出発
一矢達は二台の馬車で王都を出た。
一台目に一矢、エイミーとディナ、ベティーナ、クレアが乗り、二台目にはエレナとフェイが乗り込んでいる。
「ちょっと。狭いんだからもっと詰めなさいよ」
エイミーが一矢を肘で小突く。
「なんだよ。何をそんなカリカリしてんだよ。照れてんのか?」
「あんたはッ!」
エイミーは一矢の頬をつねりあげる。
「何でそんなにデリカシーが無いのよ!」
「イデデデデッ! エイミーの事を気遣って言ってるんじゃないか! 素直になれないんだろ?」
「本ッッッ当に馬鹿ね! あんたはッ!」
エイミーは反対の頬もつねり、一矢の頭を前後に揺らした。
「エイミー殿!」
突然の声にエイミーと一矢は動きを止めて、声の主を振り返る。
ベティーナが足の間に槍を立てて座っていた。
ベティーナは関節が白くなるほど槍を強く握り、その槍の向こうから覗き見るような目で一矢達の方を見ていた。
「少しやり過ぎではないですか? その……可哀想です。一矢……が」
そう言うとベティーナは急いで視線を落とす。
いつもと違うベティーナの様子に戸惑いながらもエイミーは一矢の頬から手を離す。
「ほら見ろ。可哀想だってさ。俺」
一矢の言葉にエイミーはジロリと一矢を睨む。
一矢は両手を頬をさすりながらエイミーを見た。
その表情に改めて怒りを覚えるエイミーだったが歯を食いしばって自制する。
そしてもう一度ベティーナを見た。
ベティーナはエイミーと目が合うとまた視線を落とした。
『明らかにおかしい……さっき一矢の事を呼び捨てにしたの? それともあたしが聞き逃しただけ?』
ふとエイミーはクレアと目が合った。
クレアの顔はニンマリと笑っていた。
今度目を逸らしたのはエイミーだった。
『何? 何なのよ……もう!』
悶々とするエイミーの眼前に一矢が顔を出す。
人の神経を逆撫でする顔のまま。
「もう暴力は駄目ですよ? エイミーどの?」
そんな一矢の言葉に怒りが頂点に達したエイミーは素早く一矢の足を踏んだ。
一矢は声にならぬ悲鳴をあげて悶え苦しんだ。
エイミーはふんっと鼻息荒くそっぽを向く。
だが視線は無意識にベティーナを捉えた。
ベティーナは痛みに苦しむ一矢を見詰めていた。




