表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/37

エレナ合流

 一矢が孤児院に来てから一ヶ月が経った。


 警備隊員が何度か孤児院へやって来たが建物内まで入って来ることはなかった。


 そしてとうとうエレナ達が孤児院へとやって来た。


「ジンじい様。お久し振りで御座います」


「そうかしこまらんで良い良い。フェイも元気そうじゃな」


「ジンじいの鍛錬のお陰です」


「そちらの方は?」


「ベティーナ・ルナルディです。ジン・ラルード殿のお噂は祖母から聞いております」


「おぉ、ルナルディ家のお嬢ちゃんか。お婆さんは健在かな?」


「はい。祖母はいつでも呼び出しに応じられるようにと、今も鍛練を怠りません」


「まあ……あいつらしいな」


「ジンじいーー! たのもーー!」


 孤児院の中から声が聞こえて来る。


「ヤレヤレ、騒がしいのが来たのう」


 孤児院の扉を開けて一矢とエイミーが出てきた。


「ジンじぃ。早く………ベティッ! エレナも!」


 一矢はベティーナ達に駆け寄る。


「私も居るッスよ」


 馬車の陰からクレアが顔を出す。


「クレアもまた一緒に行くのか?」


「まあ、そっちの方が面白いかなって思ったッスから」


 クレアは恥ずかしそうに目を伏せる。


「あんちゃんは相変わらず落ち着かん奴よのう。ワシに用があるんじゃろう?」


「あ、そうだ。今日も一勝負たのもーー!」


 一矢は紙風船をジンじいに渡す。


「一矢殿、それは一体?」


「これ? 紙風船。んでこっちがハリセン」


「は、はぁ……」


「そんな説明で分かるわけ無いでしょ」


「ワシの準備は出来たぞ。いつでも来んしゃい」


 頭に紙風船をくくりつけたジンじいが言う。


「ジ、ジン殿?」


 ベティーナは二人の様子に驚きを隠せなかった。


「ベティ、取り敢えず後で説明するわ」


「今日の俺は一味違うと思うぜ」


 一矢はハリセンを構えて言った。


 ジンじいは自然体でそれに対峙する。


 どちらも動かないが一矢は笑みを浮かべたままだ。


『なるほど、良くリラックス出来てる。どれ』


 先に動いたのはジンじいだった。


 パンッ


 一矢のハリセンが紙風船を割り、ジンじいの掌底は一矢の胸、紙一重で止まっていた。


「やった!」


 エイミーが喜びの声を上げる。


「良い反応じゃったな」


「それほどでも、あるよね〜。やっぱり」


「か、一矢殿。結局コレは?」


「ホッホッホッ。なあに、このあんちゃんとちょっとした賭けをしてたんじゃよ」


「そう! これでただ飯食い放題だー!」


 エイミーが咳払いをする。


「でも、みんなが来たってことは……」


「一矢さん、私とも勝負して貰えますか?」


 フェイが一歩前に出る。


「えっ……と、キミは?」


「フェイじゃ。ワシの子供達の中でも中々の達人じゃよ」


「勝負……頂けますね?」


「まぁ良いけど、何か賭けんの?」


「私が勝てばエレナ姫は一緒に行きません」


 迷いのない、はっきりとした声だった。


「フェイ?」


 エレナは驚きの声をあげる。


「なるほどね。ジンじいもそういうつもりでの勝負だったんだね?」


 ジンじいは笑った。


「知らんわい。わしはちょっと遊んでやっただけじゃ」


 一矢は改めてフェイを見る。


 今にも飛びかかってきそうな雰囲気だった。


「良いよ。これから魔族達と渡り合おうってんだ。キミに負ける程度の実力なら諦めましょ」


「一矢? 良いの?」


「その代わり、俺が勝てばキミは俺のハーレム第三号だ」


「コラーーーッ!」


「か……一矢殿!」


 エイミーとベティーナが一矢を睨む。


「あっ、あっちこっちから殺気を感じる」


「良いでしょう」


「良いの?」


 フェイはエレナに振り返る。


「フェイ……」


「姫、勝手を言って申し訳有りません」


「良いのです。フェイの事だから深い考えがあるのでしょう。私はフェイを信じています」


 エレナは一矢を見て微笑む。


「一矢様の事も」


「勝負の内容は?」


「どちらが先に一撃をいれるか」


「ハリセンを使っても良い?」


「何でも使ってください」


「キミは?」


「私はこのままで良いです」


 フェイはエレナ達から距離をとる。


「じゃあいつでも良いのかな?」


 一矢はハリセンを肩の辺りまで持ち上げる。


 フェイは腕を交差させるように構える。


 その瞳に宿るのは、勝負を持ちかけた時と変わらぬ静かな敵意だった。


 ただ、纏う気配だけが違う。


 呼吸の音すら聞こえない。


 フェイはジリジリと間合いを詰める。


 その足運びに一切の無駄がなかった。


 まだハリセンも届かない間合い、フェイは前蹴りを放つ。


 勿論蹴りも一矢には届かない。


 だが一緒に蹴り上げた土が一矢の目を襲う。


 一矢は咄嗟に目を閉じてかわす。


 一瞬の暗闇。


 そこでフェイは左手で何かを投げた。


 空気を切る、鋭い音。


 いつの間にかチェーン付の小さな鉄球を取り出していた。


『どんな小さくても一撃は一撃!』


「うぉッ!」


 一矢はハリセンで鉄球を叩き落とそうとする。


 だがそのままハリセンはチェーンに絡まる。


 フェイがチェーンを引き、一矢が踏ん張る。


 拮抗したのは一瞬だった。


 フェイは一歩踏み出し、左袖から右手でトンファーを取り出した。


「貰ったッ!」


 一矢も前に踏み出し、手を出す。


『この間合いでは拳は届かない!』


 硬い衝撃が側頭部を貫いた。


 視界が白く弾け、一矢は思わず片膝を付く。


「一矢ッ!」


 エイミーは悲痛な叫びを上げた。


 フェイはトンファーを胸に当てて一矢を見下ろす。


「まさか……こんな……」


 頭を押さえた一矢がフェイを見て笑った。


「ふふっ、一撃は一撃だよな?」


「クッ……」


「えっ? どういう事」


 ジンじいが笑い声を上げた。


「あんちゃんはな。拳じゃ届かなかったから指先でついたんじゃ。フェイの胸を」


「俺の方が一瞬早かったよな?」


「……かも知れませんね」


 フェイの表情に悔しさが滲んでいた。


「どうよ?ちゃんと勝ったぜ」


 一矢はエイミーにウインクする。


「この、スケベ!」


 エイミーの怒号が響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