第十九話 動き出す
翌朝。
東都ラスピズは、朝から浮き立っていた。
迎賓館の窓を開けると、冷たい朝の空気に混じって、花の香りと焼き菓子の匂いが流れ込んできた。
遠くから聞こえる楽器の音。
人々のざわめき。
まだ式典開始までは時間があるはずなのに、中央広場の方角からは、もう祭りのような熱気が伝わってくる。
「……本当に、街中が楽しみにしてるんだ」
私は窓の外を見ながら呟いた。
水路には小舟が行き交い、橋の上には色鮮やかな布が飾られている。
通りを歩く人達の服も、昨日より少し華やかに見えた。
子ども達が走り、商人達が屋台の準備をし、東空騎士団の騎士達が人の流れを整理している。
今日は、ラスピズにとって特別な日なのだ。
蒼関機車完成披露式典。
王国の道を変える日。
ローファル公爵は、そう言っていた。
「マナ」
背後からアレクの声がした。
振り返ると、アレクはすでに身支度を終えていた。
手には折り畳まれた配置図を持っている。
「集合だ。ワグナー伯爵が移動される」
「分かった」
私は急いで身支度を整えた。
廊下に出ると、シドが壁にもたれて待っていた。
「はよ」
シドが欠伸交じりに言う。
「おはよ。よく寝れた?」
「ラスピズのいい酒のおかげでな」
シドはどこか得意げだった。
「飲みに行ったの?」
警護任務を終えて解散した頃には、もう夜も遅かったというのに。
「なんだよ。誘ってほしかったのか?」
「結構です」
あの時間から飲みに行く元気は、私にはとてもなかった。
アレクがため息をつく。
「行くぞ」
私達は迎賓館の玄関広間へ向かった。
***
玄関広間には、すでに多くの人が集まっていた。
ワグナー伯爵。
ローファル公爵の使者。
商会関係者。
貴族達。
そして、騎士達。
東空騎士団の白いマントが、あちこちに見える。
その中に、アルトレイ副団長の姿もあった。
昨日と同じく背筋を伸ばし、落ち着いた表情をしている。
ただ、近くで見ると、少しだけ目の下に疲れが見えた。
「おはようございます、ワグナー伯爵」
アルトレイ副団長が一礼する。
「本日は予定通り、中央広場へご案内いたします。式典開始後、蒼関機車にご乗車いただく流れとなります」
「よろしく頼む」
ワグナー伯爵が穏やかに答える。
私達はその後ろに控えた。
今日の任務は、ワグナー伯爵の近接警護。
式典会場では伯爵の近くに付き、乗車中も周囲を確認する。
昨日聞いた予定では、蒼関機車にはローファル公爵、ワグナー伯爵、商会代表、中央からの来賓などが乗ることになっている。
つまり、王国の要人達が一箇所に集まる。
アレクが配置図から目を上げた。
「今日の会場は広い。見物客も多い。マナは伯爵の右後方。シドは乗降口側。俺は外側から全体を見る」
「了解」
「分かった」
私は頷いた。
「ところで、伯爵と一緒に蒼関機車へ乗るのは誰だ」
要人の護衛騎士は、一名だけ蒼関機車への同乗を許可されていた。
「私」
「俺」
シドと私の声が被った。
「おいおい。昨日話し合っとけって言っただろ」
アレクが頭を抱える。
「マナ。後輩なんだから、先輩に譲れ」
シドが高圧的に言ってくる。
「先輩だからこそ、後輩に譲るものじゃないんですか」
私もただじゃ折れない。
だって、乗りたいんだもん。
「じゃあ、ジャンケンな」
アレクが仲裁に入る。
「恨みっこなしだ」
シドが無駄に爽やかに言った。
「えぇ」
ここは負けられない。
「「最初はグー、ジャンケン――」」
二人の掛け声が交差した。
***
中央広場へ向かう道は、すでに人で溢れていた。
屋台の旗。
花飾り。
楽器隊。
拍手。
子ども達の声。
通りの両側には、蒼関機車を一目見ようとする人達が並んでいる。
「見ろ、騎士様だ!」
「蒼関機車、もうすぐ動くんだって!」
歓声があちこちから上がる。
「そんなへこむなよ」
アレクが感情のない声で慰めてくる。
「そうだぞ。俺が後で、たっぷり感想を教えてやるからな。ハハ」
上機嫌な勝者、シド。
「……うるさい」
私の先手必勝のチョキは、シドのグーに砕かれた。
私は落ち込む気持ちを抑えながら、ワグナー伯爵の右後方を歩き、周囲を見た。
人の顔。
シオンさんが言っていたことを思い出す。
期待する顔。
恐れる顔。
奪おうとする顔。
今、私の目に映るほとんどの人は、期待している顔だった。
新しいものを見たい。
未来を見たい。
自分達の街が誇らしい。
そんな顔。
