一矢退散
「此処で何をしている?」
アラン王がエレナに問う。
「平和の使者様がいらっしゃってると聞いて参りました。それなのに……」
「お前には関係の無いことだ。分をわきまえろ」
「何故お父様はお話を聞いて下さらないんですか?」
「お前達の夢物語に付き合うほど暇ではない」
「私が使者様に同行させて頂きたいのです! お許し頂けませんか?」
一矢はエレナの言葉に思わず口許が綻ぶ。
『マジで来てくれんの? やった! お姫様チョロいな! ムフフ』
しかしアラン王は全く表情を変えない。
「お前が行きたいのなら好きにしろ。この玉座にお前が座ることは無いだろうからな」
「では」
アラン王にお辞儀をすると、エレナは一矢を見る。
「だが、それとこれとは話が別。余の城に忍び込もうとする者は許さん。忍び込んだ者は極刑は免れん。それが誰であろうと」
「しかしお父様!」
そこでアラン王は片手を挙げてエレナの言葉を遮り、一矢の方へ視線を移す。
「貴様。何処へ行くつもりだ」
「えっ? 俺?」
既に背を向けていた一矢は振り返って自分を指差した。
「……いや、お姫様が来てくれるならもうあんたに用はないから帰ろうかなって」
「このままおめおめ逃がすわけなかろう」
アラン王は一矢を睨む。
「このままおめおめ捕まるわけなかろう」
一矢はアラン王の真似をして答えた。
「奴を捕まえろ!」
周りの兵達が入口を固め、一矢に武器を向ける。
そして近衛兵長が一矢に近付く。
「大口叩いて逃げるつもりか?」
「もう用事が済んだからね。お姫様! 後で迎えに来ますからね〜」
一矢はエレナに手を振る。
エレナは一矢が心配でオロオロとしていた。
「状況が分かってないようだな!」
近衛兵長が一矢に斬りかかる。
一矢はかわして蹴りを放つ。近衛兵長もそれをかわす。
一矢はそのまま近衛兵長に体当たりをする。
近衛兵長は五メートル程後ろに吹き飛ばされた。
一矢は振り返ると走り出した。
入口の数メートル横に向かって。
「どこでもパーーンチッ!」
そう叫びながら一矢は壁を殴った。轟音と共に壁が崩れる。
「説明しよう。『どこでもパンチ』はどこでも穴を開けられるのだ」
一矢はキメ顔で親指をたてる。
「に、逃がすなーッ!」
アラン王は立ち上がって叫ぶ。
一矢は走り去り、兵達が後を追う。
遠ざかっていく轟音を聞きながらアラン王はその場に立ち尽くした。




