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不穏な空気

 両脇をエイミーとベティーナに抱えられて引き摺られる一矢を先頭に一行は門をくぐる。


「どうせ……どうせ俺なんか」


「もうっ! シャキシャキ歩きなさいよ!」


 エイミーが一矢の腕を引っ張る。


「あまり強く引っ張らないで下さい! 一矢殿が可哀想です」


「えっ? あっ……ごめんなさい」


 ベティーナの言葉が予想外で、そしてベティーナの一矢に対する態度の変化にエイミーは戸惑いを隠せなかった。


『あれ? ベティ……えっ? まさか?』


 当の一矢は卑屈な笑みを浮かべてブツブツ独り言を言っている。


「良いんだよベティ。……どうせ俺の腕なんか取れたって誰も気にしないんだから」


「ご安心下さい。一矢殿には私がついています」


「べ、ベティ〜……」


 一矢とベティーナのやり取りにエイミーは不安を抱き始めた頃、砦の兵達がわらわらと一矢達の周りに集まってきた。


「ベティーナ殿! 良くお戻りに!」


「ベティーナ殿、お元気そうで何よりです!」


 ベティーナ殿ベティーナ殿と声をかける兵達に圧倒されながらもベティーナは笑みを浮かべる。


「皆さんもご健在で何よりです。その……現在の隊長殿はどちらに?」


「もしや!またご一緒に戦って頂けるのですか?」


「戦う? いえ、姫をお連れしたのでお目通りをお願いしたいのです」


「姫様を!?」


 兵士達が一矢達の後ろを覗きこむ。


 それを見て、一矢達を連れてきた兵達は不満顔だ。


 先程から門の前で散々そう言っていたのだ。


 一矢達の乗ってきた馬車の横を通り、エレナ達を乗せた馬車が前に出る。


 馬車の扉が開き、先ずはフェイが馬車を降りる。


 そして馬車の方へと手を差し伸べると、その手をとってエレナが降りてきた。


 砦の兵達にどよめきが広がる。


「私は第十三皇女?エレナ・ルル・ヘインズと申します。皆様、砦の防衛ご苦労様です」


 兵達が一斉にエレナへ跪く。


 その間を縫ってやって来たのは一矢達も見覚えのある兵だった。


「これはエレナ殿下。こんな辺鄙な砦へよくぞお出で下さいました。私がこの砦を任されております、シャガール・モンスティです。事前にお知らせ頂ければお出迎え致したものを……」


「本日は旅の途中に寄らせて頂いただけです。御気遣いは無用で御願いします」


「まさか……ベティーナ殿達と一緒に、と言うことはその……」


 シャガールは信じられないと言った風に一矢達を見渡す。


「はい。私達はこれから魔族の元へと赴きます」


「そうでしたか! 私が書いた紹介状が役に立ったのですね!」


「あっ、あれは全然役に立たなかったよ」


 一矢は苦笑いで言う。


「えっ!? しかしどうやって姫に?」


「城に忍び込んだのよ。一矢が」


「なっ……まさか見付かって大騒ぎ、と言うことは無いですよね?」


「まぁ……ね。そこは俺の作戦勝ちって所かな?」


 一矢は目を泳がせながら答えた。


「大丈夫ですよね? 一応、私にも推薦した責任がありますから」


「その後、一矢は城に乗り込んでるわよ」


 エイミーは一矢を指を指す。


「乗り込んだんですか? ま、まさかですよね? 凄い警備なんですから」


「あの時の一矢殿は凄かったです。正に鬼神のごとし強さでした」


 ベティーナは夢見る様に言った。


「そんな……」


 シャガールは膝から崩れ落ちる。


「一矢様は逃げる際、城の壁を破壊しております。見付け次第殺しても良いとのお達しも出ています」


 フェイが冷たく言い放つ。


「あ……あ……」


 シャガールは肩を震わせながら顔を上げる。


 その顔は、泣いていた。


「あんた、なんばしてくれとッとー!」


 シャガールの突然の叫びに一同唖然とする。


「あんた、おいば一族滅ぼすつもりとかー! あんたを支援した、おいが立場にもなってけろ!」


「だ、大丈夫ですよ。そんなキャラ崩壊させなくたって。ねぇ?」


 一矢はベティーナに助けを求める。


「御安心下さいシャガール殿。二人の責を罰するのなら先ずは私を罰する筈です。ですが私はこの通り、お咎め無しです。シャガール殿にも決して塁が及ぶことは無いかと存じます」


「ホンマけ?」


 ベティーナは頷く。


「……取り乱してしまい申し訳ない。どうぞ皆さんゆっくりと……」


 兵士の一人が駆け寄ってきた。


「隊長! 奴らです! また奴らが来ました」


「何ッ!? ……よりにもよってこんな時に。皆さん申し訳ないが急いで砦の中に入って下さい。エレナ殿下も急ぎ中へ」


 一矢達はとまどいながらも砦の中へ入る。


 馬車も砦の中に入ると門が閉じられた。


「シャガール殿、何かあったのですか?」


 ベティーナが聞いた。


「平和協定が破られたのです。さあ、こちらへ。まずは見てもらった方が早いでしょう」


 一矢達はシャガールに連れられて城壁の上に登る。


 遠くに黒い影が見えた。


「森の魔族たちです。最近奴らが我々が砦を増強するのは森へ攻め込むためだと。それは停戦協定に違反すると言うのです」


「やれやれ、今度こそ俺の出番か」


 一矢が一歩前に出る。


「ボスを倒した俺が事実上あいつらのボスだからね。もう一声よ。一声かけたらみんな帰ってくから安心して」


 一矢は城壁から身を乗り出す。


「やいやいやい! 耳の穴かっぽじって、よーく聞け。お前らのボス、一矢様だぞ!」


 魔族達に動揺が走る。


「グダグダ言ってないでさっさと森に帰んな!」


 暫くするとまた魔族達は砦に向かって前進し始めた。


「……ダメじゃないのよ」


「一矢さんは誰になら相手してもらえるんスか?」


 エイミーは呆れ、クレアは笑った。


「あれ、雨かな」


 一矢の瞳は涙で濡れていた。

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