エレナの覚悟
「一矢殿」
シャガールが一矢に声をかける。
「森の奥へと行かれるらしいですが、いつ頃出発されるご予定でしょうか?」
「まぁ、別にのんびりする予定じゃないから、明日とか明後日ぐらいかな?」
一矢は仲間達を見回しながら言った。他のメンバーも異論は無いようだ。
「でしたらこちらで食料だけでも用意させて下さい。……クレア殿もその方が宜しいでしょう?」
シャガールの言葉にクレアは思わず顔を綻ばせる。
「いやッスよ〜。そんな大食漢みたいじゃないッスか。でも、是非お願いするッス!」
「もし必要であれば、微力ながら護衛も何名か付けますが、如何ですか?」
一矢達は互いに目配せする。
みんな何も言わない。
「エレナはどうする?護衛を付けてもらう?」
一矢がエレナを呼び捨てにすると、さっと不穏な空気が流れた。
特にフェイから。
「もし、このフェイに力の差を感じられるなら、そのまま砦の任務を全うして頂きたいです」
シャガールは黙って頷く。
魔法部隊隊長が身を乗り出す。
「我が隊には防御魔法に秀でた者もおります。力では敵いませんが、魔法ではどうですか? 力が欲しいんじゃないんですか?」
隊長は張り合うように言った。
「私達が向かうのは魔王の元。無駄に父の兵を死なせることは避けたいのです」
隊長の眉間に深い皺が刻まれた。もう笑みを取り繕う気もないようだった。
「ほう、姫様達なら生きて辿り着けるが、我が兵士達は辿り着けないと?」
「万に一つあれば、辿り着けると思っています。ですが万に一つの死地に兵を送るのは愚策でしょう」
エレナは一度言葉を切り、杯を握る手に力を込めた。
「最悪、死ぬのは私たちだけで良い。そう、覚悟しています」
隊長は空になった杯に視線を落とす。
シャガールは杯を持ち上げる。
「エレナ殿下と一矢殿達に」
その場に居る全員が杯を上げ、シャガールに応える。
厳かな雰囲気の中、杯の中身と共に、様々な想いを飲み込んだ。
そんな中、静寂を破ったのは一矢だった。
「ゲホッ!ゲホッ!鶏肉が喉に……」




