侵略
プルデンテは、泣き始めたヴェネリオへと顔を向けながら椅子から腰を上げる。動揺からその顔に力が入り、強張っているのだと自覚しつつ、自覚のできる余裕があるのだと気付いた。ゆっくりと息を吐き、喉を震わせながら吸い込む。
彼女は自身を見上げてくる娘達と、ベビーベッドの中で身じろぐヴェネリオに近付く。
「となりの国の兵士がシンリャクしてきたんですか?」
「こわい方たち、こちらにいらっしゃるの?」
不安と眉を寄せるテオドラとファビオラの幼く繊細な心を慰めるべく、両手を使って互いの頭を撫でる。その手を二人の肩に落とすと、呼吸で心を落ち着かせて、穏やかな笑みすら浮かべることもできた。
「心配はせずとも大丈夫ですよ。お父様とお祖父様が、必ず敵の兵隊を近寄らせないようにしてくださいます。だから安心してください・・・ヴェネリオも、沢山の足音が聞こえて怖くなってしまいましたか?大丈夫ですよ、母とお姉様達がいますからね」
手足を振り上げて泣く息子に手を伸ばして抱き上げると、しっかりと腕に抱えた。くしゃくしゃの泣き顔と顔を合わせて、笑みを絶やさずに見つめる。揺りかごのように、ゆったりと体を揺らして、優しい声で囁く。
視界に映る娘たちはお互い顔を合わせて、不安からかファビオラがテオドラに抱き着いた。姫君を守る騎士を目指すテオドラは、その小さな体に腕を回して支え、背中を撫でていた。
やがて、揺れと声で落ち着いたヴェネリオが、小さな唇を食むように動かしながら目を閉じた。母親の温もりに安心感が勝ったようで、その寝入った顔を眺める。
「シエナ、テオドラ達を部屋に戻してください。リラックスさせるために甘い間食の用意もお願いします」
「畏まりました」
控えていたシエナに指示をすれば、同じく側に控えていた侍女達がベビーベッドを畳み始める。
シエナは本館への入り口に向けて手を差し出して、テオドラ達を誘導した。
「よろしいかしら?」
「はい、若奥様」
ヴェネリオの乳母も務める侍女に腕の中の彼を託した。渡す際にヴェネリオは顔を顰めて身をくねらせたが、第二の母とも呼べる侍女だからか、目を覚ますことなく身を預けた。
「アストゥートの元に参ります。あとは頼みました」
「お任せください」
信頼に足る侍女達、警護の護衛騎士達に子供達を託す。テオドラに手を引かれたファビオラこそ悲しそうな表情をプルデンテに向けてはいたが、母の意を汲んだ姉に従って本館へと入っていく。
一団となった彼女達の姿を見送ると、プルデンテは踵を返す。残った一人の女性騎士を引き連れて、別館に向かった。
扉の両脇で警備を担当する騎士達の顔は引き締まっていたが、彼女の姿を捉えると僅かに緩んだ。会釈をすれば、彼らによって扉は開かれる。
何度か足を運んだ軍施設である別館は、初めて目にする物々しさがあった。見えた者、すれ違った者、全員が武器を携帯し、中には重装で内部を歩く者もいる。プルデンテの姿を捉えると、敬礼をするが、すぐさま姿勢を戻して足早に去っていく。出撃が発令された者達かもしれない。
まだ内情を知らない彼女には憶測しかできず、彼らとすれ違いながらもアストゥートを探す。
時間にして十分ほど。広い訓練場に足を踏み入れると、彼の姿を見つけた。塀の脇に木造りの的がある程度の遮蔽物のない広間だからか、アストゥートに対面する形で騎士達が集っている。
「以上のことから、北部の鉱山町はビセンテ軍に制圧された。至急、軍隊を編成した後に奪還する」
「アストゥート様、街道も使わずにビセンテの連中が大量に入り込むなどあり得るのですか?」
「国境線はあるとはいえ、それは緑深い山です。重装の兵士が山越えなどできますかね?」
