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孤児院

 太陽が真上に昇る頃、一矢達はフェイに教えられた孤児院の近くまで来ていた。


 孤児院から届く子供達の騒がしい声を聞きながらエイミーは辺りを警戒している。


 その後ろで一矢は欠伸混じりに言った。


「もう良いだろ? 警戒し過ぎだよ」


「もうあんたが警戒しなさ過ぎなのよ」


 更に様子を伺うとエイミーは立ち上がった。


「良し。警備隊は居ないみたいね。行きましょう」


 エイミー達はあぜ道に出ると孤児院へと進む。


「ほら、やっぱり大丈夫だろ? 悩むより行動した方が早いんだって」


「あんたねぇ。城へ乗り込むって言った時にどんだけあたしが心配したと思ってんのよ!」


「でも上手くいってるだろ? やっぱり行動しなきゃ駄目なんだよ」


「お姉様!こんな奴の心配なんか不要ですわ! ディナとお姉様で平和な世界を作りましょ? そして新世界の女王に」


「おいおいおい。王の座は譲っても世界中の女は俺のもんだからな」


 一矢は自分を指差して言った。


「二人ともそんな話は止めてよ。ディナもこれから人間達と一緒に過ごすんだから出てきちゃ駄目よ?」


「でもお姉様の事は人間達も知ってるんでしょ?」


「そうね。多分知ってるわね。目の前で変身しちゃったから。それでも隠れてて欲しいの」


「そうだな。俺もその方が良いと思うよ。奥の手はとっておいた方が良いからな」


「分かったわよ。ディナは隠れてま〜す」


 そう言ってディナはエイミーの胸の間に入ると姿を消した。


「……本当に羨ましい奴だな。俺が小さくなる機械を手に入れたら絶対真似してやる」


「させないわよ!」


 一矢達は孤児院を囲む板塀の隙間から中を覗く。


 孤児院は大きいが、簡素な造りでお世辞にも綺麗とは言えなかった。


「これ、大丈夫なのか?」


「大丈夫じゃないわよ!」


 突然の声に一矢達が振り返るとそこには一人の少女が立っていた。


 赤毛をお団子に纏め、大きな目とそばかすがあどけなさを演出している。


 簡素な服を着た少女は腰に手を当てて一矢達を睨んでいた。


「あんた達、こんな所で何してんのよ!」


「あの、フェイさんにここへ来るように言われたんですけど」


 エイミーが説明する。


「……知らない」


「えっ?」


「そんな話は知らないわよ!さっさと消えなさい!」


「で、でも」


 尚も食い下がろうとしたエイミーに少女は一気に近付く。


「危ない!」


 一矢はエイミーに飛び付き、そのまま転がる。


 少女の前蹴りが板塀を打ち抜く。


「すんげ〜蹴り。エイミー、俺に感謝しちゃって良いんだぜ?」


「良いから早く退きなさいよ!」


 一矢はエイミーに跨るような格好になっていた。


「何だよ。照れなくて良いじゃん。そろそろ俺達も次のステップに……」


 そこで一矢は底知れぬ殺気に身震いする。


 それはエイミーでもあの少女でもなく。


 ディナだった。


「このゴキ矢野郎が……あの小便臭いガキも……消し炭にしてやる」


「ちょっとディナ! 絶対駄目だからね! 絶対よ!」


「あ、俺知ってる。それバラエティー的にはヤれって事でしょ?」


「なに話をややこしく……危ないッ!」


 少女の蹴りを一矢は飛び上がってかわす。そのまま空中で体を捻り着地する。


 エイミーもそれに続いて立ち上がった。


「あんた達、良い動きするじゃない。でもまだまだコレからよ!」


 構える少女の前にエイミーが立ち塞がる。


「ちょっと待ってって言ってるでしょ。あたし達はフェイにここで待つように言われてるのよ!」


「フェイ姉さんにはあんた達は来なかったって言っとくわ」


 少女はそう言うと再び回し蹴りを放つ。


 一矢はエイミーの前に回り込み蹴りを受け止めようとする。


 だが蹴りは途中で軌道を変えて一矢の顔面へと向かう。


「うわっ!」


 一矢がしゃがんで蹴りをかわす。


「きゃっ!」


 蹴りは隣に居るエイミーの目の前を掠めた。


「ちょっと、危ないでしょっ! 守るならちゃんと守ってよ!」


「ゴメンゴメン。この子も凄いやりづらくて……」


 一矢が笑って謝るのを見て少女は動揺を隠せない。


「あの蹴りもかわすなんて、なかなかやるわね。良いわ。あたしに指一本でも触れたら中に案内してあげる」


「……触れば良いのか?」


「ええ。指一本でもね」


 一矢は不敵に笑う。


「指一本なんてケチなことは言わん。ガッツリ触ってやるよ」


 闘志を燃やす一矢にエイミーは冷ややかな視線を送る。


「どこを?」


「えっ?」


 一矢はドキリとする。


「どこ触るつもりなのよ」


「えっ? いや、どこってことは無いよ。触れる所? って言うか触りたい所?」


「何ごちゃごちゃ言ってんのよ!」


 少女はジャンプして一矢の所へ一気に跳ぶ。


「触れるんだったら爪先でも指先でも何処でも良いわよ!」


 そう叫ぶ少女の右足の蹴りをかわし、一矢は手を伸ばし掛ける。


 少女は空中で体を捻り、今度は左足の踵が一矢を襲う。


 下がってかわした一矢は少女が着地した瞬間を狙う。


「不可抗力ーーッ!」


 一矢が少女の胸元へと両手を突き出したが、腕を掴み投げられる。


「うげっ!」


 地面に倒れた一矢の片腕を掴んだまま少女は体を回転させ捻り上げる。


「くっそ!」


 一矢も体を回転させて逃げようとするも、少女は一矢の腕を反対に捻り逃がさない。


「だったら骨を断たせて、尻を揉むッ!」


「危ない!」


 エイミーの声に少女は一矢から離れる。


「クソッ、後もう少しだったのに。エイミー! どっちの味方なんだよ!」


「女の味方よ!変態!」


 残念そうな一矢にエイミーが答える。


「痛みに耐えるだけの根性はあるみたいね。でも動きがまるで素人よ」


 少女は再び構え直す。


「それまで!」


 突然の声に一同は振り向いた。


 白髪の老人が塀の所に立っていた。


「先生。これは……」


「良い。もう行きなさい」


「……はい」


 少女は一矢を一睨みすると孤児院の中へ入っていった。


「客人。フェイから話は聞いておる。入りなさい」


 建物に入って一矢達は驚いた。そこは大きな道場になっており、少年少女達が組手をしていた。


 外に聞こえていた声はこの子達が組手をしている声だった。

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