砦出発
次の日、一矢達は砦を出発した。
砦に来た時のように二つの馬車に乗って。
一矢の隣にはやっぱりエイミーとベティーナが座っていた。
クレアは三人の向かいに座り、何かを期待するような目で一矢を見ていた。
一矢は嫌そうにクレアを見返す。
クイッ
クレアが一矢を顎で指す。
『はぁ?』
一矢がアイコンタクトでそう答える。
クイッ、クイッ
今度はエイミーとベティーナをクレアは顎で指した。
『止めてくれよ』
一矢がそう思った時、エイミーがクレアの態度に気付いた。
「どうしたのクレア?」
「いや~、せっかくの新たな門出なのに、誰も喋らないな~って思ってたッス。誰か口火切ってくれないッスかね~」
そう言ってクレアは一矢を見る。
『……面倒臭い奴め』
そう思いながら、一矢は一つ咳払いする。
「みんな、これから厳しい道のりになるだろうけど、頑張ろうな」
一矢が笑顔で言うとクレアはため息をついて呟いた。
「真面目ッスか」
「何だよ! 人に無理矢理喋らせといて!」
「一矢さんはこの戦いが終わったら誰かと結婚するんですか?」
一矢の話を聞いていないかのようにクレアは言う。
「なに変なフラグ立てようとしてんだよ。
しないよ、そんなの。……はっ!」
そこで両サイドから猛烈な視線を一矢は感じた。
『しまった。狙いはコッチだったか』
一矢の緊張した面持ちを見て、クレアはニヤリと笑った。
「ふ~ん。一矢は結婚願望とか無さそうだもんね」
エイミーの口振りは普通だった。
だが一矢は射抜くような視線をヒシヒシと感じる。
「私はそれでも構いませんよ」
ベティーナも普通そうだ。
「私は好きな人と一緒に居られれば幸せです。……死んでも」
ベティーナが一矢を見る。
『何だよ最後の死んでもって! 怖いよ!』
「あれ~、もしかしてベティーナさん。好きな人が」
「ベティは凄いよな!!」
一矢がクレアの言葉に覆い被せるように叫んだ。
「ほら、ソレッ! そのカシンッカシンって変形する槍! いや~アレだよね? 前は持ってなかったよね~? ねっ?」
「あっ、これはお婆様から戴いた家宝の槍、『スネーク・バイト』と申します」
「へぇ~、家宝なんて凄いじゃん! どうなってんの?」
「こことここを持って反対に捻ると、三つに分かれるんです」
ベティーナがそう言って捻ると槍は三つに分かれた。
「穂先の方は剣、反対側は短槍、真ん中は防御用に使える攻守一体の武器なんです。それに魔力も込められていますので、物理攻撃に強い魔族にも十分威力を発揮できるんです」
「スゲー! いや~凄いね! ねっ、みんな!」
「……そうね」
エイミーは一矢のテンパり具合にちょっと引き気味だ。
「でも何が凄いって、あのベティーナさんが一体誰に」
「凄いと言えばさー! クレアはどうだったの~!?」
尚も話題を戻そうとするクレアに一矢は話をふる。
「どうだったと言われてもッスね〜」
クレアはつまんなそうだ。
「だからさぁ、何とか魔法団に入ったんだろ?」
「王宮魔法団ッスね。入ったッスよ? 一応」
「一応って何だよ」
「だから入ったけど辞めちゃったんッス」
「えぇーー!!」
エイミーと一矢は驚きの声をあげた。
「ふふふっ、その顔が見られれば辞めたかいがあったスね」
クレアは笑うが一矢達は真面目だ。
「何で、何で辞めちゃったのよ! だってずっと入りたかったんでしょ? 誰でも入れる訳じゃないんでしょ?」
クレアはため息をつく。
「良いスか」
クレアは急に真顔になった。
「夢と現実は違うんスよ。閉じられた王宮の中、選ばれたエリート達。なのに、何でみんなBLじゃないんスか!」
一矢とエイミーは開いた口が塞がらなかった。
「……それだけ?」
一矢は何とかそれだけを言う。
「そんな人を我慢の足りない奴みたいに言わないで欲しいッス。一矢さん達がまた旅に出るって言うから『チャンス』だと思ってついて来たんじゃないスか!」
「何の『チャンス』だよ」
「勿論『爆笑の旅』に出るチャンスッスよ!」
「お前マジでそんな理由だったら、ある意味尊敬するぞ?」
「私は『笑いを求める旅人』なんスよ」
「おっ、じゃあもうBLは止めるんだな?」
「失礼。『笑いとBLを求める可憐な少女』ッス」
「可憐な少女が求めるもんじゃないだろ! 何で俺との旅にBL求めるんだよ! 俺が求めるのはハーレムなの!」
「あんたこそ諦めなさいよ」
エイミーがため息混じりに一矢へ言った。
「諦めたらそこで人生終了だぞ!」
「全然終了じゃないわよ! そんなんで終わる人生なんか始まらなくて良いから」
「一矢殿、人生終了される際は是非私に仰って下さい」
ベティーナが『スネーク・バイト』の穂先を一矢に向ける。
「俺、絶対に諦めない!」
硬く拳を握る一矢を見てクレアは微笑む。
「一矢さんなら本当にハーレム作りそうッスね」
そう呟くクレアの言葉は三人の喧騒に掻き消された。