騎士達は不審と声を上げる。彼らはアストゥートに対する忠誠心がないというわけではなく、異様な状況が信じらないと声を上げているようだった。別の勢力、鎧を身に着けた山賊団ではないかと言う声もプルデンテの耳が捉えた。
騎士達は隣り合う者同士、仲の良い者達などで会話を始める。疑問をぶつけ合う。
騒がしくなった彼らだったが、冷めた表情のアストゥートが側に控えていた副官に合図をすれば、彼が声を張り上げた。すぐさま誰もが口を閉ざし、表情のないアストゥートに顔を向ける。
「奴らの出現方法は未知だが、鉱山町が制圧されたのは確実だ。領軍の本隊である俺達が動かねばならない。奪われた彼の地を取り返す」
「バジーレ辺境伯領だけではなく、王国とっても非常に重要な鉄資源のある鉱山を奪われた状態だ。我々の武器防具の材料、備品や器具類の必要素材。あちらの加工技術がどの程度か知らないが、全てがビセンテに渡せば防衛力の低下のみならず、王国自体の衰退にも繋がる。アストゥート様の指示の元、必ずや鉱山町を奪い返さねばならない」
二人の続けざまの発言を騎士達は黙って聞いていたが、言い終わると各々が息を漏らし、不安を口にする者もいる。
「勿論、奪還に不満はありませんが・・・敵勢力の規模が不明だ」
「どこから現れたのか押さえなければ、増援を許してしまう可能性があります」
およそ三十人ほどで交わす会合を耳にしつつ、プルデンテは石材の段差を降りて近付いていく。
「周辺の地図で確認しても軍隊を送る経路はない。だからこそ不安要素ではある」
「鉱山町の周辺の山々は鉄鉱山を含めても禿山などなく、深い緑に覆われた自然豊かな土地だ。山道こそあれど、それはバジーレ領内のみ。隣国のビセンテ伯爵領に繋がる山道はもはや存在していない。三百年前に開通していた旧道は、侵攻を防ぐために当時のバジーレ領軍が封鎖をしたあとに起きた土砂崩れで失われている。あちらが山越えで侵入しないかぎりは・・・ああ、奥様」
大きく古い革製の地図を部下に掲げさせて説明をしていた副官が、騎士達に顔を向けた瞬間にプルデンテに気付いた。
地図の脇に佇み、副官の話を聞きつつも注視していたアストゥートも、その副官の言葉で彼女へと顔を向ける。無表情に近い顔は、プルデンテを瞳に映した瞬間に僅かに和らいだ。眩しそうに目を細めた彼へと、彼女は躊躇いなく歩き進む。
騎士達が左右に分かれることでできた道を進み、段差を二段上がれば、アストゥートが伸ばした手にプルデンテの白く細い手が掴まれた。彼に引かれることで身を近付けて、腰に腕を回されることで身を寄せる。
「侵攻を受けたというお話を耳にしましたので、思わず足を運んでしまいました」
「個人的に聞かせたくはないが、バジーレの大事。貴女は立場からも知るべきでしょう」
聞き及んだ話ではあるが、復習を含めて改めて聞き入る。
隣国のビセンテ伯爵の印章を身に着けた大多数の兵士が、突然現れて北部の鉱山町を含む一帯を制圧した。目撃者であり生存者でもある、本来ならば領都の元守備隊長を捕縛するべく派遣した騎士達の証言により、その事実は確定している。
明確な侵略を受けた。それも明確な敵対者であるビセンテ伯爵の軍によるもの。宣戦布告の通達もない完全なる奇襲だった。
プルデンテの父である国王陛下や王位継承者である姉のディニタへの通達など今更であり、対象が遅れれば、北部一帯はビセンテの手に落ちるだろう。
「バジーレ軍の本隊である領都軍で撃退をします。指揮官は俺と父・・・バジーレ辺境伯に報告は?」
「アストゥート様へのご報告と同時に、従者が知らせに行きました。今頃は荒ぶって」
