表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】悪役令嬢のダイエット革命!〜前世の知識で健康美を手に入れてざまぁします!~【3章スタート】  作者: 冬月子@悪役令嬢のダイエット革命2卷8/1発売!
3章 サロン《ラ・ベル・レジスタンス》と悩める令嬢たち――甘い誘惑と危険な計略

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
89/97

SIDEアンネⅡ

私はすっかり塞ぎ込んでしまった。

もともと人目を気にする性格だったのに、今では使用人たちと顔を合わせることすら苦痛だった。夜会なんて論外だ。婚約者を探さなければならないと分かっていても、こんな顔で人前に出る勇気はなかった。

私は次第に人前へ出ることが怖くなり、屋敷の自室へ閉じこもるようになった。


そんな私を見かねた友人が、ある日わざわざ屋敷まで訪ねてきた。そして、ひとつのサロンの名前を口にした。


「今度こそ大丈夫だから!」


力強く言われても、私は首を横に振ることしかできなかった。


「もう嫌よ……。また騙されたらどうするの?」


肌が綺麗になると言われて信じた結果が、あの有様だったのだ。もう二度と期待したくなかった。

けれど友人は諦めない。


「違うの。このサロンは本当に評判がいいのよ」


「評判なんて……前のお店だって良かったじゃない」


私が沈んだ声で返すと、友人は言葉に詰まったように苦笑した。


「それは……そうなんだけど。でも、ここは特別なの」


そう言って彼女は身を乗り出す。


「一人ひとりとちゃんと向き合ってくれるの。悩みを聞いて、その人に合った方法を一緒に考えてくれたし、無理なことを押し付けたりもしないわ。……ただ綺麗になるだけじゃないの。なくした自信を取り戻してくれるのよ」


その口調には、どこか確信めいた熱があった。


「そんな場所、本当にあるの……?」


思わず漏れた私の問いに、友人は大きく頷く。


「あるわ。だから一度だけでも行ってみて。もし合わなかったら、それ以上は勧めないから」


そこまで言われてしまうと、さすがに無下にもできなかった。

そして彼女が勧めてくれたサロンこそ――、後に私の人生を大きく変えることになる場所。“ラ・ベル・レジスタンス”だった。


***


友人に半ば背中を押されるような形で、私は“ラ・ベル・レジスタンス”を訪れた。


店の前に立っただけで足がすくむ。

本当に大丈夫なのかしら……。また騙されたらどうしましょう。

また期待して、裏切られたら?


そんな不安が胸の中で渦を巻いたけれど、ここまで来て帰る勇気もなかった。私は意を決して扉に手をかけた。

カランと、澄んだベルの音が鳴る。

店内は明るく清潔で、窓から差し込む柔らかな陽光が室内を照らしていた。鼻をつくような強い香料の匂いはなく、代わりにハーブの穏やかな香りが漂っている。


「いらっしゃいませ」


落ち着いた声が聞こえた。

顔を上げると、一人の女性がこちらへ歩いてくる。


その女性を見た瞬間、私は息を呑んだ。

陽光を受けて輝く金髪。すらりと伸びた背筋。誰もが振り返るような美貌。一瞬、自分の悩みを忘れてしまうほど美しかった。

かつて悪役令嬢と呼ばれていた人物、エリザベート・グラシエルだった。

噂は聞いていた。以前は太っていたが、自ら健康的なダイエットに成功し、美の革命を起こした女性。今では多くの女性たちの憧れの存在だ。

その女性を前に、私は思わず顔を伏せる。こんな綺麗な人に、自分の顔を見られたくなかった。

頬には赤く腫れたニキビがいくつも浮かび、額や顎にも炎症が広がっている。鏡を見るたびに憂鬱になり、最近では鏡台に近づくことさえ億劫になっていた。


「ご予約のお客様かしら?」


優しい声に、身体を縮こまらせながら頷いた。

美しい人の前に立つほど、自分の醜さが際立つ気がしてしまう。


「ア、アンネと申します……」


「アンネ様ね。待っていたわ。さあ、入って」


穏やかな口調だった。

私は恐る恐る顔を上げ、エリザベート様を盗み見る。エリザベート様は穏やかに微笑んでいた。

きっと他の人と同様に私の顔を嘲笑ているのだろうと思ったけれど、その笑顔には嘲りも嫌悪もない。

張り詰めていた肩から少しだけ力が抜ける。私は案内されるまま奥の応接室へ向かい、ソファへと腰を下ろした。


それでも私は無意識に髪で頬を隠し、顔を見られないよう俯いてしまう。

そんな私に、エリザベート様は急かすことなく向かいの席へ腰を下ろした。その隣には、穏やかな雰囲気を纏った男性も座る。


「緊張しなくても大丈夫よ。事前に、お肌のことで相談したいと伺っていたから、今日は医師である私の夫にも同席してもらったの。まずは、あなたのお話を聞かせてもらえるかしら?」


医師。その一言に、私は思わず目を見開いた。

肌の悩みは、あくまで美容の問題。これまで医者に診てもらおうなど、一度だって考えたことはなかった。専門家に相談するという発想自体、私にはなかったのだ。


恐る恐る隣に座る男性へ視線を向ける。

エリザベート様の夫だというその人は、私の荒れた肌を見ても眉をひそめることも、露骨に嫌悪の色を浮かべることもなかった。

ただ患者に向き合う医師そのものの真剣な眼差しで、私の言葉を待っている。


その姿に、少しだけ緊張がほどけた気がした。


「……あ、ありがとうございます」


気づけば、そんな言葉が自然と唇からこぼれていた。


「実は……ずっと肌のことで悩んでいて……」


話し始めようとして、自分でも驚く。

本来なら、初対面の相手だ。しかも、一番見られたくないものを打ち明けなければならない。

それなのに、不思議とこの人たちには話してみようと思えた。


ここへ来るまでは、どうせまた高価な化粧品や美容法を勧められるのだろうと身構えていた。

けれどエリザベート様は、何かを売ろうとする前に、まず私の話を聞こうとしてくれた。

ただそれだけのことが、何故だかとても嬉しかった。

新作短編『俺はお前を愛さない? ええ、私もあなたを愛しておりませんのでご心配なく』『死に戻り伯爵夫人は愛する人の為に再び地獄へ戻る 』もよろしくお願いします!

また、拙作『悪役令嬢のダイエット革命~〜前世の知識で健康美を手に入れてざまぁします!~』の2卷が8/1発売予定です。下記にリンクを掲載しておりますので、ご興味がございましたらぜひご覧いただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