第7話 世界最弱の男、王国を救う!
(や、やったあああああっ!!)
(女王様が、俺を味見してくれるって!?)
俺は、思わずローレンツ女王の豊かな胸元を見つめた。
(へへへ……! 異世界って最高じゃねえか!)
「む? 異世界人よ。妾のどこを見ておる?」
「ひ、ひいっ! 何でもありません!」
そのときだった。
ビリビリビリッ!!
突然、青空に巨大な切れ目が走った。
「……む?」
切れ目はみるみる広がり、その向こうから巨大な機械装置が姿を現した。
巨大な輪の中心には、異様な光を放つゲートが開いている。
「な、何だあれ!?」
そして。
「ローレンツ! 貴様の首を取りに来たぞ!」
黒いマントをまとった男が、ゲートから現れた。
細身で、端正な顔立ち。
長い黒髪をなびかせた、いかにも魔法使いといった雰囲気の美青年だった。
(……何だよ、あいつ!)
(イケメンじゃねえか!)
(くそっ! イケメンはみんな世界の敵だぜ!)
女王は、男の顔を見ると鼻を鳴らした。
「ふん。リチャードソンか」
「ふははは! 覚えていたか!」
「この前は命からがら逃げ帰ったくせに、また来たか。懲りぬ男じゃのう」
俺は、思わず女王に尋ねた。
「な、何ですか? あいつ?」
「異世界の魔法国だか何だかの、たいして強くもない王じゃ!」
「だ、黙れ! まぐれで勝ったくらいでいい気になるな!」
リチャードソンが、顔を真っ赤にした。
「魔法力の真の恐ろしさを、見せてやる! この脳筋女どもめ!」
リチャードソンが、黒いマントを大きく広げた。
すると、巨大なゲートから、多数の魔法兵たちが現れた。
その先頭には、ひときわ豪華な衣装をまとった四人の副将がいる。
「全軍! 攻撃開始だあああ!!」
ドドドドドドッ!!
魔法兵たちが、一斉に光の弾を放った。
「ひいいいいっ!!」
俺は、慌てて物陰へ飛び込んだ。
だが。
「くだらぬ!」
女王が、片腕を一振りした。
ドゴオオオオオンッ!!
魔法の弾が、まとめて吹き飛ばされた。
「姫騎士たちよ! 敵を撃退せよ!」
「はっ!」
第28姫騎士エルニーニョが、猛然と突進した。
「おらあああっ!!」
ドゴオオオンッ!!
魔法兵が、まとめて吹き飛んだ。
第17姫騎士コリオリも、第11姫騎士ビューフォートも、第3姫騎士フェレルも、次々と敵を蹴散らしていく。
「ひいいっ! 強すぎる!」
「退却だああっ!」
魔法兵たちは、次々とゲートへ逃げ込んだ。
「我ら四将が相手だ!」
「覚悟せよ、姫騎士ども!」
四人の副将が、前へ進み出た。
ところが。
ドゴオオオンッ!!
「ぐはっ!!」
「こ、こんなはずでは……!」
「ひいいいいっ!!」
副将たちも、姫騎士にはまるで歯が立たなかった。
「撤退! 撤退だああっ!」
とうとう、四人ともゲートへ逃げ帰ってしまった。
「…………」
俺は、物陰から顔を出した。
(……へ?)
(な、何だよ。全然勝負になってねえじゃねえか!)
女王が、リチャードソンに向き直った。
「ふふふ……残るはそなた一人じゃ!」
だが、リチャードソンは不敵に笑っていた。
「……くくく」
「覚悟せよ!」
女王が地面を蹴った。
猛烈な速さで、リチャードソンの目前に迫る。
「もらった!」
だが。
ドゴオオオオオオンッ!!
「ぐはっ!!」
吹き飛ばされたのは、ローレンツ女王だった。
「…………へ?」
俺は、目を見開いた。
(じょ、女王様が!?)
(あの女王様が吹っ飛んだ!?)