副官が答える最中。荒々しい物音を立てながら素早く近付いてくる足音が聞こえた。その音を捉えたプルデンテは、自身も通った訓練場の扉を見上げれば、秒も待たずに勢いよく開かれた。何者かなど愚問。
凄まじい形相のバジーレ辺境伯は勇ましくも重厚な鎧を身に纏い、直属の重装騎士達を引き連れて入ってきた。
きっと声を張り上げるだろうと察したプルデンテは、すぐさま自身の両手で自身の両耳を押さえた。
「仇敵ビセンテの侵略が確認されたそうだな!!再びバジーレの地を汚そうなど私が許さん!!すぐに向かい、一人残らず殲滅するぞ!!」
空気すら震わせる大声。低音の持ち主だからこそ迫力があり、内から滲む怒気も相まって、バジーレ辺境伯を恐ろしく見せた。彼が溺愛するファビオラが目にしたら、泣いて怖がると想像に難しくはない姿だった。
だが、バジーレ辺境伯の内面と人間性を知るプルデンテは恐れない。彼が口を閉ざしたと灰色の瞳に映すと、耳を防ぐ両手を下ろした。
その動作からか、アストゥートに身を寄せる人がプルデンテと気付いたらしいバジーレ辺境伯は、骨ばった大きな手で自身の口を覆った。罰が悪いと視線をそらす様子に、彼女の頭上から溜め息が落ちる。
「反省をしたのなら、すぐ感情的になるその性質を正すんだな」
「お、王女殿下がいらっしゃるとは思わず・・・見苦しい姿をお見せいたしました。申し訳ございません」
意気消沈と視線を落として顔色を悪くさせるバジーレ辺境伯。過剰な配慮に、プルデンテはゆるゆると首を横に振った。
「お義父様が激昂するお気持ちは理解できます。卑怯極まりない奇襲により、バジーレ領だけではなく王国にとっても重要な要所を奪われたのですから。お話を聞く限り、あちらは隣国の国王陛下の関与は不明です。宣戦布告もなかったことから、ビセンテ家が独断で動いた可能性すらあります」
プルデンテの言葉にバジーレ辺境伯は肩を落とすほど深く息を吐くと、口元を覆っていた手を外した。険しい顔を浮かべたまま、部下を引き連れて段差を降りてくる。
「ビセンテ伯爵家ならばあり得る。何度も耳にされたでしょうが、彼奴らは古よりの侵略者、我らバジーレの者達の明確な敵対者です。即日、奪還のためにバジーレ領軍を向かわせましょう」
「そのつもりで将兵達に話していた。後から出てきて堂々と俺の立場を奪うな」
「お前と喧嘩をしている時間すら惜しいのだ、アストゥート。食ってかかるな」
騎士達が避けてできた道を歩き進み、段差も上ったバジーレ辺境伯はアストゥートと向かい合う。寄り添うプルデンテとも対面した彼は、彼女と目が合えば会釈に留めた礼をする。だが、すぐさま自身の息子に目を向けて、腕を組み、胸を張る威圧的な態度を見せる。
「すぐに出立するとして全軍で突撃など馬鹿な真似はしないだろうな?編成はどうなっている?」
「その前段階の話をしている。制圧に押されて撤退を余儀なくされた騎士達の話では、ビセンテ軍は鉱山町を望む山麓から突如として現れたそうだ。大量の重装の兵が山から躍り出てきた。山越えなどあり得ない。トンネルか、昔のバジーレ軍が塞いだ旧道を復活せて兵を送ったのかもしれない。とにく連中が軍隊を送る経路を発見しなければ、絶え間ない援軍でバジーレ軍も消耗する」
アストゥートは親指だけを立てた手で、ずっと兵士が掲げている革製の地図を指し示した。
対面していたバジーレ辺境伯は振り返り、その動作によってプルデンテも地図へと顔を向ける。
「バジーレ辺境伯領の他の町村も、内部に潜伏していたビセンテの手の者達に襲撃を受けている最中。援軍は望めず、未だ抵抗を続けているだろう鉱山町の守備部隊と、この領軍本隊のみで撃退をしなければならない。慎重な行動を心掛けなければ、兵が犠牲になるだけだ」
