。彼女は折畳式のそれを伸ばして覗き込む。
「人、です。馬で駆けているようですが・・・旗が見えました!バジーレの軍旗です!」
「バジーレの軍旗ということは我が軍の本隊の者では?」
報告を受けたプルデンテがまず感じ取ったのは不安だった。なぜ、鉱山町を制圧したビセンテ軍を退けるべく出立したはずの本隊が、配属されている兵と思しき二人が、領都に戻ってきたのか。
「現在、領都周辺の安全は確保させています。ただ不安ならば、俺の息子と部隊を哨戒させましょう」
「お願いします。今は彼らの確保が最優先です」
プルデンテは階段を足早に降りていく。オルサコリーナ将軍を置いていってしまうが、強い振動を感じたことから、彼も追ってきていると分かった。
城壁から降りた彼女は、護衛騎士の用意した馬に相乗りをして、戻ってきた兵士達の元に向かう。
義父よりも熊好き将軍の名前が先に開示されるという。




