ようやく決まったこと
ホームルームの時間、弥生が黒板の前に立ち、空いたスペースを指しながら口を開いた。
「そろそろメニュー、決めないとまずいよね。買い出しも看板も、この先の作業が止まってるみたいだし」
「秋だし、季節感あるものがいいんじゃない?」
誰かがそう言うと、周りからも意見が上がった。
「かぼちゃ系とか?」
「あー、それもいいかも」
「食べ物だけじゃなくて、飲み物もあった方がよくない? 歩き食べしてる人、喉渇きそうだし」
「それは確かに」
弥生が黒板にいくつかの候補を書き留めていく。「かぼちゃ」「焼き芋」「甘酒」「ホットドリンク」といった単語が並んだ。
「あと、あんまり手間かかるのは避けたいよね。準備期間もそんなに長くないし」
「それはそう。凝ったやつだと当日回らなそう」
「揚げ物とかは避けた方がいいかもな、油の管理とか大変そうだし」
「じゃあ、シンプルに焼くだけとか、温めるだけのやつがいいか」
「かぼちゃって、具体的に何にするんだろ、パイとかは手間かかりそうだし」
「それこそ焼くだけならいけるかもしれないけど」
そんな意見が積み重なっていく中、誰かが「焼き芋、シンプルだし秋っぽいし、よくない?」と言うと、いくつか同意の声が上がった。
「飲み物は、それに合わせるならココアとかどう? あったかいし」
「それいいな。焼き芋とホットココアなら、両方シンプルだし」
「甘酒も捨てがたいけど、好き嫌い分かれそうじゃない?」
「ココアの方が万人受けしそうではある」
弥生が黒板に「焼き芋+ホットココア」と書き、クラス全体に向けて確認する。
「じゃあ、これで異論ある人?」
特に反対の声は上がらなかった。
「じゃあ、これで決定ね」
黒板の隅に大きく丸がつけられた。教室から小さな拍手のような反応があった。
「やっと決まったな、これで進められる」
近くの席から、そんな声が聞こえてくる。俺は自分の席から、黒板に書かれた「焼き芋+ホットココア」の文字を眺めていた。少し離れた席では、結菜が「秋っぽくていいね」と隣の生徒と話しているのが見えた。
ホームルームが終わり、放課後になると、買い出し班の面々が久しぶりに集まった。
「メニュー決まったから、買うもの出していこうか」
「焼き芋だから、まずさつまいもだよな」
「あと、焼くための機材どうするんだろ」
「それも学校に確認しないとな」
「ココアの方は、粉末のやつと、お湯沸かす道具かな」
「保温ポットとかいるかも」
「あと紙コップも忘れずに」
「そうだ、忘れそうだったそれ」
俺はメンバーが挙げていく品目を、リストに一つずつ書き加えていった。今まで空欄だった欄が、少しずつ埋まっていく。
「これで人数分足りるように、量も考えないとだよな」
「それはさすがに今日は無理だろ、大体の目安だけで」
「じゃあ、目安だけ出しとくか。それ、誰かまとめてリストにできる?」
「あ、俺やるわ」
班の一人がそう言って、メモを引き取った。
隣の机では、看板担当の結菜たちが色見本を並べて相談していた。
「メニュー決まったし、色の組み合わせもこれで決めちゃおうか」
「赤と黄色、どっちを多めにする?」
「焼き芋の色に寄せるなら、黄色多めもいいかも」
「秋っぽくていいと思う」
結菜がこちらをちらりと見て、軽く手を挙げた。
「深水くんのとこ、買い出しどんな感じ?」
「今、量とか値段を大体出してる最中」
「そっちも進んでるならよかった」
「そっちは色、決まりそうか」
「大体は。フォントはこれから、あったかそうな雰囲気にしたくて」
結菜はそう言いながら、色見本の一枚を掲げてみせた。
「これとこれ、どっちがいいと思う?」
「聞かれても困る」
「一応意見欲しいんだけど」
「じゃあ、こっちの濃い方」
「了解、参考にする」
結菜は色見本を持って、看板担当の机へ戻っていった。俺は買い出しのリストに視線を戻し、書き加えた品目を順番に確認していく。
「深水、これいつ頃買いに行く感じ?」
「値段とか量、詰めてからだな」
「了解、また声かけて」
班のメンバーがそれぞれ帰り支度を始める中、俺は最後まで残ってリストを見返していた。
「なあ深水」
隣で片付けをしていた班のメンバーが、ふと声をかけてきた。
「本番まで、あとどれくらいだっけ」
「まだ結構あるだろ、たぶん」
「だよな、あんまり実感ないもんな」
「まあ、これから徐々に忙しくなるんじゃないか」
「だな」
そのメンバーは軽く笑って、教室を出ていった。俺は最後にもう一度リストを畳んで鞄にしまい、窓の外を見た。夕方の空気は少しずつ冷たさを増していた。
教室を出る前に、黒板に書かれたままの「焼き芋+ホットココア」の文字にもう一度目をやってから、鞄を持ち直して静かになった廊下を歩いた。




