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森の中へ

 一矢達を乗せた馬車が止まった。


「痛ッ! ベティ刺さったよ!」


 一矢は穂先が触れた首の辺りを手で押さえながら言う。


「刺さりましたね……フフッ」


 恍惚とした表情でベティーナは『スネーク・バイト』の穂先を眺めた。


「危ないからッ! 色んな意味で!」


「ほら、サッサと降りるわよ!」


 エイミーは騒ぐ一矢を押す。


 押された一矢は一歩前によろける。


 そしてその先には『スネーク・バイト』が。


「本当、危ないですよね」


 ベティーナは一矢に笑いかける。


 一矢はその場にへたり込む。


「ベティも遊んでないで早く! 後ろがつかえてるんだから」


 エイミーはそう言って馬車を降りる。


 ベティーナは『スネーク・バイト』を元の槍形態に戻すと荷物を持って馬車を降りる。


 次にリュックを背負ったクレアが降りる前に一矢へ笑いかける。


「ちょっと火がついちゃったみたいッスね」


「ちょっとじゃねぇよ! この旅が始まる前に終わるところだったぞ」


 一矢は降りるクレアの背中に向けてそう言った。


「良いから降りろって言ってんでしょ!」


 エイミーに怒鳴られ、慌てた一矢は馬車から転がり落ちる。


「一矢殿、大丈夫ですか?」


 ベティーナは倒れてる一矢に手を差し伸べる。


『あ……イケメンだ』


 怪しく槍を眺めていたのは別人だったのではないかと一矢には思えた。


「ありがとう」


 一矢はベティーナの手を掴んで立ち上がった。


 二人は手を繋いだまま微笑む。


『か、可愛い』


「……良かったわね」


 気が付けば馬車を降りたエイミーが隣で一矢を睨んでいた。


「おわっ! 違うって、違わないけど違う!」


 慌てて一矢は手を離す。


「ふん。コレ、あんたの荷物よ」


 一際大きいリュックをエイミーは一矢に押し付ける。


「ムフフッ! エイミーさんの『ツン』も五割増しッスかね?」


 クレアが口を押さえて笑った。


 一矢はリュックを背負う。


「いつでも『デレ』て良いからな」


「『デレ』るか!!」


 騒ぐ一矢達の後ろにエレナ達が現れる。


「相変わらず緊張感が足りないようですね」


「フェイ。私はそんな一矢様達が頼もしく思いますよ」


 呆れ顔のフェイとは反対にエレナは優しい笑みで一矢達を見ていた。


 一矢達は横一列に並ぶと、目の前に広がる森を眺める。


 生い茂る木々に光を遮られ森は暗い。


『とうとうこれから魔王への旅が始まるんだな』


 一矢は改めて気を引き締める。


「一番乗りッス~!」


 明るい声をあげ、クレアが駆け出す。


「あっ、こらーッ! こういう時はリーダーが最初って決まってるだろ!」


 一矢がクレアの後を追う。


「まったく、本当に緊張感の欠片も無いんだから」


 ため息をつくエイミーにエレナは笑いかける。


「平和への旅なのですから、笑って明るく行きましょう」


 エイミー達が追い付くと、クレアと一矢が言い合っていた。


「何でリーダーの俺より先に入っちゃうんだよ! もう一回やり直し!」


「へへ~ん。やり直しても一番乗りしたのはわたしなのは変わらないッス〜」


「いいや、まだ始まってないからノーカウントです〜」


「分かったッス。それじゃあ、わたしがリーダーってことで良いんじゃないッスか?」


「なにが良いんだよ! なんでリーダーの座まで取ろうとすんの!」


 エイミーが一矢を叩く。


「二人ともいい加減にしなさいよ!」


「……なんで俺だけ殴られるの」


 一矢のボヤキを聞きながら、一行は森の奥へと進んでいく。


「……居るわね」


「やはり、エイミー殿も感じますか」


 エイミーとベティーナが周りに意識を向ける。


 それでも一矢とクレアは競うように先頭を進んでいく。


「一矢殿、クレア殿お気をつけ下さい!」


「平気平気! だって俺達」


 一矢の前方十メートル先に一体のウェアタイガーが現れた。


 一矢はそれでも歩みを緩めない。クレアはそっと一矢の後ろに回る。


「やっぱり先頭は譲るッス」


「そいつはどうも」


 ウェアタイガーの目の前まで進むと一矢は立ち止まる。


「俺がナンバーワンだもんな?」


 ウェアタイガーの喉が低く唸る。


 それでもウェアタイガーは道を開ける。


 それを見てベティーナは安堵のため息を漏らす。


「一矢の言うとおり。あたし達の方が序列は上なんだから強気で行かないとか。でも隙は見せないでね」


「まぁこのナンバーワンの一矢様についてきな!」


「リーダーはわたしッスけどね」


 そう言うクレアの耳をエイミーは後ろから掴む。


「クレアもまぜっ返さないの!」

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