土煙の向こうに、一人の女性が立っていた。
漆黒の甲冑をまとった、ローレンツ女王そっくりの女性だった。
顔も、髪型も、体格も、まったく同じ。
ただし、その目には何の感情も浮かんでいなかった。
「……なっ!?」
女王が、驚愕の表情を浮かべた。
さらに、その周囲にも黒い人影が次々と現れる。
エルニーニョ。
コリオリ。
ビューフォート。
フェレル。
いずれも、黒い装備をまとった姫騎士たちの複製だった。
五人は一言も発せず、無表情のまま立っている。
「ふははははは!!」
リチャードソンが、高笑いした。
「どうだ、ローレンツ! これが俺様の切り札だ!」
「……何じゃ、これは!」
「貴様ら姫騎士軍団を、そっくりそのまま複製してやったのさ!」
「……複製じゃと?」
「ただのコピーじゃねえぜ!」
男は、得意満面で叫んだ。
「こいつらは、お前たちの一・五倍の力を持っているのだあああ!!」
「…………!」
「腕力も、速さも、反射神経も! 全部一・五倍だ! 性格や精神的な資質まで、そっくり再現して強化してある!」
リチャードソンは、勝ち誇って笑った。
「十分間しか存在できねえ! だが、お前ら全員を殺すには十分だろう!」
「……なにっ!」
「どうだ! これが魔法力の真髄だ!」
女王が、険しい顔で拳を握った。
「迎え撃て!」
「はっ!」
* * *
凄まじい戦いが始まった。
エルニーニョが、黒いエルニーニョに殴りかかる。
ドゴオオオンッ!!
「ぐはっ!」
ところが、吹き飛ばされたのは本物のエルニーニョだった。
「くっ……! 何て馬鹿力だ!」
黒いエルニーニョは、無言のまま追撃してくる。
ドゴオオオンッ!!
「ぐああっ!!」
「ち、ちくしょう! 私のコピーのくせに強すぎるだろおおお!!」
コリオリも、ビューフォートも、次々と押されていく。
黒い姫騎士たちは、まったくしゃべらない。
ただ、本物の姫騎士たちを圧倒的な力で打ちのめしていく。
「くっ……! 私の力を上回るとは……!」
ビューフォートが、歯を食いしばった。
一方、フェレルは、リチャードソンを見つめていた。
男の長い黒髪が、不気味な光を放っている。
そこから、凄まじい魔力がほとばしっていた。
「……あの髪か!」
フェレルが、腕を振った。
ゴオオオオッ!!
鋭い旋風が、リチャードソンの頭めがけて襲いかかる。
だが。
ドゴオオオオンッ!!
黒いフェレルが、さらに強烈な旋風を放った。
「くうっ!!」
本物のフェレルが、吹き飛ばされた。
「ぐううっ! あの髪さえ……!」
だが、黒い自分が立ちはだかり、どうしても攻撃が届かない。
そのころ。
エルニーニョが、あることに気づいた。
「……待てよ!」
黒い姫騎士たちは、十分間しか存在できない。
ならば。
「陛下! 十分間逃げ切れば、我らの勝ちです!」
「……うむ!」
エルニーニョは、地面を蹴った。
「よし! いったん退くぞ!」
ところが。
ドゴオオオンッ!!
「ぐはあっ!!」
先回りしていた黒いエルニーニョに、思いきり殴り飛ばされた。
「はーっはっはっは!!」
リチャードソンが、腹を抱えて笑った。
「聞いてなかったのかあああ!!」
「くっ……!」
「一・五倍だぜえええ!! 速さも一・五倍なんだよおおお!!」
男は、指をさして嘲笑した。
「逃げられるわけねえだろおおお!! この脳筋女どもおおおお!!」
「お、おのれ……!」
姫騎士たちは、次々と追い詰められていった。
そして。
ドゴオオオオオオンッ!!
「ぐああっ!!」
ローレンツ女王が、地面へ叩きつけられた。
黒い女王が、その背中を踏みつける。
「ぐううっ……!」
女王は、必死にもがいた。
だが、黒い女王の足は、びくともしない。
無言のまま、ただ冷たく見下ろしている。
「お、おのれ……!」
ローレンツの目に、悔し涙がにじんだ。
「妾に……このような屈辱を……!」
黒い女王が、再び拳を振り上げた。
そのとき。
「陛下あああっ!!」
一人の姫騎士が飛び込んできた。
ドゴオオオオオンッ!!
「ぐはあっ!!」
女王に代わって、その一撃を受けたのだ。
「ハ、ハドレー!?」
第2姫騎士ハドレー。
女王に次ぐ実力者が、駆けつけたのだった。
「へ、陛下……」
ハドレーは、地面へ崩れ落ちた。
「お役に……立てず……申し訳……ございませぬ……」
「ハドレー!!」
女王が叫んだ。
ハドレーは、そのまま動かなくなった。
「はーっはっはっは!!」
リチャードソンが、再び高笑いした。
「へへへ!あっけねえなあああ!!」
「くっ……!」
ローレンツが立ち上がった。
「ハドレーまで……! 許せぬ!!」
女王が、黒い自分に襲いかかった。
ドゴオオオンッ!!
