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【書籍化】悪役令嬢のダイエット革命!〜前世の知識で健康美を手に入れてざまぁします!~【3章完結】  作者: 冬月子@悪役令嬢のダイエット革命2卷8/1発売!
3章 サロン《ラ・ベル・レジスタンス》と悩める令嬢たち――甘い誘惑と危険な計略

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18話 ふたりの転生者Ⅱ

「絵莉奈……なの? 本当に?」


信じられないものを見るように見開かれた目。

その瞳にうっすらと涙の膜が張り、やがて震える唇がゆっくりと笑みを形作った。


「……?」


絵莉奈――?

その名を瞬間を聞いた瞬間、頭の奥に鋭い痛みが走った。ずきん、ずきん。私は、その名前を知っている。


「どうして……どうして、その名を……」


掠れた声で問いかける。

そうだ、それは私の前世の名前だ。忘れたはずの記憶が水底から浮かび上がった。

ジゼルは、今にも泣きだしそうな顔のまま微笑んだ。


「あ、あはっ……まさか、本当に! 絵莉奈なんだね!? あんたまで転生してるなんて!」


歓喜に震える声。

けれど、私は戸惑うばかりだった。何故彼女が、私自身ですら忘れていた前世の名前を知っているのか、分からなくて。理解が追い付かず、思わず一歩後ずさる。

頬の筋肉が強張り、唇も自然と引き結ばれる。


「ねえ、分からない? 私だよ」


戸惑う私に、ジゼルは優しく微笑んだ。

まるで親しい友人に書けるような音声で。どくりと鼓動が鳴った。


「紗良だよ」


「……サラ」


「そう、芦泉紗良だよ!」


私はその名を口にする。


「会えるだなんて……思わなかった……」


「……紗良、なの?」


私はもう一度、その名を口にした。

先ほどまで思い出せなかった――かつての同僚であり、前世で友人だった彼女の名前を。


頭の奥がずきずきと痛む。忘れていた記憶が、堰を切ったように押し寄せてくる。

一緒に働いていた日々。仕事帰り、並んで歩い道。疲れた日は、二人で食事をしながら愚痴をこぼし合った。休日には買い物へ出かけ、くだらないことで顔を見合わせて笑い合った。

どれも、遠い昔の記憶。それなのに……。今、目の前にいる彼女を見た瞬間、そのすべてが鮮明に蘇ってきた。


「……本当に、絵莉奈なんだね……」


ジゼルは、泣き笑いのような表情を浮かべた。そして、まるで確かめるように、私の前世の名前をもう一度呼ぶ。

その声には、再会を心から喜んでいることが滲んでいた。


「会いたかった……!」


胸が締めつけられる。

私だって――会いたかった。もう二度と会えないと思っていた友人と、こうして異世界で再会できたのだ。

本当なら、私も笑って再会を喜びたかった。

けれど。


「……」


私は、どうしても笑うことができなかった。

そんな私の様子に、ジゼルも気づいたのだろう。さっきまで浮かべていた笑顔が、少しずつ消えていく。


「絵莉奈?」


戸惑うように、私を見る。


「……会えて、嬉しくないの?」


「ち、違うわ!」


咄嗟に首を横に振った。


「嬉しいわよ……。あなたと会えたことは……本当に、嬉しい」


それだけは嘘ではない。もう会えないと思っていた。

前世で大切だった友人と、こんな形で再び巡り会えたことは奇跡だと思う。

それなのに――。

頭の奥が、またずきりと痛んだ。嬉しいという気持ちと、目の前の彼女を許せないという気持ち。相反する二つの感情が胸の中でぶつかり合い、私は拳を握りしめた。

そして、どうしても聞かずにはいられなかった。


「どうして――……」


言葉が、喉に引っかかる。

目の前にいるのは、本当に紗良なのだろうか。

もし、この人が紗良だというなら。

仕事を抱え込んだ私を、「お人よしすぎるんだよ、絵莉奈は」と呆れながらも助けてくれた。私が「大丈夫だから」と断っても聞かず、隣の席に座って一緒に残業してくれた。時には、「差し入れだよ」と缶コーヒーを手渡してくれることもあった。

そんな、優しい友人だったはずなのに。


なのに、どうして。どうして今、あなたはこんなことをしているの?

込み上げる感情を抑えきれず、私は震える声で問いかけた。


「どうしてなの? どうして……こんなものを売るようになったの?」


その問いを受けて、紗良――ジゼルの表情が曇った。


「絵莉奈……」


「痩せ薬だなんて、女性を苦しむものを売って。それだけじゃないわ。危険な化粧品まで……。貴方はそんな事をする人じゃなかった筈よ……」


再会出来た嬉しさよりも、戸惑いの気持ちが大きかった。

目の前の彼女に、納得できる理由があってほしかった。前世で友人だった優しい彼女のままでいてほしかった。

そもそも、本当に彼女なのだろうか。そんな疑問まで湧いてくる。


「……絵莉奈。そっか、あんたも分かってくれないんだね」


どこか諦めたような笑みを浮かべた。


「ジゼル……」


「どうしてって?」


彼女は自嘲するように笑った。


「この世界はゲームの世界なんだよ? ゲームの世界に転生したんだよっ! それならさ……」


その言葉に、私は眉をひそめる。だが、ジゼルは構わず続けた。


「所詮、みんなNPCじゃない」


吐き捨てるような口調だった。


「なら、気に掛ける必要なんてないだろ?」


「何を言って――」


「だってそうじゃない」


ジゼルは私の言葉を遮った。


「ここは現実じゃない。私たちがいた日本じゃない」


その瞳には諦めにも似た色が浮かんでいた。

力なく肩を落とす。


「突然こんなゲームみたいな世界に転生させられてさ。最初は何かの冗談かと思った」


遠くを見るように目を細めた。


「私だって、はじめからこうだったわけじゃないさ。突然こんなゲームみたいな世界に転生させられてさ……。最初は何かの冗談かと思った。でもね、はじめは嬉しかったんだよ? まるで漫画や小説の主人公になったみたいで」


自嘲に似た笑みが浮かんだが、その笑みはすぐに消える。


「でも現実は全然違った」


声が低く沈む。


「日本とは常識が何もかも違うし」


「……」


「私が何か言ったって誰も聞いてくれない」


拳を握り締める。


「前世の知識を話せば変人扱い。少しでも反論したら、生意気だって怒られる。周りは誰も私の話なんて聞いてくれなかった」


ジゼルの瞳に、長い年月押し込めてきた苦しみが滲む。

その言葉には怒りよりも、深い疲労が滲んでいた。


「ねえ、絵莉奈」


ジゼルはかすかに笑う。その笑みは痛々しいほど弱々しかった。


「前世じゃ当たり前だったことが、何一つ通じないんだよ。常識も価値観も違う。家族とも周囲の人間とも、誰とも分かり合えない。――どれだけ時間が経っても、私は一人だった」


その声には、長い孤独が滲んでいた。


「こんな世界で、一人ぼっちだった私の気持ち……あんたなら、絵莉奈だったら、分かってくれると思ってたんだけどな」

エリザベートの前世の友人なのですが……実は、2章の閑話「誰かの葬式」と3章1話に登場しています。お時間がありましたら、ぜひ読み直してみてください。今回の話が、より楽しめるかと思います!


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