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【書籍化】悪役令嬢のダイエット革命!〜前世の知識で健康美を手に入れてざまぁします!~【3章完結】  作者: 冬月子@悪役令嬢のダイエット革命2卷8/1発売!
3章 サロン《ラ・ベル・レジスタンス》と悩める令嬢たち――甘い誘惑と危険な計略

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19話 ふたりの転生者Ⅲ

「そんな世界で、一人ぼっちだった私の気持ち……あんただったら、分かってくれると思ってたんだけどな」


寂しげに笑うジゼルを見て、胸が痛んだ。分からないわけではない。

孤独を感じたことがないと言えば嘘になる。

前世があると信じてもらえないような内容、誰にも言える訳なくて、息苦しさを感じた。

けれど。


「あなたが、どれほど辛かったのか。どれほど孤独だったのか……私には全部は分からない。あなたがこの世界で過ごしてきた時間を、知っているわけじゃないもの。あなたが苦しんできたことを、否定したいわけでもない……」


「……絵莉奈」


「でも――」


そこで、私は一度言葉を切った。

ここだけは、どうしても伝えなければならない。


「だからって、他人を傷つけていい理由にはならないわ」


ジゼルの表情が固まる。


「……」


「あなたが辛かったことと、あなたが誰かを傷つけたことは、別の話でしょう?」


「でも……ここはゲームの世界で――」


「違うわ」


私は、はっきりと首を横に振った。


「ここは、ゲームなんかじゃない」


「……」


「あなたがそう思いたい気持ちは……正直、分からないわ。でも、そうね。そうでも思わなければ、耐えられなかったのかもしれない。誰にも理解されない孤独から、自分を守るために、そう思い込むしかなかったのかもしれない」


それでも――。


「ここにいる人たちは、NPCなんかじゃないわ」


私は窓の外へ視線を向けた。

二階から見下ろす街には、今日も大勢の人々が行き交っている。


楽しそうに笑い合う声。

誰かを呼ぶ声。

店先で交わされる、他愛のない会話。


そこには、確かに人々の暮らしがあった。


「みんな、生きている人間よ」


一人一人に家族がいる。

大切な人がいる。

叶えたい夢がある。

そして――明日も生きたいという願っている筈。


「あなたが売った痩せ薬を飲んだ人たちだって、同じよ」


私はジゼルへ視線を戻した。


「綺麗になりたい。少しでも自分に自信を持ちたい。……ただ、それだけを願っていた人たちでしょう?」


紗良の肩が、小さく震える。


「その人たちが苦しむのを見て、何も思わない?」


「……」


「もう、やめて。お願いだから……」


咎めるような真似はしたくなかった。ただ、友人として伝えたかった。


「これ以上、誰かを傷つけるのは……やめてちょうだい」


ジゼルは俯いたまま、何も答えない。

そんな彼女を見つめながら、遠い記憶を思い出していた。


「前世のあなたは……優しい人だったじゃない。私は、そんなあなたを知っている」


だからこそ。


「あなたのことを責めたいわけじゃないの。ただ……昔のあなたに戻ってほしい」


その言葉を受け、ジゼルは俯いたまま、しばらく黙っていた。何かを噛みしめるように唇を結んでいたが、重い口を開く。


「……絵莉奈は、全然分かってない。私は優しい人間じゃないよ。前世から、変わらずね」


掠れた声が、ぽつりと落ちた。


「……絵莉奈は変わらないね。昔からそうだった。正しいことばっかり言う。茉莉奈、でもさ」


ジゼルは窓の外へ目を向けた。


「私はあんたみたいにはなれなかったんだ」


静かな声だった。その声には、諦めが滲んでいた。

私は何か言おうとして、言葉を失う。何を言えばいいのか分からなかった。


前世からの友人。

久しぶりに再会できた相手。

なのに、こんなにも遠い。

まるで互いに違う世界を見ているようだった。


長い沈黙が落ちる。

やがて、ジゼルが先に口を開いた。


「……今日は帰ってくれない?」


私は顔を上げた。


「ジゼ……ル」


「これ以上話しても、たぶん平行線だからさ」


彼女は苦く笑う。


「絵里奈は絵里奈の考えを変えないだろう。……私も今更、変えられないよ」


その通りだった。

きっと今の私たちは、何時間話しても分かり合えない。

美容に対する考え方も。

人との向き合い方も。

この世界の捉え方も。

何もかもが違ってしまっていた。


「……分かったわ」


ようやくそれだけを返す。

ジゼルは少しだけ寂しそうに笑った。


「久しぶりに会えて嬉しかったよ」


その言葉は本心だったのだろう。

だからこそ胸が痛んだ。


「私もよ」


そう答えると、ジゼルの睫毛がかすかに震えた。

けれど、それもほんの一瞬のことだった。

次の瞬間には、先ほどの余裕たっぷりの表情を浮かべている。


「じゃあね、絵里奈」


私はゆっくりと扉へ向かう。けれど、部屋を出る直前になって、もう一度だけ振り返った。

窓辺に佇むジゼルの姿が目に入る。逆光のせいで、その表情はよく見えない。まるで手を伸ばしても届かないほど遠くにいるように、ひどく小さく見えた。


「……また、来るから」


私は、できるだけ穏やかな声で告げる。


「その時は、きちんと話し合いましょう」


返事はなかった。それ以上何も言わずに、私は部屋を出た。

扉が閉まる音だけが響く。その音が、まるで私たちの間に引かれた境界線のように聞こえた。


***


「またね」と別れたけれど、二度とジゼルと会うことはなかった。再びサロンを訪れたとき、そこはすでに閉店していた。


「え……? 閉店って、どういうこと?」

「昨日までは普通に営業していたはずよね?」


店の前には困惑した令嬢たちが集まっていて、突然の閉店に、誰もが状況を理解できずにいた。

店員たちもまた同じだった。何が起きたのか分からない様子でサロンの前に立ち、押し寄せる客たちに説明を繰り返していた。

そのなかのひとりが私に気が付くと、駆け寄って来た。「エリザベート様ですね? こちらをオーナーから預かっています」と言って、一通の手紙を手渡してくる。


「私に手紙?」


受け取った封筒を開く。そこに記されていたのは、痩せ薬とその他の美容品の詳細な成分と、その製造方法だった。


――そうして。

その日を境に、ジゼルは私の前から姿を消した。

明日も続けて更新予定です!

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