拳と拳が激突した。
だが、黒い女王の力が勝っている。
「ぐううっ……!」
それでも女王は、必死に打ち合っていた。
一方、リチャードソンは。
「ぜえっ……ぜえっ……!」
かなり苦しそうだった。
黒い姫騎士軍団を作り出すために、膨大な魔力を消費したのだろう。
立っているのもやっとの様子だ。
だが、その顔には不気味な笑みが浮かんでいた。
「ふはは……あと五分だ……!」
「…………」
「あと五分あれば、貴様ら全員を殺せる……!」
そして、女王を見つめた。
「ローレンツ! お前だけは特別に生かしておいてやるぜえええ!!」
「……何じゃと!?」
「手足を折って、俺様の慰み者にしてやるからなあああ!!」
「き、貴様あああっ!!」
女王は、怒りに震えた。
だが、黒い自分に阻まれ、リチャードソンへ近づくことすらできない。
そして、女王が叫んだ。
「おい! 異世界人!!」
「ひ、ひいっ!?」
俺は、物陰で震えていた。
「一時休戦じゃ!」
「……へ?」
「こやつらを倒す手立てを考えるのじゃ!」
「そなたの悪知恵を使え! 早くせい!」
「ひいいいいっ!」
(な、何だよ!)
(今度は俺に何とかしろって!?)
黒い姫騎士たち。
本物の一・五倍の能力。
(……ん?……待てよ?)
(力が一・五倍なら、弱点も一・五倍じゃないのか?)
俺は、慌てて能力一覧を開いた。
そこには、とんでもない能力が現れていた。
『至近距離で黒騎士全員に念を送れば、全員をすっぽんぽんにする能力。発動後は一分間、手足が硬直する』
「…………!」
(や、やっぱりだあああ!!弱点まで強化されてやがるぜ!)
(ちょ、ちょっと待てよ!至近距離で、全員に!?)
俺は、黒い姫騎士たちを見つめた。
一人でも近づけば、瞬殺されるような化け物ばかりだ。
それが五人。
(キッツいなああああ!!)
そのとき、すぐ隣で、ガタガタ震えている女性に気づいた。
鎧を着た女兵士が物陰に身を隠し、必死に戦場を見つめている。
「お、おい! そこの姫騎士さん!」
「ひっ!?」
女兵士が、驚いて顔を上げた。
「えっ!? わ、わたし!?」
「頼む! 俺を抱えて、あの黒騎士たちの近くまで運んでくれ! 奴らに術をかける!」
「む、無理よ!」
女兵士は、ぶんぶんと首を振った。
「わ、わたしは姫騎士さまじゃなくて、ただの兵士なのよ!」
「ええっ!?」
「あ、あんな化け物たちに近づいたら、ひとたまりもないわ!」
「そ、そんなこと言ったって……!」
俺は、黒い女王に打ちのめされているローレンツを見つめた。
ドゴオオオンッ!!
「ぐああっ!!」
またしても、女王が吹き飛ばされた。
「お、おい!」
俺は、女兵士の肩をつかんだ。
「このままじゃ女王様も倒されて、全滅だぞ!」
「頼む! 俺にはどうしても近づけねえんだ!」
「…………」
女兵士は、唇をかみしめた。
目の前では、王国最強の女王が必死に戦っている。
第2姫騎士ハドレーは、倒れたまま動かない。
他の姫騎士たちも、もはや限界だった。
女兵士は、恐怖に震える自分の手を見つめた。
そして。
「……わ、わかったわ!」
「お、おおっ!」
彼女は、必死に立ち上がった。
「こ、この兵士ダイポール! 王国のためなら、命を懸けるわ!」
「……おおっ!」
ダイポールは、俺をひょいと抱え上げた。
「ねえ! あなた、名前は!?」
「や、山田! 山田和也だ!」
「わかったわ! 山田! しっかりつかまってて!」
「お、おう!」
「行くわよおおおおっ!!」
ダイポールが、猛然と駆け出した。
「うわああああっ!!」
最初の標的は、黒いビューフォートだった。
だが、近づくことすらできない。
黒いビューフォートの拳が、本物のビューフォートを吹き飛ばした。
ドゴオオオオンッ!!
