第四話 見習い騎士調査する。
「あー、シドちゃん達。こっちこっち」
私達を、フランクな声が呼んだ。
「セルジュ副団長」
私達は、黒羊騎士団のNo.2である優男に軽く礼をする。
「マナちゃんも元気でやってる? シドちゃんと一緒だと大変でしょ?」
副団長が、ぐいっと距離を近づけてくる。
「いやー、なんとかやってます」
最初は副団長のこの変わった喋り方に戸惑っていたが、私もだいぶ慣れてきた。
「こいつ、酒ばっかり飲んでますよ」
シドが私を指差してくる。
「あんたが飲ませるんでしょ! この年でこんな乙女の肝臓がボロボロになったらどうすんのよ!」
「まぁまぁ」と、副団長が間に入ってくる。
「副団長。俺達の任務は? 決まったみたいですけど」
アレクが副団長に問いかける。
「あら、相変わらず鋭いわね。アレクちゃん」
うふ、と声を出して笑う。
やっぱり、ちょっと苦手かも。
「ちょっと大変な任務だけど、ノートラブルでお願いね。私もハウザーちゃんも手一杯なの。今回は、すぐにフォローに入れる余裕がないわ」
えっ。
私達の任務って。
「シド・ハーグリープス、アレク・ロートレック、マナ・カトレア。三名に告げる」
先ほどまでの声色から、がらりと変わる。
「三名は、本事件の指揮官であるアルゼル守護騎士の事件調査に同行し、これを補佐せよ。以上」
「はっ!」
横目で見たシドが、うげ、という顔をしている。
トラブルにならないよね……。
***
本部の前に用意された馬車の前に、指揮官アルゼルがいた。
「黒羊騎士団から三名。指揮官補佐の任務を受けて参りました」
「ご苦労。こちらはガラードとシオン。私の補佐だ」
アルゼルは、横にいた男女二人を紹介する。
互いに言葉はない。
「アルゼル守護騎士。どちらに向かいますか?」
アレクが問いかける。
「男爵の親族から事情を聞く。案内せよ」
アレクが頷くと、シドに合図を送る。
シドは嫌そうな顔をしながら御者席へ向かう。
中央王都騎士三名が馬車に乗り込んだ。
私とアレクは、馬車を追うための馬に向かう。
「嫌な感じね。私達の名前にも興味なさそう」
「嫌な思いしたくなかったら、なるべく絡むな。大人しくしてろよ」
アレクが馬に跨りながら言った。
私とアレクは、後ろに用意されていた馬に跨り、馬車の後を追った。
***
向かったのは、ドラグの街にあるログス卿の住居。
ログス卿は別宅で執務を行っていた時に事件に巻き込まれたため、奥様や他の家族は無事だったらしい。
旦那様を亡くしたばかりの家族か……。
心中を察すると、気が重くなってきてしまう。
「気が重いですね」
私は、気づけばそう呟いていた。
「……仕事だからな。感情は置いてけ」
アレクが気づいて、言葉を返してくる。
「……そうね。ごめんなさい」
アレクの言う通りだった。
「それに、俺達は補佐だ。調査は中央がやる。そんなに気負うな」
アレクは前を向いたまま返す。
ぶっきらぼうだが、励ましてくれているのが分かる。
「雨、止まないね」
ここのところ、ずっと天気が悪い。
ドラグの街は、もうすぐだった。
***
――ドラグの街、ログス邸。
目的地に到着した私達は、早速事情を伺っていた。
シドは外で待機。
アレクとガラードが、護衛や執事など邸宅にいる関係者から話を聞く。
そして私とシオン、アルゼルが、奥様から事情を伺っていた。
「……すみません。いきなりのことで、私も動揺してまして」
私達の目の前にいるログス卿の奥様は憔悴していて、動揺からか身体も震えていた。
「心中お察しします。……早速ですが、犯人に心当たりはございますか?」
アルゼルが、すぐに事情を聞き始める。
「すみません。ないです」
奥様は、虚ろな目で謝る。
「そうですか。では、旦那様を恨んでいる方、仕事上でのトラブルはありましたか?」
