出し物決め
ホームルームの時間、黒板には「文化祭 クラス出し物決め」と書かれていた。司会を務める弥生が、教壇の前に立って話を進めている。
「じゃあ、意見出してもらえますか。展示系だった意見も出てるけど」
「今年はもっと人が来るのがいいと思う」
誰かがそう言うと、教室のあちこちから声が上がった。
「お化け屋敷とか」
「準備大変じゃない、それ」
「模擬店は?」
「模擬店いいな、うちのクラス」
意見が次々と出て、黒板には弥生が書き留めた候補がいくつか並んでいく。俺は自分の席で、その様子を眺めていた。特に発言することもなく、周りの意見交換をただ聞いている。窓際の席からは、他クラスの黒板も少し見える。隣のクラスも同じような話し合いをしているらしく、時折歓声のようなものが漏れ聞こえてきた。
「模擬店ってなると、何か仕込みとか大変そうじゃない?」
「それはそう。でも人気は出そう」
「うちは何がいいかな、人気出そうなやつ」
そんなやり取りが続く中、弥生が黒板の候補を整理しながら言った。
「じゃあ、多数決取りますね。模擬店、展示系、お化け屋敷、この三つで」
挙手による多数決の結果、模擬店に決まった。教室から小さな歓声が上がる。
「じゃあ、模擬店で決定ね。中身はまた今度、詰めましょう」
弥生はそう言うと、黒板に「模擬店」と大きく丸をつけた。俺は特に意見を言う場面もなく、決定の経緯を見届けただけだった。
「じゃあ、準備の分担は追い追い決めていきましょう。何が必要か、まずは洗い出すところから」
弥生はそう言うと、黒板の隅に「準備:買い出し・看板・その他」とだけ書き足した。細かい割り振りはまだ決まっていない様子だった。
「今日はとりあえず、それぞれ手を挙げられる作業があれば、名前書いといて」
黒板の脇に、模造紙が貼り出された。「買い出し」「看板」という見出しの下に、それぞれ名前を書き込めるようになっている。
ホームルームが終わり、名前を書き込む生徒たちが模造紙の前に集まった。
「深水くん、買い出し向いてそう」
誰かがそう言うと、周りから「わかる」という声が上がった。俺は特に反論する理由もなく、「別にいいけど」と言いながら、「買い出し」の欄に自分の名前を書いた。他にも数人が同じ欄に名前を並べている。
少し離れたところで、結菜が「看板」の欄に名前を書き込んでいるのが見えた。
「深水くんは買い出し?」
「まあ、成り行きで」
「じゃあ、私は看板の方で」
「絵とか得意なのか」
「得意ってほどじゃないけど、好き」
「それで十分な気がする」
「なにそれ」
結菜は笑いながら、模造紙の欄に自分の名前を書き足した。そんな短いやり取りを交わしながら、それぞれの作業に集まった生徒たちが、机を寄せて簡単な打ち合わせを始めた。買い出しに名前を書いた面々が集まる机の近くに、看板担当の結菜たちも机を寄せていた。
「買い出しって、いつ頃行くことになるんだろ」
同じ欄に名前を書いた生徒の一人が聞いてきた。
「中身が決まってからだろうな。まだメニュー決まってないし」
「そっか、そうだよな」
「深水、買い出しのリスト、いつ頃までに作る?」
「メニューが決まってから。今週中には固まりそうか?」
「多分。更科さんが仕切って進めてくれるだろうし」
隣の机では、看板を担当する生徒たちが、サイズや必要な道具について話し合っている。結菜がその輪の中で、何かをメモしながら話しているのが目に入った。
「深水くん、そっちの買い出し、何買うか大体決まったら教えて。看板に書く値段とか、先に考えとかないといけないから」
結菜が机越しに声をかけてきた。
「まだ何も決まってない」
「知ってる。決まったらでいいよ」
「わかった」
以前なら、こういう場面で自分から「じゃあ俺がまとめる」と言い出していたかもしれない。今回は、それを言わなかった。誰かが決めることを、誰かに任せておくことに、以前ほどの違和感はなかった。
打ち合わせが終わりかけた頃、俺はメモ帳を取り出し、今日決まったことを書き足していく。模擬店、買い出し担当、メニュー決定待ち。書き終えたページを、少しの間眺めた。
放課後、教室に人が少なくなった頃、俺は鞄の中を整理しながら、書き足したメモをもう一度確認した。文字を目で追いながら、しばらくページを眺める。
ふと、この前弥生が言いかけてやめたことを思い出した。『実行委員のことで先生に聞きたいことがあって』。結局、先生には聞けずじまいで帰っていった。今日の司会も、いつも通りの弥生だった。あの時何を聞こうとしていたのか、結局わからないままだった。
窓の外はまだ明るく、夕方には少し早い時間だった。俺はメモ帳を閉じて、鞄にしまい直し、教室を出た。