「ぐはっ!!」
「きゃあああっ!!」
ダイポールが、慌てて立ち止まった。
「はあああっ!!」
本物のビューフォートが、黒い自分に背後から組みついた。
「ぐうううっ……!」
しかし、力の差は歴然だった。
黒いビューフォートは、じりじりと腕を振りほどいていく。
「は、早くしろ! 長くは保たん!」
「ダイポール! 今だ!」
「わ、わかったわあああっ!!」
ダイポールが、俺を抱えて飛び込んだ。
ほんの一瞬、黒いビューフォートの間近に迫る。
(届けえええっ!!)
俺は、必死に念を送った。
(……よし! 一人目!)
「きゃあああっ!!」
ドゴオオオオンッ!!
俺たちの背後で、本物のビューフォートが吹き飛ばされた。
「ひいいいいっ!!」
(あ、危なかったあああ!!)
「あと四人だ!」
「む、無理よおおおおっ!!」
ダイポールは、泣きそうな顔で走り続けた。
次は、黒いエルニーニョ。
だが、その黒騎士も、本物のエルニーニョと激しく打ち合っていた。
ドゴオオオンッ!!
「ぐはっ!!」
本物のエルニーニョが、吹き飛ばされた。
「ち、ちくしょう……!」
しかし、すぐに立ち上がり、再び黒い自分へ殴りかかった。
「おらあああっ!!」
ドゴオオオンッ!!
二人の拳が激突した。
「ダイポール! あそこだ!」
「きゃあああっ! 近すぎるわよおおお!!」
ダイポールが、一瞬だけ黒騎士の背後を駆け抜けた。
(……届け!)
(届けえええっ!!)
(……よし! 二人目!)
次は、黒いコリオリ。
しかし、こちらも本物のコリオリと激しく打ち合っていた。
「ダイポール! あっちだ!」
「も、もう! どうなっても知らないわよ!」
本物のコリオリが、黒い自分に鋭い蹴りを放った。
黒いコリオリが、その蹴りを受け止める。
その一瞬。
ダイポールが、二人の脇を駆け抜けた。
「ひいいいいっ!!」
黒い拳が、俺の鼻先をかすめた。
(……よ、よし! 三人目!)
続いて、黒いフェレル。
しかし、黒いフェレルの旋風が、行く手を阻んだ。
ゴオオオオッ!!
「きゃああああっ!!」
俺たちは、猛烈な風に吹き飛ばされそうになった。
そのとき。
「はあああっ!!」
本物のフェレルが、横から旋風を放った。
ゴオオオオッ!!
二つの風が激突した。
「くっ……! 早く行け!」
フェレルが、叫んだ。
「は、はいっ!」
ダイポールが、俺を抱え直した。
風と風が激しくぶつかり合う隙間を、必死に駆け抜ける。
(……届けえええっ!!……よし! 四人目!)
残るは、黒い女王だけだった。
ドゴオオオオンッ!!
「ぐはあっ!!」
ローレンツ女王が、再び地面へ叩きつけられた。
「ぐううっ……!」
女王は、必死に起き上がろうとしていた。
しかし、もはや力が残っていない。
黒い女王が、無言のまま見下ろしている。
そして、ゆっくりと拳を振り上げた。
そのとき。
「じょ、女王様あああっ!!」
俺は、思わず叫んだ。
「……む?」
俺は、ダイポールに抱えられたまま、必死に叫んだ。
「あと一人なんです! あいつに近づければ、術が使えるんです!」
「……何じゃと!?」
女王は、一瞬だけ目を見開いた。
「……ふん!」
にやりと笑った。
「よい! 妾に任せよ!」
ローレンツが、最後の力を振り絞って立ち上がった。
「はああああっ!!」
黒い女王へ、猛烈な勢いで殴りかかる。
ドゴオオオオンッ!!
拳と拳が激突した。
「ぐううっ……!」
やはり、黒い女王のほうが強い。
だが、ローレンツは退かなかった。
「山田! 今じゃ!」
女王が、黒い自分に組みついた。
「ぐうううっ……!」
黒い女王が、じりじりと腕を振りほどいていく。
「早くせい! 妾とて、もう限界じゃ!」
「ダイポール! 頼む!」
「わ、わかったわあああっ!!」
ダイポールが、俺を抱えて飛び込んだ。
ほんの一瞬。
黒い女王の間近に迫る。
(……頼む!)
