一矢の責任
魔族達は視認出来るところまで近付いて来た。
ウェアタイガー、ケンタウルスそしてサテュロス。
以前、砦を襲った魔族達と同じだ。
「一矢とかいう奴、出て来い! 俺と勝負しろ!」
一体のウェアタイガーが叫ぶ。
「何だよ、めんどくせえなぁ。俺が目指すのはヒモ生活なの! それなのになんでいつも俺ばっかり」
「魔族達が無理に攻め込んで来なかったのは、あんたがナンバーワンだったからよ。そこまでは狙い通りでしょ?」
エイミーがそう言っても一矢は不貞腐れる。
「だったらエイミーからも言ってやってよ。攻めてくんなって」
「あのね、群れのトップは挑戦を受けなきゃいけないの。もし受けなかったら不戦勝。ナンバーワンの資格は無くなるわ。そうなったらあいつ等、歯止めが効かなくなるわよ?」
それでも一矢は蹲ったまま。
「一矢殿、お願いします。もし戦いになれば多くの死傷者が出ます」
シャガールも膝をついて一矢を説得する。
「戦ったらさ、その後どれぐらい休ませてくれるっていうのさ! ちゃんと面倒みてくれんの?」
「……一矢殿。あんなザコ魔族、さっさと片付けて貰わないと困りますね」
フェイは一矢に冷たく言い放った。
一矢はフェイの冷たい視線に身が縮む思いだった。
「この先、どんどん強い魔族が出るんじゃないんですか? あんな魔族程度に臆病風を吹かせていて、どうやって姫を守るつもりでしょうか」
一矢は言い返すことが出来ず、口ごもった。
「あの程度の魔族に手こずるようなら、ここで姫を連れて城へ帰らせて頂きます」
「行ってくるよ。行けばいいんだろ!」
一矢は吐き捨てるようにそう言うと、不満そうに階段を降りていく。
「一矢殿。私も一緒に行きます」
ベティーナが一矢の後を追う。
「貴方は私の話を聞いていなかったのですか? 一矢殿一人にやらせなさい」
フェイは厳しく言い放った。
そんなフェイにベティーナは睨み返す。
「私は守られるために一緒に行くんではありません。ならば私も足手まといにならないということを確認しておきたいのです」
ベティーナは階段を降り始めるともう一度フェイを見た。
「フェイ殿は姫と一緒にただついて来られるだけなんですか? ならお一人で戻られた方がよろしいでしょう。守らなければならない人間は少ない方が助かります」
そう言うとベティーナは階段を降り去っていく。
「ベティーナ様の言う通りです」
エレナが言う。
「私は自分の事は自分で守ろうと思っております。人に頼って行けるほど優しい旅ではないと思うからです。フェイ、貴方はどうされるんですか?」
一矢が砦から出てくると魔族たちは足を踏み鳴らし、声を上げる。
ウェアタイガーが手を挙げると魔族達は一斉に静まった。
「よく逃げずにやってきたじゃねえか。そっちの女は何だ? まさか2対1でやろうて話じゃねえだろうな?」
一矢が振り向くとベティーナが丁度やって来るところだった。
「安心して下さい。相手があなただけなら何も心配していませんから」
ベティーナは一矢に笑みを見せながらそう言った。
「生意気な女だ」
そう言ってウェアタイガーは鼻で笑う。
「そいつを殺ったら次はお前だ」
ウェアタイガーがベティーナを指差す。
「その女は私が殺ります」
そう言ったのはケンタウルスだった。
「その女には仲間達をやられた借りがある。私に敵を取らせて下さい」
ケンタウルスはウェアタイガーの隣に立つ。
「ふん、好きにすれば良い。もしお前が負けたら俺が喉笛噛み切ってやる」
「何だよ。俺は余りか」
サテュロスが溜め息混じりに言った。
ウェアタイガーはそんなサテュロスを笑いながら、ゴキゴキと首を鳴らす。
「それじゃあさっさと……」
「待ちなさい!!」
大きな声に一矢達が振り向くと、フェイが走ってくるのが見えた。
「一矢殿とやりたいのなら、まずは私と戦いなさい」
フェイは一矢の前に立つとそうウェアタイガーに言い放った。
「ふざけるな!俺はな、雑魚に興味は無いんだよ。邪魔をするなッ!」
ウェアタイガーは怒りを露わにした。
それでもフェイは動じない。
「やれやれ。それじゃあ俺が相手して……」
サテュロスの言葉をフェイは遮る。
「いきなりチェックメイトもないでしょ。それともたかが雑魚が怖いの? だったらさっさと尻尾を巻いて帰りなさい。私も口だけの奴を殺したところで、何の自慢にもならないわ」
ウェアタイガーはフェイの言葉に、全身の毛を逆立てるほどの怒りを覚えた。
「生意気な女だ! そこまで言われてただで帰す訳にいかねぇ。ずたぼろに引きちぎってやる!」
ウェアタイガーの剣幕にフェイは涼しい顔だ。
サテュロスは二人のやり取りに再度溜め息をつく。
「……おい、本当に大丈夫なのか?」
一矢は小声でフェイに声をかけた。
「あら、心配してくれるの?」
そう言ったフェイの顔は余計なお世話だと言わんばかりだった。
「心配するさ。あんた、魔族とは戦ったことがあるのか? 人間を相手にするのとはちょっと違うぞ?」
フェイは一矢を睨み付ける。
「確かにあなたの言うとおり魔族と戦うのは初めてよ。だからここで魔族と戦っておきたいの。これからも戦い続けるなら経験値は多い方がいいわ。だから黙って見てなさい」
フェイはウェアタイガーの前に歩み出るとスカートの右裾を持ち上げる。
つい一矢の口が綻ぶ。
ベティーナはジト目で一矢を見る。
フェイの右足には革ベルトが巻かれ、そこに一本の剣が収まっていた。
フェイはそれを右手に握るとすっとウェアタイガーに切っ先を向ける。
フェイの剣は普通の剣よりも短く、剣幅も狭いが、普通の剣に比べ倍以上の厚みがあった。
一矢とベティーナはフェイ達から少し距離をとる。
「さあいらっしゃい」
フェイがそう冷たく言い放った。
「本当に何から何まで気に入らない女だ」
自分を目の前にして、全く自信を揺るがせないフェイがウェアタイガーを苛立たせた。
ウェアタイガーも姿勢を低くし戦闘体勢に入る。
ウェアタイガーはフェイの周りをゆっくり回り始めた。
『それほどの腕前なのか。それともただのバカか』
ウェアタイガーも伊達に群れを率いているわけではなさそうだ。
怒りに任せず、しっかりと相手との距離を測る。
フェイも切っ先でウェアタイガーを追う。
ウェアタイガーはいきなり飛び出した。
ウェアタイガーは踏み込むとフェイの剣を狙って左腕で払う。
フェイは剣を少し下げてそれをかわす。
更にウェアタイガーの右回し蹴りもかわしながらその足を薙ぐ。
二人の間合いが離れる。
「硬い体ね。と言うよりも毛のせいかしら」
フェイは自分の剣に付いた僅かな血を見ながらそう言った。
「そんなもんか。蚊が刺した程度だな」
ウェアタイガーは余裕の笑みを見せる。
「悪いけど、あんたで魔族との戦い方ってやつを掴ませてもらうわ。さあ来なさい、まだまだこれからよ」
フェイも改めて剣を構え直した。




