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ケンタウルス対ベティーナ

 一矢が振り向くとベティーナとケンタウルスは既に対峙していた。


 互いにゆっくりと槍を構える。


「お前を倒せば暫定的に私が二位で良いのかな? それとも三位かな?」


「安心して二位を名乗れば良い。ただし私に勝てればだがな」


 ベティーナ達の会話にフェイはピクリと眉を上げる。


「悪いが、二位決定戦が必要だからな」


 ベティーナ達にフェイは叫ぶ。


「だそうだが?」


「油断していて、胸に風穴が空いても知りませんよ」


 ベティーナの言葉にケンタウルスは笑う。


「やっとその気になってくれたか」


 ケンタウルスは槍を振り回すと、もう一度構え直す。


「私はケンタウルスのガルイド! お前の名を聞いておこう」


「私はベティーナ・ルナルディ! いざ尋常に」


 ガルイドはニヤリと笑う。


「勝負ッ!」


 ガルイドはそう叫んで走り出した。


 ベティーナは動かず迎え撃つ構えだ。


 ガルイドは鋭い突きを見せる。


 ベティーナはそれを払いのけると、ガルイドの首を狙って槍を薙ぎ払う。


 ガルイドもうまくかわした。


 ガルイドはそのままベティーナの脇を走り抜け、距離を取ったところで向き直る。


 そしてもう一度走り出した。


 今度は渾身の力を込めて、槍で薙ぎ払った。


 ベティーナは槍の柄を地面に突き刺し、ガルイドの槍を受ける。


 互いの槍がぶつかる瞬間、ベティーナは自分の槍を斜めにした。


 ベティーナが斜めにした槍の上をガルイドの穂先が滑る。


 またベティーナの脇を駆け抜けるガルイドに、振り向きざま、後ろ足を狙ってベティーナは槍を突き出した。


 ガルイドは上手く足をたたんでそれをかわす。


 そしてまたガルイドは距離をとった。


「なかなかやるなルナルディ。そう簡単には殺らせてくれないか。だが、それでこそだ!」


 今度はゆっくりとガルイドは近づいてくる。


 次に仕掛けたのはベティーナだった。


 ガルイドはベティーナの突きを払う。


 ベティーナもガルイドの槍を柄で弾く。


 ガルイドの前蹴りをベティーナはかわす。


 その時、ガルイドが手を振った。


 ベティーナは咄嗟に顔の前で両腕を交差させる。


 突然ベティーナの両頬が切れた。


「流石だな。私の仲間が使ってたかな?」


「フッ、初めてだよ。だが風の魔法を使うのは知っていたからな」


 ベティーナは改めて槍を構え直す。


「風……カマイタチか」


 遠くから見ていたフェイが呟く。


「良かったな。誰かと違い、鎧があって」


 ガルイドがククッと笑った。


「あいつ、俺の事ディスってんな」


 一矢はガルイドの言葉に口を尖らせる。


「私は騎士だから鎧を着ていますが、一矢殿は違います。ヒーローに鎧は必要ありません」


 一矢はベティーナにそう言われて、つい顔を綻ばせた。


『ベティ、ヒーローでも鎧は必要だぞ。マジで!』


 そしてベティーナとガルイドはまた、槍を交える。


「仲睦まじいのは結構だが、助けなくて良いのか?」


 フェイの問いを一矢は鼻で笑う。


「騎士の格好は伊達じゃないんだぜ」


「その騎士さんは押されてるぞ?」


 確かにフェイの言うとおりだった。


 槍に前足、そして魔法。


 ガルイドの攻めにベティーナは防戦一方だった。


「間合いが槍の間合いじゃないんだよ。それでも魔族は前足と魔法がある。お前の騎士さんはかなり不利だぞ」


「大丈夫。ベティは強い。勝つさ」


「だと良いがな。死んでからじゃ遅いぞ」


 一矢はフェイの言葉に何も言わない。


 ただ黙って戦いの行方を見守っていた。


 ガルイドが手を振るのに合わせて、ベティーナは避ける。


 だが、それはフェイントだった。


 カマイタチの代わりに前足が飛んでくる。


 ベティーナはそれを槍で受けながら後ろへと跳んだ。


 ガルイドはまたもや一気に間合いを詰めてくる。


 ベティーナは槍を突き出すがガルイドは払いのける。


 ベティーナは払われた槍を回転させ、柄の先に付いた鋭い石突きでなぎに行った。


 しかし、ガルイドの右前足が既にベティーナへと狙いを定めている。


