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【書籍化】悪役令嬢のダイエット革命!〜前世の知識で健康美を手に入れてざまぁします!~【3章スタート】  作者: 冬月子@悪役令嬢のダイエット革命2卷8/1発売!
3章 サロン《ラ・ベル・レジスタンス》と悩める令嬢たち――甘い誘惑と危険な計略

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SIDE アンネⅣ

手の中の手紙を、もう何度読み返しただろう。


『それでは――翌週のはじめに、お会いしませんか。』


その一文を書くだけで、どれほど勇気が必要だったことか。

便箋を前に何度もペンを止め、書いては消し、書いては丸めて捨てた。

それでも、エリザベート様の言葉が背中を押してくれた。


「待っているだけでは、何も始まらないわよ」


その通りだと思ったから。私は勇気を出して、手紙を出した。

そして返ってきた返事には、短くこう書かれていた。


『喜んで。お会いできる日を楽しみにしております』


その一文だけで胸がいっぱいになった。

そして今、私は約束の喫茶店の前で、大きく深呼吸をしていた。


「大丈夫……」


大丈夫、大丈夫よ。

あの人は、他の人たちとは違う。肌が治っていないからといって、私を軽蔑したりはしない。


自分にそう言い聞かせ、私はそっと扉を押した。

店内は昼下がりの柔らかな陽射しに包まれ、静かな時間が流れていた。視線を巡らせると、店の奥――人目につきにくい壁際の席に、一人の男性が座っている。

私はその席へ歩み寄り、足を止めた。


「……え?」


黒い礼服。

背筋を真っ直ぐに伸ばした美しい姿勢。


そして――


「あの仮面……」


仮面舞踏会の夜、彼が身に着けていた白い仮面。あの日と寸分違わぬものが、その顔を覆っていた。

ここは舞踏会ではない。店内を見渡しても、仮面を着けている人など一人もいなかった。なのに彼だけが、あの夜と同じように素顔を隠している。その姿はあまりにも場違いで、戸惑ってしまう。


私の気配に気付いたのだろう。

彼はゆっくりと立ち上がる。


「……アンネ様、ですね」


聞き慣れた声だった。

手紙を読み返すたびに思い浮かべてきた、あの優しい声。

胸の奥が、そっと熱を帯びる。


「はい……」


私は席へ向かう。胸が高鳴る。やっと会えて嬉しい。でも同時に、不思議だった。

どうして仮面を……?

そんな私の視線に気付いたのか、彼は少しだけ困ったように笑った。


「驚かせてしまいましたね」


「い、いえ……」


「本当は、外した方がいいのでしょう」


彼は仮面へそっと触れる。

その指先は少し震えていた。


「ですが……まだ勇気が出ませんでした」


どこか自分を責めるような、寂しげな声だった。


「勇気……?」


「ええ」


彼は視線を落とし、ゆっくりと話し始めた。


「私は昔、事故に遭いまして。……その時、顔に大きな傷を負いました」


私は息を呑んだ。


「命は助かりましたが、それ以来、人前で素顔を見せるのが怖くなってしまったのです」


仮面越しでも分かるほど、その表情は自嘲に満ちていた。


「皆さんは『気にするほどではない』と言ってくれます。でも、自分ではそう思えない……」


その言葉を聞いた瞬間、胸が締め付けられた。

その気持ちは、痛いほど分かる。私もずっとそうだったから。

肌荒れに苦しみ、人の視線を恐れ、鏡を見るたびに自分を嫌いになっていた。

彼は続ける。


「ですから……あなたから会いたいと言っていただけた時、とても嬉しかったと同時に……」


少しだけ間を置き、小さく笑う。


「それと同じくらい、怖くもありました。もし、この素顔を失望されたら。そう思うと……結局、今日も外せませんでした」


その姿は、まるで私自身を見ているようだった。

私はゆっくりと微笑む。


「ダミヤン様」


彼が顔を上げる。


「私達、同じなんですね」


「え……?」


「私もずっと、人前に出るのが怖かったんです」


あの頃の自分を思い返す。

人の視線が怖くて、鏡を見るたびにため息をつき、自分を嫌いになっていた日々。


「だから、その気持ちは分かります。仮面を外すのは……怖いですよね」


彼は小さく頷いた。その仕草だけで十分だった。

きっとこの人も、誰にも言えない苦しみを抱えながら、今日まで生きてきたのだ。


私たちは同じだった。だからこそ、私は思う。

私が惹かれたのは、この人の誠実さだった。

手紙に綴られた優しい言葉、相手を思いやる温かな心。その一つひとつに触れるたび、私はもっと彼を知りたい、会いたいと思うようになった。

仮面の下にどんな傷があったとしても、その気持ちは少しも変わらない。


むしろ――。

こんなにも自分と似た痛みを抱え、それでも誰かを思いやれる人だから。私は、この人に惹かれたのかもしれない。


「実は今日も、ここへ来る前に何度も帰ろうと思いました」


少し恥ずかしくなって、小さく笑う。


「でも、あなたに会いたかったから……頑張れました」


ダミヤンが息を呑んだ。

仮面の奥の瞳が揺れ、しばらく言葉を失っている。

やがて彼は、ゆっくりと右手を持ち上げた。その指先が、銀の仮面の縁へ触れる。


「ダミヤン様……?」


「あなたが、そこまで勇気を出してくださったのです。それなのに、私だけが素顔を隠したままでは……不公平ですね」


そう言って、仮面に手を添えた。その指先は小刻みに震えていた。

仮面を外そうとして、指先は何度か動いては止まり、また動いては止まる。

外したい。けれど、外せない。そんな葛藤が痛いほど伝わってきた。


「ダミヤン様、無理をしないでください」


私はそっと首を横に振り、その震える手に自分の手を重ねた。


「ですが……」


「私が会いたいと思ったのは、あの夜、緊張していた私に優しく声を掛けてくださったあなたです。手紙でも、いつも温かい言葉を掛けてくださいました」


その一言に、彼の瞳が揺れる。


「だから、急がなくても大丈夫です……。時間は、これからいくらでもあります」


一呼吸置いて、穏やかに続ける。


「いつか、ダミヤン様が『見せてもいい』と思えた、その日に見せてください」


「……」


「その日まで、私は待っています」


その日は今日じゃなくていい。半年でも、一年後でも。

そしていつの日か、ダミヤン様が自ら仮面を外し、私が何も恐れずに笑える日が来たなら――その時は。

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