貴族であることで、その成功を妬む者や敵対勢力がいてもおかしくない。
「すみません。主人は仕事の話をしないので」
奥様は、本当に知らないように見える。
「では、男爵が亡くなったことで、誰が得をしたと考えますか?」
家族を亡くしたばかりの人にかける言葉ではなかった。
「そんなこと……私は分かりません」
奥様は、掠れた声で言った。
「こちらとしても、ご子息やご息女にまで事情を伺うことは避けたい。ですが、奥様から十分な情報が得られない場合、関係者全員に確認を取らざるを得ません」
アルゼルの声は荒くない。
けれど、冷たかった。
「その場合、奥様も含めて、ここではなく騎士団本部で事情を伺うことになります」
騎士団への同行。
それは、自由を奪うと宣告しているのと同義だ。
「……そんな」
奥様が言葉を失う。
「アルゼル指揮官。それは……」
私が抗議しようと言葉を発する。
「どういうつもり?」
横にいたシオンが、冷めた瞳で制する。
「どういうつもりって……」
私は言葉を失う。
「地方騎士団が、中央騎士団の指揮官に意見するつもりですか?」
「しかし、今のは脅迫です」
「それがどうしました?」
シオンは冷静に応えてくる。
「私達の任務は、被害者に寄り添うことではない。この事件を解決することです」
私は思わず言葉に詰まった。
「そして、その任を国家から託されているのは、私達中央王都騎士団。あなた達はその補佐でしかない。あなたには何の権限もないし、口を挟む必要性もありません」
そして、シオンは近づいて呟く。
「分かった? 見習い騎士のお嬢様」
瞬間、頭に血が上った。
けれど、すぐに言葉が喉の奥で止まった。
シオンとの力の差を、身体が先に理解してしまったからだ。
私達のやり取りを横目に見ていたアルゼルが、再び話を戻す。
「我々は国家から事件解決の任を受けています。事件解決のために、必要な手段を取ります。そして今、事件解決の鍵を握っているのは奥様、あなたなんです」
「……分かりました」
奥様は涙を流しながら返答する。
任務は、被害者に寄り添うことではない。
泣きながら尋問に答える奥様の姿を見ながら、先ほどのシオンの言葉が頭の中で反響していた。
***
「私達の仕事って、なんなんですかね」
「見回り」
私の問いかけに、シドが即答する。
「そういうことじゃなくて! あー、寒い!」
私達はアルゼル達と別れた後、夜の街の見回りの任についていた。
降りしきる雨に、体温を奪われていく。
鎧の隙間から冷たい水が入り、インナーが肌に張り付く。
指先はかじかみ、剣の柄を握る感覚も鈍い。
「何だ。中央の女騎士にやり込められたのが、そんなに気に入らないか」
シドがからかってくる。
「だから、中央と揉めるなって言ったろ。嫌な思いするだけだぞ」
アレクが周囲を見渡しながら言う。
「……私達の仕事は、人に寄り添うことではないのかな」
今日言われたことを、アレク達にぶつけてみる。
「それは中央の考え方だ」
シドが答える。
「人には、それぞれ役目がある。あいつらは事件最優先。だけど、俺達までそれに乗っかる必要はないだろ」
「まぁ、そういうことだ」
アレクが続ける。
「こういう地味な仕事だって、誰かを守ることもある。志一つってことだ」
……そうか。
騎士の仕事には、それぞれ役目がある。
だから、自分達が信じることをすればいい。
それが、私の役目。
「次のポイントに移ろう」
アレクが言う。
「そうね。行きましょ」
私も続く。
「なんだ? 先輩の言葉でやる気出ちゃった?」
シドがニカッと笑う。
「そうかもね。たまにはいいこと言うのねー」
シドのからかいに、私が返す。
「たまにじゃない。俺は名言製造機だぞ」
「はいはい」
この二人となら、私は私の信じる騎士でいられる。
そんな気がした。