アストゥートの話を聞きながら、バジーレ辺境伯は小さな唸り声を上げる。地図を見ながら思考しているようで、ビセンテ軍のあまりに突飛な登場に、頭を悩ませていると分かる。
プルデンテの目は、その古さからやや掠れてしまっている地図をなぞる。町の位置、目印となる要所、周辺の監視を担って砦などは分かる。経路と思しき山道や川の記載などのヘビが地を這うような線は、何度か昔の使用者になぞられたようで線が消えかけている。特に、川と山道の合流地点となる部分。そこだけ異様に擦れている。鉱山町の上部にあり、丁度真上にある川と道が交わる場所はかなり薄い。
「・・・気になったのですが、なぜその場所だけ掠れが酷いのでしょう?川と道が交わることから、橋がかかっている場所だと思います。以前から守りの要所だったのですか?だから軍の配置を話し合う折に目印が置かれていて、擦られたのでしょうか?」
小さな疑問だった。確かな答えが欲しいわけではなく、不思議と思ったことで口にした。
視界の端に映るアストゥートの目が細まる。バジーレ辺境伯も、その豊かな黒髪の後頭部が目に映っている状態だが、頭を動かして川と山道の交わる地点を見ていた。
「・・・あの位置には天然洞窟があります。鍾乳洞であり、地底湖があるとも私は先代である亡き父から聞いたことがある。かなり深い洞窟で、近隣住民も奥地までは足を踏み入れないというが」
「俺は知らなかったが、もし洞窟の構造が直線だったのならビセンテ伯爵領に繋がるな。位置的に間違いないと思う」
「ビセンテに通じる隠し道、か?」
バジーレ辺境伯は地図を掲げる兵士達に準々に顔を向けて、彼ら全員が驚きから肩を跳ね上げる姿を見ると、最後に脇に控えていたアストゥートの副官に顔を向けた。おそらく鋭い眼差しで見られただろう副官だったが、たじろくことはせず、それでも顔を引き攣らせてはいたが踏み止まる。
「この地図はどこから?」
「別館の資料室からお持ちしました。作戦会議に使用する北部の地図を探していたところ、丁度資料室の壁にありました」
副官の言葉に彼は納得と頷くと、薄くなっている川と道の交差地点を睨みつける。
「先人がすぐ目に留まるように設置したのだろう。私の父か、祖父か、いや更に以前の先祖か。北部の鉱山町は一度ビセンテの手に落ちている。その時代の当主が、危険を知らせるために置いたのだ」
「文章で残してなかったのか?」
「鍾乳洞がビセンテの隠し道という確証はない。バジーレの者で通り抜けたなど伝記すらないからな。通り抜けたとして、ビセンテに出れば捕縛されただろう。故に、制圧された時代の地図では警戒程度に留められ、注視するように跡を付けた。というよりは、擦って意識が向くようにしたのかもしれん」
小さな唸り声がアストゥートから漏れる。プルデンテが彼を見上げれば、眉根を寄せて思案していると分かった。
「プルが気付かねば、俺達はその鍾乳洞を見落としていた」
「王女殿下の洞察力には感服いたします。直情的な我々では細部にまで関心などできないでしょう」
「直情的なのはお前だけだ」
アストゥートは分かりやすく舌打ちをする。父親のバジーレ辺境伯に対して相容れないからこそ、彼はその言動全てに苛立ちを覚える。
これは親子間のこと。決闘にならない限りは口を出すべきではないと、プルデンテら静観を決め込む。
辺境伯はアストゥートに呆れた眼差しを向け、深く息を吐くことで意識を切り替えたようだった。彼は地図上に記された町、つまりは再び制圧された鉱山町へと顔ごと向ける。
