第7章1話 来たる変調?!
白い夢を見たあとも、
今までと変わらず、
世界は何事もなかったかのように回り続けていた。
太陽がのぼり、人々が活動を始め、
太陽が沈み、人々が眠りにつく。
特別なことは何もない。
ただ、それを繰り返す日常だ。
変化というものは、
たいてい前触れもなく訪れるが、
その瞬間までは驚くほど律儀に、
"いつもの毎日"が続く。
そういえば――
チェンジリングが起きてから、
ちょうど半年が経つ頃でもあった。
だからといって、
何かが起こる理由になるわけでもない。
記念日でも、区切りでもない。
カレンダーを見て、
あとから気づいた程度のことだ。
⸻
長野の空は澄み、
山の稜線は昨日と寸分違わぬ姿でそこにある。
フィンはカーテンを開け、
差し込む朝の光に目を細めた。
今日も仕事があり、
今日も一日が続いていく。
それはもう、疑いようのない現実だった。
早苗に起こされ、
半分寝ぼけたまま朝食をとり、
仕事に行き、
剣道をして、
疲れて帰り、
そしてまた眠りにつく。
最近は、この流れにもすっかり慣れていた。
慣れすぎて、
ときどき――
"自分はいつから長野に住んでいたんだっけ?"
と、一瞬だけ思うこともある。
だが、
たいていは味噌汁の匂いに引き戻され、
考える前に現実が追いついてくる。
今日も、いつもの日常が待っている。
――そのはずだった。
ただ、今日だけは、
なぜか胸の奥に、根拠のない違和感があった。
言葉にすれば壊れてしまいそうで、
それでいて、無視できない感覚。
何かが変わったわけではない。
変わる兆しがあるわけでもない。
ただ、
嵐の前の海が不自然なほど静かに凪いでいる、そんな感覚だった。
フィンは、ふと空を見上げた。
雲の流れが、
昨日より、ほんの少し速い気がする。
何かが、
動き出そうとしている。
そう確信するほどの根拠はない。
けれど――
今日が、ただの"いつも通り"で終わらない。
そんな予感だけが、
はっきりと胸に残っていた。
――――
同じ頃。
シドニーでは、
初冬を迎えつつある五月の朝が、
やけに穏やかに始まっていた。
夜明けの空気は澄み、
海から吹く風も、いつもより角がない。
謙一郎はベランダに出て、
まだ低い太陽の光を、ぼんやりと眺めていた。
今日もサーフィンへ行く。
そのあと仕事がある。
会社は回っている。
部下との関係も、以前よりずっと良い。
剣道も再開し、
心も身体も、整っている。
満たされている。
間違いなく、満たされている。
それでも――
謙一郎は、空を見上げた。
雲の切れ間に、
昼間でもかろうじて見える星がある。
それが何座かは分からない。
だが、なぜか目が離せなかった。
――何かが起こる。
そんな予感が、
ふっと胸をよぎる。
根拠はない。
ただの思い過ごしかもしれない。
それでも、
長野とシドニー。
まったく違う場所に立つ二人が、
同じ朝に、
同じような違和感を抱いている。
その偶然が、
すでに“偶然ではない”のだと、
二人はまだ、知らなかった。
世界はまだ、
静かに息を潜めている。
だが、
変化はいつも、
こういう朝を選んでやって来る。




