ベティーナの本気
ベティーナが突き出す棍を狙い、一矢は右拳を繰り出す。
すんでの所で引き、もう一度突く。
左拳で棍を狙うがかわされる。
次に胴を薙ぎ払いにいく。
もう一度左拳で殴ろうとするも、棍は途中で跳ね上がり、頭部を狙った。
右拳が追うが、棍は更に上へと逸れて髪を掠めていった。
二人は改めて構え直し、互いに睨み合う。
ベティーナがじわり間合いを詰める。一矢は同じだけ下がる。
そこでベティーナは悟った。一矢に自分を攻撃するつもりが無いことを。
この間合いは完全に棍の間合いだ。
前に出るしかないはずなのに、一矢にその気配はない。
狙いは棍そのもの——武器を壊すだけで終わらせるつもりだ。
それがベティーナにはショックだった。
一矢とそれなりに渡り合えると自負していた。本気で挑めば互角には戦えると。
「私では力不足だと……」
「えっ?」
呟きは届かなかった。
だが構わない。自分の実力を示すのは言葉ではないことを知っている。
前に出た。息もつかせぬ連続攻撃、上下左右、フェイントも交えて襲いかかる。
反撃できなくとも一矢はことごとくかわす。
だがいつまでも動き続けられない。動きが僅かに鈍った瞬間、棍は殴り壊された。
三分の一が地面を転がる。
ベティーナは片膝をつく。
一矢は暫く見詰めた後に声を掛ける。
「それじゃあ俺、行くよ……」
背を向けて歩き始める一矢。
ベティーナは折れてギザギザに尖った棍先を見詰めながら悔しさを滲ませた。
『一矢殿を止めたかった……何としても……何をしても』
そこでハッとした。
力不足なのではない。全力では挑んだが、本気ではなかったのだ。
「お待ち下さい」
一矢が振り返ると、ベティーナはゆっくりと立ち上がった。
「行かせません。何としても」
全力で挑めば分かってくれると思っていた。
考え直してくれると思っていた。
「今度は本気でいきます」
だが一矢の覚悟の方が上だった。
自分の覚悟が足りなかったことを痛感した。
『何としても行かせない。絶対に!』
覚悟の込められた眼を見て、一矢の腰がわずかに引けた。
「本気で……殺してでも止めます」