 ベティーナはそのまま槍を振ったが、ガルイドの槍に阻まれる。


 だが、その反動を利用して、ベティーナは右へと跳んだ。


 当たり損ねではあったが、ベティーナは左脇腹を蹴られ、地面に転がった。


 片膝をついて、体勢を立て直そうとした時にはガルイドがベティーナの目の前に居た。


「やはり所詮人間か。パワーの違いがそのまま勝負を決したな」


 ベティーナは槍を握る手に力を込めて言った。


「まだ終わっていませんよ。残念ながら」


「死ぬまではあきらめない。騎士道か? フッ、嫌いではないな。大人しくしていれば楽にしてやるぞ」


 ガルイドは槍を突く。


 ベティーナは槍の中程でガルイドの突きを受け流す。


 次の瞬間、ガルイドの右腕と左足が切れた。


 驚いたガルイドは後に飛び退く。


 そこへベティーナは槍を突くが、ガルイドの槍と交差し、右脇腹へと逸れてしまう。


 ガルイドは血が流れ出る脇腹を押さえ、距離をとる。


「今、槍が曲がった様に見えたが、気のせいではあるまいな」


「お婆様受け継いだ特別製です。まさかここで使うことになるとは」


 ガルイドはニヤリと笑う。


「まだ奥の手を隠してたか。私も舐められたものだな」


「そんな事はないですよ。まだ慣れてないので使わなかっただけですから」


 ガルイドはジリジリとベティーナに詰め寄る。


 二人の間に緊迫した空気が流れる。


 ガルイドが右手でカマイタチ、左手で槍を繰り出した。


 ベティーナは地面スレスレまで身を低くし、飛び出した。


 ベティーナはガルイドの槍を下から叩き上げ、そのまま突いた。


 ガルイドはかわしきれず、左脇腹に槍を受ける。


 ガルイドは槍を手放し、ベティーナの槍をつかんだ。


 そして切られた左前足で蹴りつけようとする。


 その時、ベティーナが槍を軽く捻ると、槍は三つに別れた。


 穂先、柄の真ん中、石突きとそれぞれが中から出てきた鎖で繋がっている。


 ガルイドの左足は柄の真ん中部分で受け流し、ベティーナは飛び上がった。


 そしてガルイドの喉を石突き部分で突き刺す。


 あっという間の出来事だった。


 ベティーナはガルイドを蹴り、その反動で距離をとる。


 ガルイドは膝をつきながら自身の喉を押さえる。


 指の間から血が溢れだしていた。


 そして、ガルイドは崩れ落ちた。


 ベティーナは三つに分かれた槍を合わせ、また一本の状態に戻す。


「やったーーーー!!」


 叫んだのは一矢だった。


 ベティーナは一矢を見るとニッコリと微笑む。


 一矢はベティーナに駆け寄り、抱き締めると、ベティーナを持ち上げて回りだした。


「か、一矢殿!?」


「スゲーッ! 凄かったぜベティ!」


 一矢が離すとベティーナはその場に座り込んでしまう。


「どうしたベティ? 怪我したのか?」


「お前のせいだよ」


 慌てる一矢にフェイが言った。


「あんだけ戦った後で、よくそんな元気があるな」


「あれ~? フェイさんはお疲れかな? あっ、だから予想を外しちゃったのかな? はい皆さん、ベティの完全勝利に拍手~」


 浮かれて拍手する一矢を横目にフェイはベティーナに声をかける。


「良くこんな人を小バカにする奴と旅が出来るな」


「フェイ殿は一矢殿の良さが分かってないだけですよ」


 笑うベティーナに、フェイはそれ以上何も言わなかった。


「さぁさぁ、お前らどうすんだ?」


 一矢は魔族達に叫ぶ。


「やるならまだやれんぞ? ほら、ニュー・チャレンジャー、カモン!」


 だが魔族の群れからは誰も出てこなかった。


「……ふう。良し、帰ろうぜ」


 一矢を先頭に三人は砦へと帰っていく。


 途中で一矢は思い出したかのように魔族達を振り返った。


「お前ら! そいつ等のこと、ちゃんと弔ってやれよ!」


 一矢は一瞬暗い表情を見せ、また砦へ歩き始める。


 魔族の群れから何体かの魔族が出てくると、ガルイド達の亡骸を抱え、森へと帰っていった。


 一矢は砦に着くと、両手でピースサインを掲げてこう叫んだ。


「最強の男、一矢様が帰ってきたぜーー!!」


 今度ばかりは兵士達も歓声で迎えた。

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