「鍾乳洞が経路となっていれば、敵の兵力は増すばかりだ。バジーレ内で膨大な人数になり、近隣の村落にも侵攻すれば、北は取られたと言っても過言ではない。鍾乳洞の入り口は封鎖する。残ったビセンテの兵は押し返さずに殲滅しなければならん」
「それは理解しているが、プルの前に過激なことは言うな」
「いえ、もはや侵略戦争です。侵略者達には適切な対応を取るべきだと私は思います」
アストゥートとバジーレ辺境伯の金色の瞳がプルデンテに注ぐ。真っ直ぐに見つめられていると視界で捉えた彼女は、噛み締めるように頷いた。
「歴史に目を向ければ、ビセンテの支配は我らが領民を虐殺し、残された者達も隷属させています。家畜以下の扱いを受けていたと文献に残るほどです。このバジーレの土地と人々はビセンテの長、つまりは現伯爵家の所有物という意志は変わらないと、此度の侵攻により確実だと言えます。土地と人を守るべく、力ある方々はビセンテを退かねばなりません。その手段が殲滅であろうとも、彼らの意思を削ぐならば、残酷ならざる手段を選ぶのは必然かと思います」
滔々と語るプルデンテは、一旦、呼吸をする。小さいながら深く息を吸ったあとで、再び言葉を紡ぐ。
「北部には何百もの領民が穏やかな日々を過ごしていました。誰であろうともその生活を脅かし、命すら奪うなど許されざる行いです。必ず、バジーレの領民達を奪還しなければなりません」
彼女の表情を引き締めた顔、淀みなく言い終えた言葉に、この場にいる誰もが注目していた。
「戦う力のない非力な女の願いではありますが・・・必ず、鉱山町を含む北部の奪還をお願いいたします。アストゥートやお義父様を含めた皆様のお力だけが頼りなのです」
制圧された北部の人々の苦難と恐怖を思うことで、プルデンテの胸は痛みを発する。両手でその胸、心臓のある部分を押さえながら願いを言葉にすれば、集っていた騎士達は、一斉に敬礼と頭を垂れた。
「・・・奥様には煽動者としての才能があるのでは?」
そう呟いた副官の頭に、音なく近づいたアストゥートの拳が叩き付けられた。
即日に領軍は編成され、領都にいた殆どの兵が北部の鉱山町奪還に向かう。
指揮官であるアストゥートとバジーレ辺境伯を見送るために、プルデンテは子供達を引き連れて城塞の前庭に佇む。
騎馬隊、馬車が扉が開かれた大門から出立する様子が彼女の灰色の瞳に映る。騎士服と鎧を身に着けたアストゥートも、今から重厚な馬車にバジーレ辺境伯と乗り込み、戦場となる鉱山町に向かう。
「いってらっしゃいませ。無事の帰還をお待ちします」
「すぐに戻ってきますから安心してほしい・・・君達も、いい子にして俺の帰りを待っていてほしい」
「はい、おとうさま」
「いってらっしゃいませ」
アストゥートは手前に佇むテオドラと、プルデンテのドレスのスカートを掴み、身を寄せるファビオラとも言葉を交わす。
彼は、最後にプルデンテが腕に抱くヴェネリオと目を合わせると、口元を緩めた。すぐに踵を返したその背中を、彼女はひたすら見つめる。
「どうかご無事で・・・」
アストゥートは優れた将であり、強い戦士だとプルデンテは知っている。三年前の狩猟祭で片鱗ではあるものの目にはした。
ただ、向かう先は戦場。敵を排するために己の全てを賭けて戦う場所。絶対などない。僅かな判断ミスで命が零れ落ちる。
戦場に身を置いたことのないプルデンテにも戦争による死者の数や、深手を負った騎士や兵士の姿に察することができた。
だからこそ、プルデンテはアストゥートの乗り込んだ馬車が大門を潜ったあとも目に映し、その無事を祈り続ける。
彼女に倣うように、テオドラとファビオラも軍の隊列が見えなくなるまで見届けた。




