面倒を減らすための面倒
放課後、教室に残った買い出し担当のメンバーで集まり、必要なものの洗い出しを進めることになった。模造紙を広げ、思いつくものを順に書き出していく。
「まず、食材だよな。何個くらい必要になるか、メニュー決まらないとわかんないけど」
「量の見当がつかないと、予算も組めないしな」
「先に器とか、消耗品的なやつから洗い出すのはどうだ」
「それならできそう」
紙皿、割り箸、輪ゴム、ラップ。誰かが思いついたものを口に出し、別の誰かがそれを書き留めていく。俺は書き出された項目を横から見て、重複しているものに丸をつけたり、抜けていそうな項目を挟んだりしていた。特に急ぐ様子もなく、ゆったりとした空気の中で作業が進んだ。
「あ、そういえば、火とか電気とか、使っていいものの確認いるよな」
「それは先生に聞かないとわからないやつだな」
「じゃあ聞くことリストにも入れとくか」
模造紙の端に、「先生に確認すること」という欄が新しく増えた。誰かが「これもうリストが二種類になってるな」と笑いながら言うと、周りからも軽い笑いが起きた。
「なあ、そういえば去年の先輩たち、模擬店で何やってたか誰か知ってる?」
「たしか輪投げみたいなのやってたクラスあったって聞いたな」
「へえ、それは食べ物系じゃないな」
「模擬店って食べ物じゃなくてもいいんだっけ」
「多分、範囲広いんじゃないか」
「じゃあうちは無難に食べ物系でいくしかないな、もう決まってるし」
そんな雑談を交えながら、作業は思ったよりゆっくりとしたペースで進んでいった。誰かがどこからか持ってきた飴を配り出し、作業の合間に口に放り込みながら書き出しを続ける、というのんびりとした時間が続いた。
作業がひと段落したところで、看板担当の机から結菜がこちらに歩いてきた。
「深水くん、値段表のことなんだけど」
「まだ何も決まってないぞ」
「知ってる。でも、看板に書く枠だけ先に作っておこうと思って。メニュー欄、いくつくらい確保しとけばいい?」
「三つか四つくらいじゃないか、模擬店の規模的に」
「じゃあ、多めに枠取っておくね。後から減らす方が楽だし」
「深水くんって、こういうの気になるんだね」
「後で揉める方が面倒だから」
「面倒を減らすために面倒なことしてるんだ」
「そう言われると変な感じだな」
「変じゃないと思うけど」
「あと、看板の色使いなんだけど、目立つ感じにしたくて。買い出しの方で、何か希望あったりする?」
「特にないけど、遠くからでも見える色がいいんじゃないか」
「じゃあ、赤とか黄色系で考えてみる」
「派手すぎない程度に頼む」
「深水くん、意外と保守的だよね」
「保守的っていうか、無難な方がいいだけ」
「それも保守的って言うと思う」
結菜は笑いながら、手元のメモに何か書き足した。
「あ、あと看板のサイズなんだけど、大きすぎると持ち運びが大変だから、程よい大きさにしようって話になってて」
「当日、誰が運ぶんだ」
「多分、看板担当の中で決めることになると思う」
「それも後でリスト化した方がいいかもな、運搬とか設置の分担」
「はいはい、リスト好きだね」
「悪いか」
「悪くない。むしろ助かる」
結菜はメモを取りながら、看板担当の机へ戻っていった。俺はリストの続きに視線を落とし、書き足りない項目がないか確認する。
しばらくして作業を終え、教室を出た。廊下を歩いていると、少し先で弥生が友人たちと話しているのが見えた。何やら文化祭のパンフレットらしきものを手に、楽しそうに笑っている。こちらに気づいた様子はなく、俺もあえて声をかけることはしなかった。すれ違う瞬間、一瞬だけ視線が合った気がしたが、弥生はすぐに友人との会話に戻り、それだけだった。
昇降口で靴を履き替えていると、同じ買い出し担当の生徒が隣に来た。
「今日、地味に進んだよな、準備」
「まあ、リストが埋まっただけだけど」
「それでも進んだうちに入るだろ」
「かもな」
そんな短い会話を交わしながら、二人並んで校門まで歩いた。途中で別の方向へ分かれ、俺はそのまま帰り道を歩いた。
家に帰ってから、俺はメモ帳に今日決めたリストの内容を書き足した。紙皿、割り箸、輪ゴム、ラップ、先生に確認する事項、看板の運搬分担。特別なことは何も起きなかった一日だったが、少しずつ準備が形になっていく感覚があった。
窓の外はもう暗くなっていた。俺はメモ帳を閉じて、鞄の隅にしまい直した。




