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【書籍化】悪役令嬢のダイエット革命!〜前世の知識で健康美を手に入れてざまぁします!~【3章完結】  作者: 冬月子@悪役令嬢のダイエット革命2卷8/1発売!
3章 サロン《ラ・ベル・レジスタンス》と悩める令嬢たち――甘い誘惑と危険な計略

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16話 対峙するふたり

翌日。私は一人、馬車に揺られていた。


向かう先は、今、王都で話題を集めている新興サロン。瞬く間に勢力を広げている、ヴィクトリアサロンだった。

窓の外を流れていく街並みを眺めながら、私は深く息を吐いた。


怒りに任せて乗り込むつもりはない。感情だけでは、何も解決しないからだ。

けれど――危険な薬を扱っているのを止められないのなら。女性たちの健康を犠牲にして、利益を得ている彼女を、このまま見過ごすわけにはいかない。


絶対に。

私は膝の上で、力強く手を握りしめた。


やがて馬車がゆっくりと速度を落とし、静かに停車する。

従者が扉を開けた。私は馬車を降り、目の前にそびえ立つ建物を見上げる。


白を基調とした壁面。

大きな窓。繊細な装飾が施された外観は、まるで貴族の邸宅のように華やかだ。

その中央には、店の名を刻んだ美しい看板が掲げられている。


私はそれを見つめ、静かに目を細めた。


「ジゼル・ローゼンベルク……」


低く呟く。


「今度は、私から会いに来たわよ」


意を決して、扉を開く。

その瞬間、甘く上品な香りがふわりと鼻をくすぐった。

白を基調とした明るい店内。大きな窓から降り注ぐ陽光が、磨き上げられた大理石の床を照らしている。


そこには、多くの女性たちがいた。

楽しそうに談笑する令嬢たち。鏡の前で自分の姿を確かめ、満足げに微笑む夫人たち。施術を受けながら、嬉しそうに会話を弾ませる客たち。

私は思わず足を止めた。


……想像していたより、ずっと普通だったから驚いた。

いや。普通どころか――繁盛している。怪しげな雰囲気など、微塵もない。店内には華やかな笑い声が響き、客たちは皆、楽しそうに時間を過ごしている。とてもじゃないけれど、ここが危険な薬を扱っている店には見えなかった。


「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」


受付の女性が、にこやかな笑みを浮かべながら近づいてくる。


「ジゼル様にお会いしたいのだけれど」


そう告げると、女性は一瞬だけ目を見開いた。

けれど、すぐに営業用の笑顔へ戻る。


「オーナーに、ですか? 失礼ですが、事前にお約束は……」


「――ああ。話は通ってるから、通してくれて構わないよ」


その声に、私は顔を上げた。

店内の奥。二階へ続く螺旋階段から、一人の女性がゆっくりと姿を現す。

ジゼルだった。


「オーナー!」


受付の女性が驚いたように声を上げる。

ジゼルは階段を降りながら、私へ視線を向けた。


「とは言っても、手紙が届いたのはほんの今朝だけどね」


口元に薄い笑みを浮かべる。


「ちょっと無作法だとは思うけど……私も、そろそろあんたと話がしたいと思ってたんだ」


その言葉に、私は黙って彼女を見つめ返した。

やがてジゼルは踵を返し、階段の先を指し示す。


「こっちへ来てくれ。二階に応接室がある」


私はその背中を追った。肩まであるダークブラウンの髪。すらりとした長身。仕立ての良いパンツスタイル。男装こそしていないものの、どこか仮面舞踏会で会ったあの人物を思わせる。

案内された先は二階の応接室だった。扉を開き、中へと促すとジゼルは振り返った。そして微笑む。


「ようこそ、エリザベート様」


やはり同じ声だった。


「ジゼル・ローゼンベルクね」


「うん」


彼女は優雅に礼をする。


「改めまして、私がこのサロンのオーナーだ。また、お会いできて光栄だよ」


ソファを勧められたものの、私は腰を下ろす気にはなれなかった。

立ったまま彼女を見つめていると、彼女だけがゆっくりとソファに腰を下ろした。


「で、要件は何?」


「単刀直入に聞くわ」


ジゼルの眉がわずかに上がる。


「貴女のサロンで販売している痩せ薬……」


空気が変わった。

先ほどまでの柔らかな雰囲気が消える。


「何のこと?」


「とぼけないで」


私は真っ直ぐ彼女を見る。


「……貴方の客の一人に、クラリッサという夫人がいるでしょう」


ジゼルは黙っている。


「急激な体重減少に脱毛。精神の不安定化。明らかに異常な症状よ」


思わず、声に熱が宿る。


「貴女のサロンの商品が原因ではないの?」


しばし沈黙が流れた。

やがてジゼルは静かに椅子へ腰掛ける。


「とりあえず、座ったらどう? 立ち話もなんでしょう」


「答えなさい」


「まずは落ち着いてよ」


穏やかな口調だった。それが余計に癇に障って、自然の声が大きなる。


「一人の女性が傷付いたのよ!……私の夫まで、怪我をしたわ!」


ジゼルの表情が僅かに曇った。それは初めて見せる感情だった。


「……それは初めて聞いたな」


「なら!」


「だけど……」


ジゼルは静かに言った。


「それがどうしたっていうの?」


私は眉をひそめた。


「それがどうした、ですって?」


「私の客が貴方に迷惑を掛けたようだけど、私には関係ないだろ?」


まるで当然のことを確認するような口調だった。


「大体ね、彼女は痩せたいと望んだ。だから私は痩せられる方法を提供した、それだけだよ。何も問題はないと思うけど?」


その口振りに私は声を荒げてしまいそうになる。


「関係ない訳、ないでしょう……。貴方の薬で、クラリッサは健康を失ったのよ。精神まで不安定になっているのっ」


「それは、彼女が望んだことだろ。彼女は望み通り痩せたんだ。そもそも精神が不安定になったことに、うちが売っている商品が関係していると証拠はあるの?」


ジゼルは一歩も引かなかった。静かな瞳で私を見る。

私は息を呑む。その態度に怒りが込み上げる。


「貴女……!」


しかし、彼女は私の怒りを気にした様子もなく、わざとらしくため息をする。


「はぁ……。なんで、悪役令嬢のエリザベートが人のために怒ってるんだか。まったく、らしくない……笑わせてくれるよね」

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