第8話 第2姫騎士ハドレーの決死の特訓
「ハドレー様! もうお身体はよろしいのですか?」
第3姫騎士フェレルが、心配そうに尋ねた。
「ああ。おかげですっかり回復した。心配をかけたな」
ハドレーは、穏やかに微笑んだ。
先日の黒騎士軍団との戦いで、ローレンツ女王をかばって重傷を負ったハドレーだったが、ようやく訓練に復帰できるまでになったのだ。
ハドレーは、小柄で少女のように幼い顔立ちの女性だった。
華美な甲冑を嫌い、いつも質素な戦闘服を身につけている。
だが、この女性こそ、ビヤークネス王国第2位の姫騎士なのである。
「では、さっそく始めようか!」
ハドレーは、訓練場の中央へ進み出た。
「フェレル! ビューフォート! 二人でかかってこい!」
「はっ!」
「参ります!」
二人は左右に分かれた。
「旋風!!」
「斬岩拳!!」
第3姫騎士フェレルの旋風と、第11姫騎士ビューフォートの斬岩拳。
それぞれが得意とする必殺技が、同時にハドレーへ襲いかかった。
しかし、ハドレーは慌てることなく両手を突き出した。
「超旋風!! 超斬岩拳!!」
「ぐはっ!!」
「きゃあっ!!」
二人は、あっという間に吹き飛ばされた。
「ふむ! まだまだ鍛錬が必要だな!」
ハドレーは、涼しい顔で言った。
そして、周囲の姫騎士たちを見渡した。
「よし! 全員でかかってこい!」
「は、はいっ!!」
フェレルとビューフォートも立ち上がり、コリオリ、エルニーニョをはじめとする姫騎士たちが、一斉に襲いかかった。
だが、ハドレーはまったく動じない。
「超回転脚!!」
「ぐはっ!!」
「超背面拳!!」
「うわあっ!!」
「超旋風!!」
「きゃああっ!!」
「超斬岩拳!!」
「ま、参りましたああっ!!」
ほどなく、姫騎士たちは全員、地面に倒れていた。
フェレルは、悔しそうに歯を食いしばった。
「くっ……我らの得意技を、ことごとく本人以上の威力で……!」
ハドレーは息一つ乱していない。
「ふむ! よい訓練になった!」
フェレルは、ようやく身体を起こした。
(……やはり強い……)
(女王陛下を除けば、圧倒的だ……!)
そのとき、ハドレーが歩み寄ってきた。
「ところで、フェレル」
「はっ!」
「先日の黒騎士たちは、結局どのように倒したのだ?」
「そ、それは……」
フェレルの顔が赤くなった。
「あ、あの……山田殿の術によって……」
フェレルは、恥ずかしそうに事の顛末を説明した。
山田の術によって鎧も衣服も奪われ、身動きまで封じられた黒騎士たちが、強烈な羞恥心に耐えきれず、消滅してしまったことを。
「な、なんと!!」
ハドレーの表情が険しくなった。
「そのような恐ろしい技が!!」
「は、はい……」
「……そうか。よく分かった」
ハドレーは、しばらく考え込んだ。
「ありがとう、フェレル。では、今日の訓練はこれまでとする!」
そう言い残すと、足早に訓練場を去っていった。
その夜。
自宅に戻ったハドレーは、深刻な表情で考え込んでいた。
(……恐ろしい技だ)
あれほど強かった黒騎士たちが、羞恥心によって戦う力を失ってしまったという。
(もし、私がそのような技を受けたら……)
想像しただけで、顔が熱くなる。
(こ、この私とて、戦えぬ……!)
どれほど技を磨こうとも、恥ずかしさで動けなくなってしまっては意味がない。
それでは王国を守れぬではないか!
「……どうしたらよいのだ……」
ハドレーは、腕を組んだ。
(羞恥心を克服するには、いったいどのような特訓をすれば……)
考えた。
ひたすら考え続けた。
夜が更けても、答えは出なかった。
しかし、夜明けが近づいたころ。
「……そうか!」
ハドレーは、立ち上がった。
「特訓あるのみだ!!」
翌朝。
「ハドレー様! お呼びでしょうか?」
フェレルが訓練場にやって来た。
「ああ! よく来てくれた!」
ハドレーは、いつもの戦闘服ではなく、大きなマントを羽織っていた。
「……ハドレー様? 今日は、そのお姿で?」
「うむ! 今日は特別な訓練を行う!」
「特別な訓練……でございますか?」
「そのとおりだ! では、始めよう!」
ハドレーは、マントに手をかけた。
「……待て!」
「はっ?」
「まず、これを脱がねばならぬ!」
ばさっ!!
