晩餐会
一矢の元へエイミーは駆け寄り、抱き付く。
「このバカッ! 本当に心配させて!」
「いや〜、マジで死ぬかと思ったよ。危なく盗賊に戻るところだった」
「盗賊? ……ハハッ、あんたらしいわ」
一矢から離れるとエイミーはベティーナに声をかける。
「ベティも勝って良かった。でも一矢よりは安心して見ていられたわ。流石ね!」
「……ありがとう」
ベティーナの複雑そうな顔を見て、エイミーは訝しむ。
ベティーナの一矢を見る目、そして自分の先程の行動を思い出した。
「ち、違うわよ! 今のはちょっと盛り上がっただけで、全然そう言うのじゃないからね!」
ベティーナはじっとエイミーを見詰める。
「ベティーナさん。油断しちゃ駄目ッスよ」
クレアが人差し指を振りながら前に出てきた。
「エイミーさんは砦の隊長さんから望遠鏡引ったくって全然離さなかったんスから」
「そ、それは……」
そこへエレナがやって来た。
「ベティーナさん。お顔に傷が。私が魔法で直しますので、こちらへ」
ベティーナはもう一度エイミーを見てから、エレナの元へ歩み出る。
ベティーナの頬にかざしたエレナの手が光る。
エレナの後ろにフェイが控える。
いつもの立ち位置だ。
「フェイも良く勝ってくれました。私は信じてましたよ」
エレナの言葉にフェイは頭を下げる。
「勿体無いお言葉です」
そんな三人を見ながらクレアは頭の後ろで手を組んだ。
「あ〜あ、私も治して貰いたいッスね〜。エイミーさんが絶叫しまくってたから、耳が痛くて痛くて」
「全然絶叫なんかしてないわよ! 違うわよ! 全然あれが地声だから! あー! なんかお腹減っちゃったなーー!!」
大声を張り上げるエイミーを一矢は耳を塞ぎながら笑った。
「素直じゃないな。俺に惚れてるのは知ってるから。ハーレム一号」
「誰がハーレム一号よ! 調子乗るんじゃないの!」
エイミーのパンチを一矢は軽々とかわす。
それを見ていたベティーナの傷口から、血が飛び出した。
「えっ!? そんな、魔法が弱かったかしら」
「エレナ様、これはエレナ様のせいでは無いかと」
フェイが静かに答えた。
「そう?」
エレナには何が原因なのかは分からなかった。
夕食の時間になると、一矢達は他の兵達とは別にテントを用意され、出される料理も一味違った。
そして、テーブルの中心はエレナだった。
その周りにフェイと砦の幹部達が並び、些細な晩餐会と言った風だった。
そして一矢達はテーブルの端の方、エレナとは一番遠くに座っていた。
「一矢殿。これも食べてみて下さい」
一矢の右側に座っているベティーナが鶏肉のソテーを一切れフォークにさして、一矢に差し出していた。
「ああ、ありがとう……」
一矢は皿を持って、ベティーナが鶏肉を置いてくれるのを待った。
だがベティーナはフォークに刺した鶏肉を一矢に向けたまま動かない。
ベティーナが口の端を上げていたので、きっと笑顔を作っているのだろう。
だが、その目は獲物をロックオンした鷹の目を一矢に連想させた。
正面に座っているクレアはニヤニヤしながらトマトを口に頬張る。
そして、一矢の左側に座っているエイミー。
一矢はエイミーの方を振り向けなかった。
エイミーからのプレッシャーを一矢はうなじに受け、背中には冷や汗をかいていた。
一矢には振り返る勇気が出てこなかった。
そしてベティーナの鶏肉が徐々に一矢の口に近付いてくる。
一矢は喉をゴクリと鳴らした。
『凄味を感じる。絶対食べさせる、という凄味が』
一矢が恐る恐る口を開けると、物凄い勢いで口の中にフォークが入って来た。
そして口の中でピタリと止まる。
『こ、怖い』
ギラリと光るベティーナの目に汗が止まらない。
一矢はナイフを口に入れられて脅されているような感覚に陥った。
『動きが、違う意味でプロのそれだ』
一矢はゆっくりとした動作で、鶏肉を口でフォークから抜き取る。
それを見て、ベティーナはニッコリと笑った。
自然な笑みだ。
一矢は緊張が抜けきらないまま、クレアの方を見た。
クレアは椅子から転がり落ちそうなほど笑い、一矢に親指と人差し指で丸を作って見せる。
背後から更なるプレッシャーが一矢を襲って来る。
『違う……俺が想像してたハーレムはこんなんじゃない……』
一矢は口に入れられた鶏肉を咀嚼するのも忘れていた。




