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【書籍化】悪役令嬢のダイエット革命!〜前世の知識で健康美を手に入れてざまぁします!~【3章スタート】  作者: 冬月子@悪役令嬢のダイエット革命2卷8/1発売!
3章 サロン《ラ・ベル・レジスタンス》と悩める令嬢たち――甘い誘惑と危険な計略

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8話 保養地を作るわよⅡ

「ごちそうさまでした」


食後のお茶を飲み終え、私はほっと息をついた。

揺れる木漏れ日が頬を照らし、爽やかな風が心地よい。


「こんなところで食事をするのも、たまにはいいものね」


「ええ、本当に」


リリィも満足そうに頷いた。


「こうして景色を眺めながらいただくと、同じ料理でもずっと美味しく感じます!」


遠くでは職人たちが測量を続けているものの、この木陰だけは別世界のようにゆったりとした時間が流れていた。

不意に、カミルが「ねえ、エリザベート」と声を上げた。


「少し、この辺りを歩いてみないかい?」


「いいわね」


私は立ち上がり、スカートの裾を軽く払う。


「リリィも一緒に行きましょう?」


そう振り返ると、リリィは籠を抱えながら首を横にぶんぶんと振った。


「私はここでゆっくりしてます!」


「そう? でも、折角だから……」


「いーえ、お二人で行ってきてください!」


「私もついていますから大丈夫ですよ」


隣りではアメリアが、まるで最初からそうするつもだったかのように、にこにこと頷いている。

……なるほど。どうやら二人とも、私たちに気を遣ってくれているらしい。


「……子供が遠慮なんてするもんじゃないよ」


カミルは呆れたように言うと、リリィは得意げに笑った。


「遠慮なんかじゃないもの」


そう言って、私とカミルを交互に見つめる。


「私は最近、サロンでお手伝いしていたから。たくさんの時間、エリザベート姉さまと一緒にいれたでしょう?」


「……そうね」


思い返してみれば、サロンでは毎日のように顔を合わせている。忙しくはあったけれど、リリィと過ごす時間は確かに多かった。


「でも、カミル兄さまは違うじゃない」


そう言って、リリィはカミルを見る。


「お医者様の仕事で忙しいし、お姉さまもライバルサロンの事が気がかりで大変だったでしょう?」


確かに、その通りだった。

同じ屋敷で暮らしていても、お互い仕事に追われ、ゆっくり二人だけで過ごす時間は取れていなかった。


「だから今日くらいは――」


リリィは立ち上がると、えいっと軽くカミルの背中を押した。


「カミル兄さまがお姉さまを独り占めしていい日!」


「おっと」


不意を突かれたカミルが苦笑する。


「……独り占め、か」


どこか照れくさそうに呟くその横顔を見て、私まで頬が熱くなってしまう。


「リ、リリィったら……」


「えへへ」


本人は悪びれる様子もなく笑っていた。

アメリアまで口元に手を添え、くすくすと笑っている。


「若いご夫婦なのですから、たまにはゆっくりお二人でお過ごしくださいませ」


「そうそう!」


リリィも元気よく頷く。


「お姉さま、楽しんできてね!」


そこまで言われてしまっては、断るほうが野暮というものだ。

私は少し照れながらカミルへ視線を向ける。


「……では、お言葉に甘えようか」


「ええ」


カミルも優しく微笑み返した。


「それじゃあ、少しだけ散歩してくるよ」


「いってらっしゃーい!」


二人に見送られながら歩き出すと、背後からリリィの弾んだ声が聞こえてきた。


「アメリアさん!」


「はい?」


「帰ってくるまで、お茶でも飲みながら待ちましょう!」


「ふふ、そういたしましょうか」


楽しそうな二人の笑い声を背中に受けながら、私は思わず小さく笑みをこぼした。

気づけば、隣を歩くカミルの歩幅は、私に合わせるようにいつもより少しゆっくりになっていた。


「静かね」


「うん」


それだけの会話なのに、不思議と気まずさはない。むしろ、この沈黙さえ心地よかった。

木立の間を抜ける風が葉を揺らし、さらさらと柔らかな音を立てる。

足元には柔らかな土と苔が続き、遠くでは鳥のさえずりがかすかに響いていた。

しばらく歩いたあと、カミルがふと口を開く。


「……リリィには聞かせないほうがよさそうな話だったから、結果的にはちょうどよかったかもしれないな」


その言い方に、私は自然と足を止めた。


「どうしたの?」


「実は、君に早く伝えたいことがあって」


カミルは少しだけ表情を引き締める。


「例のやせ薬の件で、成分の調査結果が出たんだ」


その声は穏やかなままだったが、内容は決して軽くない。

私は思わず背筋を伸ばした。


「どんなものだったの?」


「主成分は、センナをベースにした刺激の強い下剤だ。それに、フェンネルやアニス、ジュニパーのような利尿作用のある薬草が混ぜられていたらしい」


「それらは安全な薬草なの?」


「センナ自体は、昔から便秘薬として使われてきた薬草だし、ほかのものも伝統的なハーブではあるよ。だけど……」


カミルは淡々と説明する。

けれど、その瞳の奥には、医師としての静かな怒りが宿っていた。


「センナの長期使用は腸に負担をかけるし、利尿作用の強いものを重ねれば、腎臓にも悪影響が出る。ひどければ、一生付き合うことになる病となる」


私は思わず唇を引き結んだ。

やはり、そうだったのだ。やせ薬なんて、そんな都合のいいものがあるはずがないとは思っていたけれど、まさかここまで酷いものだったなんて――。


「……そんなものが、普通に出回っているなんて」


「商売としては、需要があるんだろうね」


カミルは苦く笑った。


「でも、医療の立場から見れば到底見過ごせない。少なくとも、君のサロンの理念とは真逆だ」


私は黙って頷く。

そうだ。私が目指しているのは、無理を強いる場所ではない。

身体を痛めつけてまで得る美しさではなく、自分を大切にしながら変わっていける場所だ。


「……成分が分かったなら、対策も立てられるかしら?」


「うん、そうだね。ただ、治療となると、どんな成分が入っているのかを正しく見極める必要がある。一番確実なのは、制作者を問い詰めることなんだけど」


「そう……簡単に教えてもらえるとは思えないわ」


「だけど、安全ではないことを立証して、きちんと取り締まってみせるよ。少し時間はかかるかもしれないけれど、上にも報告する。いずれ成分のことも、必ず突き止めるさ」


カミルの言葉は静かだったが、確かな決意があった。

私はそっと息を吐き、彼の横顔を見上げる。この人がいてくれるなら、私は怖がらずに前へ進める。


「……ええ。お願いするわ」


私は少しだけ目を伏せる。


「ありがとう、カミル」


私がそう言うと、彼はほんの少しだけ目を細めた。


「礼を言うのはまだ早いよ。これから、さらに詰めていくことになる」


「ええ。でも、最近は私のサロンでも話題になっていたから、ずっと気になっていたから」


貴族の夫人たちの間では、例のやせ薬の噂が日に日に広がっている。

楽に痩せられる。努力をしなくても美しくなれる。そんな甘い言葉に惹かれる人は少なくないようだった。


――クラリッサも、気にしていたわね。


ふと彼女の顔が脳裏をよぎった。

あの日、危険な薬に手を出してはいけないと伝えた時、彼女は確かに納得したように見えた。

……けれど、本当に大丈夫だろうか?

あの時のどこか思い詰めたような表情が、不意に心のどこかに引っ掛かる。

私は小さく首を振った。今は信じるしかない。彼女もまた、自分なりに考えているはずだ。


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