ジンじい
一矢達は道場を抜け、二階に案内される。
「こことそっちの部屋を使ってくれや。荷物を置いたら降りてきなさい。滞在中の仕事をお願いしたいからの」
老人が一階に降りていくとエイミーの胸元からディナが飛び出した。
「お姉様を働かそうなんて百年早いわよ! このもうろく……フガッ」
「静かにッ! 出てきちゃダメって言ったでしょ!」
エイミーはディナを胸元へ押し込む。
「……取り敢えず暫く世話になるんだから手伝いぐらいはしてやるか」
「若干上からだけど、あんたにしてはまともな意見ね。それじゃあさっさと荷物を置いて行きましょう」
「あっ、でも俺掃除はヤダからね。掃除は昔から嫌いなの」
「良いからさっさと置いてくる!」
一矢達が一階に降りると庭に案内された。庭には薪置き場があった。
「あんちゃんには薪割りをお願いしようかの」
老人は壁に立て掛けてあった斧を一矢に渡す。
一矢はそれを見て笑った。
「お爺ちゃん。俺に斧は要らないよ」
「ジンじゃ」
「えっ?」
「ここでは皆、ワシの事は『ジンじい』と呼んでおる」
「じゃあジンじい。見ててよ」
一矢は薪の一つを台に置き、拳を振り上げる。
降り下ろした拳に当たり、薪は思いもよらない方向へと飛んでいった。
「あ、あれ?」
「ほう、凄い力じゃな。だが薪割りには向いとらんわ」
そう言ってジンじいは笑った。
今度はジンじいが薪を置く。
斧を持ち上げ降り下ろすと、薪は綺麗に真っ二つに割れた。
「昔から薪には斧と相場は決まっておるんじゃよ」
ジンじいが差し出す斧を一矢は渋々受け取る。
「俺の力はさぁ、実践向きなんだよね。やっぱり」
「ほう、ついさっき子供にあしらわれた者の台詞ではないな」
「あれは力のセーブが難しくて本気を出せなかっただけ! もう俺が本気出したら凄いんだからな!」
「そんなんでこの先、魔族と渡り合えるかのう?」
一矢達は驚いてジンじいを見る。
「フェイから全て聞いとるよ。城での出来事もな」
その言葉で一矢達は警戒するが、ジンじいは笑ったままだった。
「安心しなさい。別に警備隊につき出すつもりなんてない。だが魔族達の世界、魔界に入るのは止めた方が良いのう」
「……コレでもそれなりに魔族と渡り合って来たんで」
一矢は睨みながらそう言うも、ジンじいは意に介さない。
「どうせ戦ってきたのは人間達の世界へきた魔物達だろう? その魔族達が近付くことすら恐れる奴等が魔界にはおる。そんな魔族を相手に出来るかの?」
何も言えない一矢達をジンじいは笑う。
「そうじゃ。ちょっとそこで待っておれ」
ジンじいはそう言うと孤児院の中へと戻っていく。
「ねえ。一矢は……本当に自信あるの?」
エイミーは聞きづらそうに一矢に尋ねた。
一矢は孤児院を見詰めながら答える。
「俺の人生、自信のある事なんて無かった」
「……そう」
「でもさ。せっかく力を手にいれたんだ。やらずに諦めんなんて絶対したくない」
「あんたらしいよ」
「そしてハーレムも諦めたくない!」
一矢はエイミーを振り返る。どや顔で。
「いらないからそう言うの。聞いてないから」
そう言うエイミーの顔も少し綻んでいた。
それでも不安が無いとは言えない。
確かにジンじいの言う通りだから。
「待たせたの」
そう言ってジンじいが戻ってきた。
「えっ?」
「少々見付けるのに手間取ってな。すまんすまん」
「えっ?……いや、あの……それは一体」
エイミーはジンじいの姿を見て戸惑いを隠せなかった。
「ん? これか? 紙風船じゃ」
ジンじいは頭の上に紐でくくりつけた紙風船を指差して言った。
「見ればわかります!」
「ちょっとあんちゃんと遊ぼうと思ってのう」
「何それ? 何すんの何すんの?」
一矢も笑って尋ねる。
「あんちゃんがこの紙風船を割ることが出来るか。割れたらここに居る間、働かなくても良いぞ。だがもし割れなかったらしっかり働いてもらうからの」
一矢の笑みが固まる。
「悪いけど俺のパンチは城壁でも壊せるんだ。間違いを起こしたくないんだよね」
「そう言うと思ってな、コレを持ってきた」
「ソレってまさか」
「そう。ハリセンじゃ」
「プッハハハッ! 良いね。それなら本気を出せる!」
「そうじゃろ?是非あんちゃんの本気とやらをワシに見せてくれ」
一矢はジンじいからハリセンを受け取る。
「それで? 開始の合図は?」
「いつでも良いぞ。あんちゃんのタイミングでいつで……」
「貰ったーーーッ!」
一矢はジンじいが話し終わる前に紙風船目掛けてハリセンを振った。
「ズルい……」
エイミーが一矢の不意打ちを非難しようとした瞬間、一矢は後ろに吹っ飛んでいた。
「言い忘れたがワシも手は出すからのう」
ジンじいは掌底を出した体勢のまま言った。
「か、一矢?」
「まぁ、そのうち目を覚ますじゃろう。薪割りは頼んだぞ」
ジンじいは振り返り孤児院へと向かった。
「待てよ」
一矢がお腹を押さえて立ち上がる。
「とんだ喰わせジジイだな。だけどまだ終わってねえぞ」
「ほう。手加減しすぎたかの?」
「もう一勝負、付き合ってくれんだろ?」
「ほう? 出来るのか? 膝が笑っとるぞ?」
「爺さんには良いハンデだろ?」
「その心意気は良し。いつでも良いぞ」
一矢はゆっくりとジンじいに近付く。そしてハリセンを構えた。
一矢は必死に呼吸を整える。
ガクリと一矢の膝が折れた。
その瞬間、一矢はハリセンを降り下ろした。
そしてまた一矢は吹き飛ばされた。
「フェイントか。発想は悪くない。だが方向性は違うのう。魔界で生き残りたければ相手より先に自分の一撃を当てるんじゃ。最高の一撃をな」
そう言うとジンじいは孤児院へと帰っていった。
エイミーは一矢の隣へ座り込む。
「クククッ……ゴキブリバカには良い薬ですわ」
「ディナ。そう言う事言わないの」
一矢は目を覚まし上半身を起こした。
「負けちゃったか」
エイミーは励ましの言葉を探すが見付からない。
「……フェイントも悪くないけど相手より先に攻撃を当てるようにって言ってたわ」
「先手必勝……いや、一撃必殺って事か」
そう言うと一矢はニヤリと笑った。
「それ、格好良いじゃん」
一矢は立ち上がる。
「良し! 次こそ目にもの見せてやる!」
エイミーは拳を力強く握る一矢にホッとする。
「フラグにしか聞こえないけど、頑張ってね!」
「大丈夫。俺、戦場から帰ったら結婚するんだ」
「……戦場ってどこよ」
二人は笑い合うがエイミーの心には一つ引っかかった。
『結婚……か』




