近衛兵長対一矢
王の横に控えていた近衛兵長が一歩前に出て剣の柄に手を掛ける。
「……貴様」
「待て」
アラン王の声に近衛兵長は動きを止める。
「余に何の用だ? 殺す前に聞いてやろう」
一矢は周りの兵達に気をやりながらニヤリと笑った。
「聞いてないかい? 可愛いお姫様から」
一矢を取り巻く兵達がざわついた。
「ほう。貴様が噂の賊か。探す手間が省けたな」
「それで今日はその回答を貰いに来たってわけ。魔族と話し合うってことで良いよね? 争いが無いなら無いで、そっちも助かるでしょ?」
一矢の言葉に近衛兵長は声を荒げた。
「貴様! 閣下に向かってその態度! 身の程を知れ!」
それをアラン王は片手を挙げて制する。
「後年に憂いを残すわけにもいかん。脅威となりかねん芽は早目に摘んでおくに限る。それにそんな世迷い言、誰が信じる?」
「信じるしかなくない? 現に俺が居た砦では停戦してんだから。それをただ皆でやりましょうってだけ。それに砦建てるので精一杯なのにあんた等に倒せるの? 魔王を」
「魔王? 貴様の様な下賤の者に言う事ではないがいずれは魔族共は全て駆逐するだろう。余が出来なくとも息子達がな」
「本当に出来ると思うのか? 俺一人止められないのに?」
「兵一人一人の力量だけでは戦争は勝てんのだよ。戦略を知らん魔族など恐るるに足らんわ」
「……あんた。本当に砦からの報告を見たのかよ」
「隊長が無能だっただけだ」
「テメェッ!」
怒りを露に一矢はアラン王に向かって一歩踏み出す。
囲んでいた兵達が一斉に斬りかかる。
一矢は飛び退いてかわすと両手を広げて兵士に突っ込む。
一人、二人、三人……。
合わせて五人の兵士を掴まえそのまま押し進む。そしてまとめて壁に激突させた。
大きな金属音をさせて兵士達は折り重なるように倒れる。
振り返る一矢とアラン王の間には近衛兵長が立ち塞がっていた。
「反射神経、スピード、パワー。どれも化物並みだな。……だが戦い方は素人。まるで子供の喧嘩だ」
近衛兵長は剣を構えるとゆっくり一矢に近付く。
「これでも殺さないように手加減するの、大変なんだぜ?」
一矢もゆっくりと前に出た。
その時、既に近衛兵長が目の前に居た。
『えっ?』
近衛兵長の一撃を一矢は何とかかわす。
『い、いつの間に来たんだ?』
動揺する一矢に近衛兵長は改めて間合いを詰める。
ゆっくりと、一歩ずつ。
一矢も間合いを測りながら身構える。
『向こうの間合いまで後三歩、二歩、一……』
気が付けば近衛兵長は一気に間合いを詰めており、剣を降り下ろしていた。
「うおッッ!」
一矢はこれも身を引いてかわす。
近衛兵長の剣がゆっくりと横に流れる。
『チャンスか?』
一矢はその場に踏ん張り反撃の体勢を整える。
一歩踏み出そうとした時、近衛兵長は剣で薙ぎ払ってきた。
慌てて一矢は転がってかわしたが近衛兵長の剣先が一矢の胸の皮を引き裂いていた。
『あ、危ねぇ。あそこで踏み込んでたら……』
一矢は立ち上がり、体勢を立て直す。
今度は早足で近衛兵長が近付いてくる。
決して速過ぎず、遅過ぎず。
一矢は既にその動きに不気味なものを感じていた。
『この動き……』
近衛兵長が一気に斬り上げる。
一矢がかわす。近衛兵長の剣がゆっくりと円を描くように軌道を変える。
『……ヤりずらいッ!』
一矢が剣先に注意を向けているところに近衛兵長の蹴りが一矢の膝に入る。
一矢はガクリと体勢を崩した。そこへ近衛兵長の剣が降り下ろされる。
「クソッ!」
一矢は倒れ込んでかわすと蹴りを放つ。
近衛兵長は飛び上がり蹴りをかわす。
そしてそのまま切っ先を下に向け、上から突き刺そうとする。
一矢は転がって再度かわして近衛兵長の剣を見る。
『今なら拳が届く……』
だが直ぐに剣の刃が一矢の方を向く。
『や、ヤバイッ!』
一矢が飛び退いた瞬間、近衛兵長の剣が目の前を通過した。
近衛兵長も立ち上がると忌々しく一矢を睨む。
「本当に化け物じみた動きをする奴だ。だがかわすだけではな」
一矢は不適に笑って答える。
「だったらそろそろ行くよ。何となく分かってきたから。あんた、わざと緩急つけてんだろ?」
近衛兵長の眉がピクリと反応する。
「だからタイミングがズレるんだ。……でもそんな速くないよ。あんた」
「……負け惜しみを」
二人の間合いがジリジリと詰められる。
「お止め下さいッ!」
その時、玉座の間に声が響き渡った。皆の視線の先に居たのはエレナだった。




