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【書籍化】悪役令嬢のダイエット革命!〜前世の知識で健康美を手に入れてざまぁします!~【3章スタート】  作者: 冬月子@悪役令嬢のダイエット革命2卷8/1発売!
3章 サロン《ラ・ベル・レジスタンス》と悩める令嬢たち――甘い誘惑と危険な計略

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7話 保養地を作るわよ

山あいを抜ける風が、木々の葉を揺らしている。


今、私は――。

王都を抜け、さらに街道を進んだ先。私たちは山々に囲まれた場所へやって来ていた。


けれど、いつもなら目新しい景色に心を弾ませるところなのに、今日の私はどこか気が晴れなかった。どうしても、クラリッサのことが頭から離れない。

あれから、彼女からの連絡は一度もなかった。こちらから便りを送ることも考えた。けれど、無理に踏み込むことはできない。

リリィにも話したように、ダイエットは本人の意思が何より大切だ。他人が外から口を出したところで、どうにもならないこともある。

それに――。


「……余計なお世話を焼けば、かえってクラリッサを追い詰めてしまうかもしれないものね」


そう自分に言い聞かせながら、私は胸に残るわだかまりを抱えたまま、目の前の景色へ視線を移した。


「緑が多くて、のどかな場所だね」


カミルが辺りを見回しながら言う。

確かに王都の喧騒から離れたその景色には、時間さえもゆったりと流れているような趣がある。小鳥のさえずりが澄んだ空気の中に響き、遠くには山々が連なっていた。


「そうね、お天気もいいし……こんなところでピクニックしたら気持ちよさそうね、ふふ」


つい、笑い声が零れる。

もっとも、今日の目的はピクニックではなかった。新たな保養地を造るための候補地調査にこの地を訪れていた。


その構想のきっかけとなったのは、東方の国・ヒノモトで過ごした日々だった。

数ある文化の中でも、私の心を強く惹きつけたもの。それが、“温泉”だった。


湯船に足を踏み入れた瞬間、まず「熱い」と息を呑んだ。けれど肩まで身を沈めると、その熱さはいつしか心地よさに変わっていた。強張っていた肩や腰が、じんわりと緩んでいくのがわかる。気づけば、「はぁ~~、気持ちいい……」と長い息が漏れていた。日ごろの疲れだけではなく、張り詰めていた心までゆっくりと解きほぐされていくようだった。

あの心地よさは、とても贅沢だった。前世の日本にも温泉はあったが、この世界でも改めて浸かってみると、その有り難みが一層身に沁みた。人を健やかにし、明日への活力を与えてくれる。まさに癒やしの場所だった。


――リューベンハイト王国にも、こんな温泉があればいいのに。


ヒノモトから帰って来ても、その思いは私の胸に残り続けていた。だから私は決めたのだ。この王国にも、誰もが心からくつろげる温泉保養地を造ろうと。


それに何といっても、温泉はダイエットにも効果的だもの!