(届け! 届けえええっ!!)
黒い女王が、こちらを振り向いた。
「…………!」
その瞬間。
(……届いた!)
(……よ、よっしゃあ!!)
(全員に念を送ったぜえええ!!)
「成功だ!」
「あとは発動させるだけだ!」
ドゴオオオオオンッ!!
「ぐああっ!!」
ローレンツ女王が、再び地面へ叩きつけられた。
「ぐううっ……!」
女王は、片膝をついたまま動けない。
黒い女王が、その前に立った。
そして、ゆっくりと拳を振り上げた。
一方、リチャードソンは。
「ぜえっ……ぜえっ……!」
よろよろと立ちながら、勝利を確信した笑みを浮かべていた。
「ふはははは!!」
そして、最後の力を振り絞って叫んだ。
「これで終わりだああああっ!!」
その瞬間だった。
「発動ッッッ!!」
突然、俺の叫び声が響き渡った。
「衣服排除ォォォォッ!!」
パアアアアッ!!
黒い姫騎士たちの甲冑も衣服も、一斉に消え去った。
「…………!?」
黒い女王が、拳を止めた。
黒いエルニーニョも。
コリオリも。
ビューフォートも。
フェレルも。
全員が、自分の身体を見下ろした。
「…………!」
「きゃああああああっ!!」
凄まじい悲鳴が響き渡った。
ずっと無言だった黒騎士たちが、初めて声を上げたのだ。
俺は、勝ち誇って叫んだ。
「へへへ~! 完全なすっぽんぽんだぜええええ!!」
五人は、慌てて身体を隠そうとした。
しかし。
「…………!?」
手足が、まったく動かない。
「硬直効果で、全部丸見えだぜ! やっぱり、みんないいカラダしてんじゃねえか~!」
黒騎士たちの顔が、みるみる真っ赤になっていく。
「きゃあああああっ!!」
バシュッ!!
黒いエルニーニョが消滅した。
バシュッ!!
黒いコリオリも。
フェレルも、羞恥心に耐えられず、次々と消滅していく。
黒いビューフォートに目を留めた。
「……あれ? ビューフォートって、ずいぶんぺったんこなんだな?」
黒いビューフォートの頬に、さっと朱が差した。
「普段は下着でうまく盛ってたんだな! 全然気づかなかったぜ!」
「ぐっ………!!!!」
黒いビューフォートは目を見開くと、
バシュッ!!
跡形もなく消滅した。
「な、何だと!?」
リチャードソンが、目を見開いた。
そして、最後に残ったのは黒い女王だった。
彼女もまた、身体を隠そうとしていたが、硬直効果で手足が動かない。
その姿を見た俺は、思わず目を見開いた。
「こ、これは!! 胸も尻も最高じゃねえか! それと……女王様のアレって……ふーん…こうなっていたのかあ!」
黒い女王の顔が、みるみる上気した。
「ぐはああっ!!」
バシュッ!!
黒い女王も、跡形もなく消え去った。
「な、何だとおおおおっ!?」
「俺様の黒騎士軍団がああああ!!」
一方、俺は、
「や、やったああああっ!!」
「恥ずかしさも一・五倍!」
「残念だったな、このイケメン野郎!」
「そ、そんな……!」
リチャードソンの顔が、真っ青になった。
「こんな変態野郎のせいで、俺様の野望がああああっ!!」
(よっしゃあああ!)
* * *
黒い姫騎士軍団が消滅した瞬間。
フェレルが、リチャードソンに向き直った。
「……今だ!」
彼女が、片腕を鋭く振った。
ビュンッ!!
「……へ?」
次の瞬間。
リチャードソンの長い黒髪が、まとめて吹き飛んだ。
「ぎゃああああっ!!」
男は、頭を押さえた。
「お、俺様の髪がああああっ!!」
頭は、見事な丸坊主になっていた。
フェレルが、冷ややかに言い放った。
「お前が髪から魔力を放出していることは、とっくに分かっておった!」
「そ、そんなあああっ!!」
男は、よろよろと後ずさった。
だが、すでに魔力を使い果たしている。
まともに立つことすらできなかった。
「くっ……! ゲ、ゲートへ……!」
男は、必死に足を動かそうとした。
「ぐうっ……!」
膝が折れ、その場に崩れ落ちた。
「ち、ちくしょう……!」
そのとき。
「くだらぬ!」
ローレンツ女王が、巨大なゲート装置へ歩み寄った。
そして、拳を一振りした。
ドゴオオオオオオンッ!!
