ウェアタイガー対フェイ
「まだ生意気な口を叩く余裕があるか。だがその余裕すぐに消してやるぜ!」
ウェアタイガーは飛び上がる。巨体に似合わず三メートル程あった距離が一気に縮まる。
フェイはウェアタイガーの蹴りをかわし、今度は左脇に剣を突き刺す。
ウェアタイガーの顔が一瞬歪み、直ぐ様剣を払い除けた。
「やはりなぎ払うよりも突き刺した方が効果的のようね」
「けっ、小賢しい。少しは楽しめそうだ」
そう言いながらウェアタイガーは左腕を回し、戦いに支障がないのを確認する。
「てめぇ!!」
一矢が突然叫んだ。
「それ以上フラグたてるなーーーッ!」
その場に居る誰もが一矢の言ったことが分からなかった。
もしこの場にクレアが居たら大笑いしていただろう。
「お前はどんだけフラグたてんだよ!作戦か? 俺を笑い殺す作戦なのか? 戦いの中身よりそっちが気になって仕方ないんだよ! もっと真面目にやれ!」
突然の事で最初は戸惑ったウェアタイガーだが、徐々に怒りを表し始めた。
「何訳わかんねぇ事抜かしてやがるんだ。良いか。こいつを倒したら次はてめぇだからな! 覚えとけ!」
それを聞いて一矢は膝から崩れ落ちる。
「言ってるそばから! ヤバイよ〜。フラグの神様降臨や〜。まさか、まさかこの後、結婚したりとかしませんよね!?」
ウェアタイガーが一瞬息を詰まらせた。
「嘘だろ……」
一矢の頬がひきつり始めていた。
「けっ、結婚はしねぇよ。……まだ」
「アカーンッ! もうアウトだ〜! 結婚しなくても何かする気だ〜。告るのか? お前は告るつもりなのか?」
「てめぇは今すぐぶっ殺す!」
ウェアタイガーが一矢の方を向いた時、フェイが一気に間合いを詰めた。
ウェアタイガーはそれをギリギリ視野の端に捉えていた。
フェイの剣先がウェアタイガーの首を狙う。
狙いは首の真ん中ではなく、その少し外側。頸動脈の辺り。
ウェアタイガーは体を捻り、何とか急所を外す。
フェイの剣は掠り傷を負わせるに留まった。
「あんまりふざけないで欲しいわね。こっちはこれからお前よりも強い魔族と戦いに行くの。せめて練習台位にはなりなさいよ」
ウェアタイガーは怒りの満ちた目でフェイを睨んだ。
「大口もそこまで叩ければ上等だ。安心しろ。まずはお前から必ずぶっ殺す!」
ウェアタイガーは両手を前に構えると、間合いを詰め始める。
ウェアタイガーの爪がフェイに近づいてくる。
先に動いたのはフェイだった。
フェイの狙いは再度ウェアタイガーの喉。
しかしウェアタイガーは剣を左手で払う。
それと同時にウェアタイガーは一歩踏み出すと右手の爪を振りかざす。
フェイは後ろに飛びながらウェアタイガーの右手首を切りつける。
ウェアタイガーは怯むことなくフェイを追う。
ウェアタイガーの左掌底がフェイを捉えた。
フェイはそれを剣で受けるが、そのまま後ろに吹き飛ばされてしまう。
ウェアタイガーの攻撃は止まらない。
今度は右手を振り上げる。だがそれはフェイントだった。
ウェアタイガーは地面に沈み込むと、コマのように回り、左足の爪でフェイの足を狙った。
フェイはウェアタイガーを飛び越すほどのジャンプ力を見せる。
フェイの剣がウェアタイガーの首の後ろに突き刺さった。
だがウェアタイガーの爪が迫る。
フェイは剣を引き、再度剣で爪を受ける。
ウェアタイガーは自分の首をさすりながら立ち上がる。
「中々頑丈な剣だな」
「護身用だから切れ味より頑丈さを優先してるのよ」
再び対峙する二人の間に緊迫した空気が流れる。
フェイとウェアタイガーは同時に駆け出した。
フェイはウェアタイガーに向かって剣を投げる。
意表を突かれたウェアタイガーは体勢を崩しながらもなんとか剣をかわした。
「バカが!」
剣を手離してはもう攻撃を防ぐことも出来ない。
ウェアタイガーは勝利を確信した。
ウェアタイガーは足を踏ん張り、体勢を持ち直す。
フェイは腕を体の前で交差させた。
ウェアタイガーには苦し紛れの防御体勢に見えた。
だが一矢はフェイのその体勢に見覚えがあった。
ウェアタイガーが右手を突き出そうとした瞬間、眉間に何かが当たった。
それほどの衝撃ではなかったがウェアタイガーの動きを一瞬止めるだけの効果はあった。
フェイの振り上げる右手にはトンファーが握られている。
「やっぱり!」
一矢はそう言いながら自分の頬を撫でた。
殴られた痛みが思い出させられる。
小さい鉄球付きのチェーンとトンファーのコンボ。
ウェアタイガーの右爪がフェイの脇腹を掠めていき、フェイのトンファーはウェアタイガーの脳天へと降り下ろされた。
何かが砕ける音が一矢にも聞こえた。
ウェアタイガーはそのまま地面に突っ伏す。
動かないウェアタイガーを見てフェイは大きく息を吐いた。
「肉は硬くても骨はそうでもないのね」




