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【書籍化】悪役令嬢のダイエット革命!〜前世の知識で健康美を手に入れてざまぁします!~【3章スタート】  作者: 冬月子@悪役令嬢のダイエット革命2卷8/1発売!
3章 サロン《ラ・ベル・レジスタンス》と悩める令嬢たち――甘い誘惑と危険な計略

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5話 クラリッサの場合Ⅱ


「……ねえ」


窓から差し込む夕暮れの光が、彼女の横顔に長い影を落としていた。

覗いた彼女の瞳は昏かった。


「……噂で聞きましたの」


その声音に、私は嫌な予感を覚えた。

クラリッサは唇を湿らせ、続けた。


「“痩せ薬”というものがあるって……」


リリィがぴくりと眉をひそめる。

けれどクラリッサは気づかないまま、私をじっと見ていた。その視線に、私は何故か居心地の悪さを覚える。


「その薬……こちらのサロンでも、販売していませんの? もしかして、エリザベート様もその薬を使ったから、痩せられたんじゃなくて?」


「……いいえ、扱っていないわ。それに飲んでもいないわ」


私は、ゆっくりと首を横に振った。

けれど、クラリッサは納得していないようだった。


「本当に? 飲むだけで痩せられるのなら、その方がずっと楽じゃありませんか……」


「クラリッサ」


私は彼女の言葉を静かに遮った。


「“楽に痩せられる薬”なんてものは、この世に存在しないの」


「けれど、実際に呑んでいる方もいると聞きますわ」


クラリッサはなおも食い下がった。彼女の目はこちらを疑っている。

私は慎重に言葉を選んだ。彼女を否定して傷つけたいわけではないけれど、間違った方向へ進むのは止めたかった。


「……確かに、一時的に体重を落とす薬はあるわ。食欲を異常に抑えたり、身体へ無理な負担をかけたりしてね」


けれど、と私は続ける。


「でも……身体を壊してまで細くなることに、何の意味があるの?」


クラリッサの指先が、小さく震えた。


「意味ならあるわ。美しくさえなれれば……」


私は胸の奥が締め付けられるのを感じた。

彼女の気持ちは嫌というほど分かるから。

誰かに愛されたくて。認められたくて。昔の私もまた、痩せたくて必死だった。けれど、当時の私は……間違えたダイエットの知識のせいで、かえって傷つくばかりだった。


「けれどね、クラリッサ」


私はそっと彼女の手へ触れた。

冷え切ったその手を、包み込むように両手で握る。

どうか伝わってほしい。自分自身を傷つけてまで手に入れる美しさなど、本当の美しさではないのだと。

そんな願いを込めながら、私は言った。


「あなたが壊れてしまったら、意味がないのよ」


クラリッサはしばらく何も答えなかった。やがて、静かに目を伏せる。


「……分かりました」


その返事に、私はほっと胸を撫でおろした。私の気持ちを理解してくれたのだと思った。

儚げに微笑みさえ浮かべて、「私、ちゃんと頑張りますわ」と言って帰っていく姿に、私はひとまず安堵したのだ。


その後もしばらく、彼女は真面目にサロンへ通っていたけれど。

ある日からか、来なくなってしまった。


「……はあ」


私は大きくため息をついた。

リリィが憂いた声で呟く。


「最近、クラリッサ様がいらっしゃいませんね」


「そうね……」


「諦めてしまったのでしょうか」


リリィの問いかけに、私はすぐ返事をすることができなかった。


「ダイエットには本人の意思が大事なの」


私はゆっくりと言葉を選ぶように口を開いた。


「私たちは助言や手助けはできても、本人が続けようと思えなければ、どうにも出来ないもの」


実際、これまでにもダイエットに苦戦した客はいた。

例えば、男爵令嬢のマルグリットだ。

彼女はとにかく運動嫌いで、重たい腰をなかなか上げようとしなかった。食事制限も気づけばなし崩しになり、たった十分のストレッチですら、早々に音を上げてしまう。

あまりの根気のなさに、思わず額へ手を当てたことも一度や二度ではない。

けれど、そんな彼女も最終的にはダイエットに成功した。

きっかけは、講師役だったジャンとの大喧嘩。遠慮なく物を言う彼に、「デブのままだぞ」と言われたマルグリットは激怒したのだ。


『うきぃー誰が変われないですって!』


そこからは半ば意地だった。ジャンに馬鹿にされたままで終われるものかと、彼女は見違えるほど真面目に努力を始めたのである。そして、見事にダイエットを成功させたのだ。


だからこそ。

最初こそ真面目に助言へ耳を傾け、素直にダイエットへ取り組んでいたように見えたクラリッサが、途中で来なくなってしまったことは、私にとってひどく残念だった。


「……どうしたのかしら」


ぽつりと漏らした声に、リリィが小さく眉を寄せる。


「病を患っているのでなければ良いのですが……。そういった噂は聞きませんし、大丈夫だとは思いますけれど」


「そうね……」


私は頷きながらも、胸の奥に沈んだ不安を拭いきれなかった。

何故かしら。嫌な予感が、静かに喉元へ張り付いて離れないような気がした。

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