装置は、一撃で粉々になった。
「あ……ああああっ!!」
「ふん! そなたの逃げ道など、とうにないわ!」
リチャードソンは、絶望したようにうなだれた。
「ひ、ひいいいいっ!!」
すると。
ビュンッ!
フェレルの旋風が、再び男を襲った。
「うわああっ!」
黒いマントも、衣服も、まとめて破れて吹き飛んでいった。
「あっ!」
男は、慌てて身体を隠した。
その姿を見たエルニーニョが、思わず目を見開いた。
「こ、これは……見たことがないほど恐ろしく小ぶりな!!」
「み、見るなあああっ!!」
ローレンツ女王が、冷ややかに笑った。
「こんな粗末なモノで、妾を慰み者にするなどとは笑止千万じゃ!」
「くっ……!」
「美容部隊!」
「はあい♡」
どこからともなく、厚化粧を施した男たちが現れた。
「こやつの頭も身体も、永久脱毛じゃ!」
「はあい♡ 女王様、仰せのままに~。うふふ♡」
「…………へ?」
リチャードソンの顔が、引きつった。
「な、何をする気だ!?」
「うふふ♡ さあ、参りましょうね~♡」
「ひ、ひいいっ!」
女王は、さらに言い放った。
「その後は、一生クリプトン鉱山に閉じ込めておけ!」
「かしこまりましたあ♡」
「お、俺が悪かったあああっ!!」
リチャードソンは、必死に抵抗した。
だが、もう動く力も残っていなかった。
「や、やめろおおおお!!」
美容部隊の男たちが、にこやかに連れていく。
「やめてくれええええっ!!」
「やめて……」
その声は、次第に遠く、小さくなっていった。
* * *
「陛下! ご報告いたします!」
一人の兵士が駆け寄ってきた。
「何じゃ?」
「ハドレー様は救護班が搬送いたしました! お命に別状はございません!」
「うむ! でかした!」
女王が、満足そうにうなずいた。
俺は、ようやくほっと息を吐いた。
「ふうう……」
(いやあ、危なかったぜ……)
俺は、にやにやしながら姫騎士たちを見回した。
エルニーニョ。
コリオリ。
ビューフォート。
フェレル。
みんな、俺のほうへ歩いてくる。
(へへへ……)
(こりゃ、盛大に感謝されるんじゃねえか?)
「いやあ! お礼なんて、いいっすよ! へへへ!」
俺は、得意満面だった。
「おい! 山田!」
エルニーニョが、俺の前に立った。
「へ?」
彼女の顔は、真っ赤だった。
「コ、コピーとはいえ、よくも私の恥ずかしいところまで、しっかり見たわねえええっ!!」
「……ええっ!?」
次の瞬間。
ドゴッ!
「ぶべっ!!」
俺は、地面へ転がった。
「な、何すんだよおおおっ!!」
すると、コリオリが静かに歩み寄ってきた。
「……ねえ、山田」
「ひ、ひいっ!?」
いつもの余裕たっぷりの笑顔が、消えていた。
「……見たの?」
「い、いえ! 何も!」
「……本当に?」
「た、ただ、けっこうお尻が大きすぎるかなと……」
ドゴッ!
「ぶべっ!!」
「見てるじゃないの!!」
「い、いや! だって、聞かれたから……!」
そこへ、ビューフォートが進み出た。
「山田! 貴様……!」
「ひっ!?」
その顔は、耳まで真っ赤だった。
「よ、よくも、私の身体の秘密を暴いたな!」
「ええっ!? だって、あんなに上手く盛ってたなんて知らなかったし……」
「問答無用!」
ドゴッ!
「ぐはっ!!」
フェレルが、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「ひ、ひいっ!?」
その顔も、真っ赤だった。
「よくも、私の裸を二回も見たわねえええっ!!」
「ええっ!? 今度はコピーだったろ!?」
「黙れ!」
ビュンッ!!
「ぐはあっ!!」
猛烈なつむじ風に吹き飛ばされ、俺は再び地面を転がった。
「そ、そんなああああっ!!」
(お、俺は王国を救ったんだぞおおお!!)
(何でこんな目に遭うんだよおおお!!)
