砦に到着
一矢達の進む先に建物が見えてきた。
それは以前、一矢達が滞在していた魔族討伐隊の前線基地であった。
一矢達はそれを見て、懐かしさにも似た感情が沸き上がって来るのを感じていた。
どんどん近付くにつれ、砦は以前と様相が違うのに気が付いた。
砦の塀には大きな返しが付いており、大きな門が見える。
そして塀の周りには堀が造られ、正に砦然としていた。
以前の砦はもっと簡易的なもの、キャンプ地を塀で囲っただけのものだった。
一矢は砦へと魔族が攻め込んで来たことを思い出す。
あの時は多くの死者を出し、そして一矢が初めて自分の手で魔族を殺した戦いだった。
「何者だ!」
一行が門へ近付くと門の上にある穴から兵士が叫んできた。
「我等はエレナ姫とそのお付きの者達である! 開門されたし!」
一矢達の馬車を操る行者が答える。
「エレナ姫だと? そんな報告は受けていない! 証拠を見せろ!」
「貴様! 姫に対し無礼だぞ! 確認したくば貴様が降りてこい!」
押し問答をしている中、一矢は馬車の中で立ち上がった。
「しゃ〜ねえな。ここは俺の出番か」
「ちょっとあんた、何するつもりよ?」
一矢はエイミーを見て、ニヤリと笑う。
「ちょっくら行ってきて、門を開けてもらうよ。何てったって砦を救ったヒーローだからな。俺なら顔パスだよ。ふふん」
「……本当に大丈夫?」
「当たり前だよ。エイミーは見てなかったから知らないだろうけどな。そりゃあもうスゴかったんだぞ!」
それでも疑いの眼差しを向けるエイミーに今度はクレアが言う。
「確かに一矢さんの活躍は凄かったスからね! さあさあ、軽く開けてもらっちゃって下さいッス!」
「やっぱり? じゃあちょっと行ってくるね〜」
そう言って一矢は颯爽と馬車から飛び降りた。
「クレア、本当にそう思ってる?」
エイミーがクレアを見る。
「ん〜、どうッスかね。取り敢えずどうなるか早く見たいッス」
一矢はにこやかな笑顔で両手を振り、門の方へと歩み寄る。
「みなさ〜ん! 異世界ヒーロー・一矢さんが帰ってきましたよ〜! イエ〜イ! サンキュー!」
一矢の声が静かな砦に響き渡った。
『……アレ?』
一矢は心に冷たい風が吹き抜けるのを感じた。
兵士達はボソボソと囁きあい、一矢に疑わしげな視線を投げるばかりだった。
挙げたままの両手のみならず肩を震わせ、目頭が熱くなっても決して泣くまいと一矢は歯を食い縛った。
そんな一矢の様子にエイミーは自分も恥ずかしくなり顔を伏せ、クレアは笑いを堪えるのに必死だった。
「これこれ! 一矢さん、こっち向かないッスかね〜。今どんな顔してんスかね?」
馬車の中で誰かが立ち上がる気配にエイミーは顔をあげる。
足音を荒げて馬車を降りたのはベティーナだった。
ベティーナは一矢の横に立つと持っていた槍を兵士達に向け、怒気のこもった声で叫んだ。
「この砦の為に死力を尽くした一矢殿の顔を忘れたのか! 討伐隊には恩義の念は無いのか!」
兵士達はベティーナの剣幕に驚いている様子だった。
「ベティーナ殿……おいっ、ベティーナ殿だぞ」
そう言う声が一矢達の所まで聞こえてきた。
そして門は程なくして開かれた。
「流石一矢殿ですね。やはり兵達は一矢殿への恩は忘れていなかったんですね」
そうベティーナに言われても一矢は顔を上げることは出来なかった。
「ダサいッス! ベティーナさんは覚えられてるッスのに! やっぱりついて来て良かった〜」