肌にもいいし、美容の味方である。

温泉は、身体を温め血行を促し、肌の調子を整える効果も期待できる。ダイエットや美容を広めてきた私にとって、これほど心強い味方はないだろう。


そこで私は各地へ調査員を派遣し、温泉の情報を集めてもらった。

湧出量は十分か。湯の温度や泉質はどうか。景観は美しいか。王都からのアクセスは良好か。それとも街道を新たに整備する必要があるのか。

そうして寄せられた数多くの報告書を比較した結果、最も有望だと判断した土地が、この場所だった。


「問題なさそうね。早速手配して、建設を進めましょう」


そう告げると、同行していた測量士や職人たちの表情が引き締まった。


「承知いたしました、エリザベート様」


責任者の男性が一礼し、抱えていた設計図の筒を大切そうに抱え直す。


私は改めて周囲を見渡した。

まだ何もない。あるのは豊かな自然と、この地に湧く温泉だけ。

けれど、ここに私の理想の保養地を立てるのだと思うとわくわくした。


「まずは街道の整備からかな」


カミルが地図を広げながら言った。


「ええ。せっかく素晴らしい温泉があっても、人を呼べなかったら意味がないものね」


話し始めると、次々と構想が浮かんでくる。


「そうね……。温泉は、この景色を楽しめるように配置したいわ」


「自然が綺麗な場所だからね」


「ええ。だから、露天風呂を作ろうと考えてるの。ヒノモトのように四季を感じられる庭園も造りたいわ。冬には雪景色を眺めながら、温泉に浸かれたら素敵だわ」


「雪を見ながら風呂か……。そんなこと、考えてもみなかったな」


私はさらに夢中で言葉を重ねた。


「それから、食事にもこだわりたいの。身体も心も綺麗になる場所にしたいわ!」


隣で聞いていたカミルが、くすりと笑った。


「もう完成図が頭の中にあるようだね」


「ええ! 止まらないわ!」


私もつられて笑ってしまう。

新しいことを始める時は、いつだって胸が高鳴る。


「温泉は美容だけではなく、健康にもいい。ヒノモトでは怪我や病気の療養の為に利用されていた。王国にもそういう場所が出来たら良いなと思っていたんだ」


「温泉に含まれる成分には色んな効用があるものね。特に筋肉や関節の慢性的な痛みを和らげたり、神経痛の症状を軽くしたりすると聞いたわ」


「ああ。それに、治療を終えた人が身体を休めたり、少しずつ体力を取り戻したりする場所としても役に立つだろう」


医師としてカミルの言葉には確かな説得力があった。


「……ますます、ここを造るのが楽しみになってきたわ」


「僕も保養地が出来るのが楽しみだよ」


まだ更地しかないというのに、私たちにはすでに多くの人々がこの地に訪れる光景が見えていた。

病を癒やすために訪れた人が元気を取り戻し、美しくなりたいと願う女性が自信を取り戻す。


そんな笑顔であふれる場所を、この王国に生み出したい。

私は拳をそっと握り締め、目の前に広がる土地を見据えた。


「さあ、この国で一番の保養地を造りましょう!」


私の声が青空へ響く。

その一言を合図にしたかのように、待機していた職人や測量士たちが一斉に動き始めた。


「杭はこちらへ!」


「まずは測量を進めるぞ!」


「資材の搬入経路も確認しておいてくれ!」


あちこちで威勢のいい声が飛び交い、静かだった山あいの土地に活気が満ちていく。

白い縄が張られ、測量用の杭が一本、また一本と打ち込まられた。

図面を広げる者、地盤を確かめる者、川の流れを調査する者。


こうして、王国初となる本格的な温泉リゾート計画はゆっくりと一歩を踏み出したのだった。


「エリザベート様ー!」


弾むような声が聞こえ、振り返る。

そこにはアメリアが両手を口元に添え、こちらへ向かって手を振っていた。


「お食事の用意ができましたので、お昼にいたしましょう!」


見ると、大きな樫の木の下には、いつの間にか敷き物が広げられていた。その上には木製の皿が並べられ、水差しや果物まで用意されている。

爽やかな風が木々の葉を揺らし、心地よい木漏れ日が芝生へまだら模様を描いていた。


「あら、ありがとう」


私はカミルと顔を見合わせ、小さく笑い合う。


「では、少し休憩にしましょうか」


「ええ。午後からも忙しくなりますからね」


二人並んで木陰へ向かうと、そこではリリィが行儀よく座って待っていた。

膝の上には、大切そうに抱えた大きな籠がある。


「料理人さんが、外でも食べやすいようにって、サンドイッチを作ってくださったんですよ!」


嬉しそうに蓋を開ける。

籠の中には、色鮮やかなサンドイッチがきれいに並べられていた。

中には、色鮮やかなサンドイッチがきれいに並んでいる。ハムと新鮮な野菜をたっぷり挟んだもの。香辛料で風味をつけた鶏肉とチーズを重ねたもの。

どれも彩り豊かで、見ているだけで食欲をそそられた。


「わあ……美味しそうね」


思わず声が漏れる。


「料理長も張り切っていましたよ。外で食べるなら、片手で食べられる料理が一番ですって」


リリィがくすくすと笑う。

私は一つ手に取り、ぱくりと頬張った。ふわりと柔らかなパンに、瑞々しい野菜の歯触りと鶏肉の旨味が重なって、口いっぱいに広がっていく。


「ん~、美味しい!」


思わず頬が緩んでしまう。


「ピクニックをするつもりはなかったのだけれど……」


私は周囲を見渡した。

木漏れ日が揺れ、小鳥がさえずり、爽やかな風が頬を撫でる。

遠くでは職人たちが忙しそうに働いているものの、この木陰だけは穏やかな時間が流れていた。


「やっぱり、こうして外で食べるのは特別感があるわね……」


「?」


リリィはきょとんと首を傾げる。


「ふふ、何でもないの」


私は笑いながらもう一口サンドイッチを頬張った。


「このサンドイッチとても美味しいわねって言ったの」


そう呟くと、カミルも穏やかに微笑み、同じようにサンドイッチへ手を伸ばした。

木漏れ日の下で過ごすひとときは、忙しい毎日の合間に訪れた、小さな贅沢だった。

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