ハドレーは、勢いよくマントを脱ぎ捨てた。
「…………」
「…………」
「ハ、ハドレー様あああっ!?」
なんと、ハドレーはパンツ一枚しか身につけていなかった。
片手で胸を隠し、真っ赤な顔でフェレルを見つめている。
「ハ、ハドレー様! ほ、本当にそのお姿で!?」
「う、うむ……!」
ハドレーの声は震えていた。
だが、その目は真剣そのものだった。
「こ、このハドレー! たとえすっぽんぽんにされても、王国のために全力を尽くす!!」
「は、はあ……!」
「よい! 今日は片手しか使わぬ! 全力でかかってこい!」
「し、しかし……!」
「遠慮は無用だ!」
「……わ、分かりました!」
フェレルは、構えた。
「参ります! 旋風!!」
「くっ……! 旋風!!」
二つの旋風が激突した。
だが、昨日とは様子が違った。
「ぐっ……!」
ハドレーがよろめいた。
(い、いかん……!)
どうしても、恥ずかしさが頭から離れない。
「はああっ!!」
フェレルが間合いを詰める。
「くっ!!」
辛うじて攻撃をかわしたものの、反撃が遅れた。
「ハ、ハドレー様! やはり今日は……!」
「まだだ!!」
ハドレーは、歯を食いしばった。
「この程度で、王国の平和を守れるものか!!」
「は、はいっ!!」
二人の激しい攻防が続いた。
そして、ついに。
「はあああっ!!」
「きゃあっ!!」
ハドレーの一撃が決まり、フェレルが地面に倒れた。
「ま、参りました……!」
「はあっ……はあっ……!」
ハドレーは、肩で息をしていた。
勝つには勝った。
しかし、フェレル一人を相手に、これほど苦戦するとは……。
「こ、これでは……」
ハドレーは、悔しそうに唇をかんだ。
「こ、これでは修行が足りぬ!!」
「ハ、ハドレー様! もう十分ではありませんか!?」
「いや!」
ハドレーは、力強く首を振った。
「姫騎士に二言はない!」
そして、最後に残った下着に手をかけた。
「ま、まさか、ハドレー様!?」
「くっ……!」
その手が震えていた。
「ぜ、全部見られようとも……悔いはない……!」
「ハ、ハドレー様! お考え直しを!!」
だが、ハドレーは止まらなかった。
その目に、決意がみなぎった。
「恥ずかしさに負けてはならぬ!!」
そして、大きく息を吸い込んだ。
「ビヤークネス王国に栄光あれええええっ!!」
ハドレーは最後の一枚を脱ぎ、勢いよく闘技場の場外へと投げ捨てた。
その瞬間だった。
「おお! ハドレー! 今日も訓練に励んでおるようじゃのう!」
闘技場の扉が開いた。
ローレンツ女王だった。
その後ろには、ビューフォート、コリオリ、エルニーニョをはじめ、何人もの姫騎士たちが並んでいた。
「…………」
「…………」
「…………」
ローレンツが、目を丸くした。
「ハ、ハドレー!? そなた、何をしておるのじゃ!?」
「……へ?」
ハドレーが振り返った。
女王。
ビューフォート。
コリオリ。
エルニーニョ。
そして、大勢の姫騎士たち。
「…………!!」
ハドレーの顔が、みるみる真っ赤になった。
「きゃああああああああっ!!」
王国第2位の姫騎士の悲鳴が、闘技場いっぱいに響き渡った。
その後。
フェレルから事情を聞いたローレンツは、深いため息をついた。
「……そういうことじゃったのか」
「は、はい……。ハドレー様は、あの術を克服するために……」
「ふむ……」
ローレンツは、しばらく黙っていた。
そして、もう一度ため息をついた。
「……まったく、あやつは真面目じゃからのう……」
王国の鍛錬場では、いつもと変わらず、掛け声が響いていた。
どうでしょうか?第7話ではハドレーはいいところがなかったですが、実は、女王を除けば、無茶苦茶な強さなのです。もちろん、玉座に座ったまま、姫騎士軍団を一撃で倒す女王は規格外ですが・・・。
さて、この物語は、まだまだ終わりません。あと50話くらい続けるつもりです。お付き合いいただけると嬉しいです。