そこへ。
「はっはっはっは!」
女王の高らかな笑い声が響いた。
「そのくらいで勘弁してやれ!」
「……陛下!」
「こやつのおかげで勝てたのだからな!」
四人の姫騎士は、しぶしぶ手を引っ込めた。
俺は、地面に転がったまま、ほっと息を吐いた。
(……た、助かったあああ……)
女王は続けた。
「そして……ダイポール!」
「はっ!」
先ほどの女兵士が、慌てて女王の前にひざまずいた。
その顔には、まだ疲労の色が残っていた。
「黒騎士軍団の間を走り抜けるとは、見事な勇気じゃった!」
「も、もったいなきお言葉です!」
「よい! その功績に報いよう!」
女王は、堂々と宣言した。
「ダイポール! 今日よりそなたを、第29姫騎士に任ずる!」
ダイポールは、深々と頭を下げた。
「こ、これからも、王国のために精いっぱい頑張ります!」
「うむ! 期待しておるぞ!」
周囲から、大きな拍手が巻き起こった。
俺も、思わず手を叩いた。
「おおおっ! やったじゃねえか!」
ダイポールは、俺のほうを向いた。
「……山田!」
彼女は、涙をぬぐいながら笑った。
* * *
そのとき。
「さて……山田よ!」
女王が、俺を呼んだ。
「は、はいっ!?」
女王は、威厳に満ちた声で宣言した。
「そなたは、我が王国を救った大功労者じゃ!」
「へ、へへへ……!」
「よって、褒美をとらす!」
「……おおっ!?」
「山田に、一生分の富と豪邸を授けよう!」
(や、やったあああああっ!!)
俺は、思わず拳を握り締めた。
だが。
「じゃが……」
「……へ?」
女王が、急に視線をそらした。
その頬が、ほんのりと赤く染まっている。
「そ、その……味見をさせてくれると……妾は嬉しいんじゃがのう……」
そのときだった。
「へ、陛下!」
エルニーニョが、真っ赤な顔で割って入った。
「ず、ずるいです!」
「……む?」
「わ、私だって! お願いします!」
「ええええっ!?」
すると、コリオリが、にっこりと笑った。
「あら。それなら、私も仲間に入れてもらおうかしら?」
そのとき、ビューフォートが、おずおずと進み出た。
「や、山田……!」
「ひ、ひいっ!?」
顔を真っ赤にしてうつむいていた。
「こ、小ぶりで申し訳ないが……そ、そんなに悪くないと思うぞ……」
「…………!!」
そして、フェレルも、何やら落ち着かない様子だった。
「……大ぶりなのは、見たことなくてなあ、その、私もだなあ……」
(えええええっ!?)
「あ、あのう……」
ダイポールだった。
「そ、その……最後で良いので……わ、わたくしめにも、試させていただけたら……」
「…………!!」
俺は、女王と五人の姫騎士たちを見回した。
一生分の富。豪邸。そして、王国最強の美女たち。
(異世界って、最高だぜえええええええ!!)
その瞬間。
ピカッ!!
「…………へ?」
突然、俺の足元がまばゆく光り始めた。
「む? 山田よ?」
「……え?」
俺の身体が、みるみる透き通っていく。
「な、何じゃ!?」
女王が、慌てて手を伸ばした。
「や、山田!?」
ダイポールも、驚いて駆け寄ってきた。
「ちょ、ちょっと待てええええっ!!」
(う、嘘だろ!?)
(俺の豪邸は!?)
(俺の一生分の財産は!?)
(それより、女王様たちはああああ!?)
「いやだああああああああっ!!」
パシュンッ!!
俺の姿は、跡形もなく消え去った。
* * *
「…………」
気がつけば、俺は日本の街角に立っていた。
見慣れた道路。
見慣れたビル。
見慣れた、会社帰りの人々。
「…………」
俺は、夜空を見上げた。
王国を救った。
一生分の富も、豪邸も手に入るはずだった。
あの女王様も。
姫騎士たちも。
そして、ダイポールも。
全部、あと少しだったのに。
「…………」
俺は、両手を握り締めた。
そして。
「俺の異世界生活を返せえええええええっ!!」
今日も、見慣れた街には、いつもと変わらぬネオンが輝いていた。
頑張って、ときおり文章を直しています。
読みやすくなっているといいんですが⋯。
やっぱり人気作家さんはすごいなあと思う日々です。
続きの構想はまだまだあるので、しばしお待ち願います。