「みんな、嬉しそうな顔してる」
並ぶ人々を見ながら、私はそう呟いた。
「蒼関機車が実際どういうものなのか、分かってない人も多いだろうけどな」
アレクが冷静に言う。
「自分達の街がすごいものを作った。それだけで嬉しいもんだろ」
シドがあっけらかんと言った。
「そうだな。俺達も含めて、蒼関機車が何なのかを本当に理解している人間が、どれだけいるんだろうな」
アレクが、少し意味深なことを言う。
私は人の流れを見る。
その先では、東空騎士団の騎士達が見物客を整理していた。
動きは確かに整っている。
名門と言われるだけはある。
ただ、観衆が笑顔なのに対して、騎士達の表情はどこか張り詰めて見えた。
中央広場へ着くと、そこは昨日よりもさらに華やかだった。
巨大な噴水の周りには色とりどりの旗が立ち、壇上にはローファル公爵の席が用意されている。
その奥。
鉄の軌道の上に、蒼関機車があった。
昨日工房で見た時とは、少し違って見える。
車体は磨かれ、黒い外装は朝日を受けて艶を帯びていた。
銀の補強材。
青白く光る蒼霊銀の導線。
飾り布。
王国旗。
ラスピズの紋章。
まるで大きな獣が、祭りの装いをまとっているようだった。
壇上では、ローファル公爵がすでに来賓達と挨拶を交わしていた。
その時、広場の奥が少し騒がしくなった。
中央王都騎士団の騎士が数名、早足で移動している。
その先に、アルゼル守護騎士とシオンさんがいた。
二人とも表情が硬い。
「何かあったのか?」
シドが小さく呟いた。
私も同じことを思った。
アルゼル守護騎士は、まっすぐアルトレイ副団長の方へ向かっていく。
シオンさんは資料を手にしていた。
「アルトレイ副団長」
アルゼル守護騎士の声は静かだった。
でも、昨日よりも少し鋭い。
「メネズ・フェリオ局長はどちらにおられますか」
その名前に、私は思わず反応した。
アルトレイ副団長の眉が、わずかに動く。
「技術局の者が最終確認を行っています。局長も準備中でしょう」
「確認が取れていません」
シオンさんが資料を開く。
「本日朝の最終確認記録に、メネズ・フェリオ局長の署名がありません。昨夜の最終封印確認後から、本人の所在が不明です」
所在が不明。
その言葉に、広場の空気が少し変わった。
アルトレイ副団長の顔が険しくなる。
「所在不明とは大げさな。あの男は工房内を勝手に動き回る。どこかで作業しているだけでしょう」
「工房、機関室、試験線管理塔、制御核保管庫。中央が確認できる範囲はすべて確認しました」
シオンさんが淡々と言う。
それは、昨日までの浮き立った空気を裂くには十分だった。
アルゼル守護騎士が続ける。
「開発責任者不在のまま、国家的重要機密を含む蒼関機車を動かすべきではありません。式典の延期を要請します」
延期。
その言葉は、周囲にいた東空騎士団の騎士達にも届いた。
何人かがこちらを見る。
アルトレイ副団長の表情が、はっきりと硬くなった。
「それはできません」
「理由を」
「すでに中央広場には民が集まっています。ローファル公爵閣下も、王都からの来賓も、商会代表も、式典開始を待っている。今さら延期などできません」
「開発責任者が不在での式典決行は危険です」
「技術局の副責任者が確認を行っています。危険はないかと」
「メネズ・フェリオでなければ判断できない項目があるはずです」
「中央王都騎士団は、ラスピズ技術局を信用していないということですか」
アルトレイ副団長の声に、棘が混じる。
けれど、その目の奥には迷いがあった。
彼自身も、何かを引っかけたまま言葉を押し出しているように見えた。
そこへ、低い声が割って入った。
「何事だ」
マルス・オルドラン団長だった。
白いマントを揺らしながら歩いてくる。
その後ろには、数名の東空騎士団員が続いていた。
アルトレイ副団長が一礼する。
「メネズ局長の所在確認が取れていない件について、中央王都騎士団より式典延期の要請が出ています」
マルス団長の視線が、アルゼル守護騎士へ向く。
「アルゼル守護騎士。確かにメネズ局長は重要な人物だ。しかし、式典は彼一人のものではない」
「承知しています」
「工房の職人達、技術局、東空騎士団、ローファル公爵閣下、出資者、そして民。多くの者がこの日を待っている。局長一人が姿を見せないからといって、王国中から集まった来賓を前に式典を止めることはできない」
「メネズ・フェリオは、蒼関機車を最も理解している人物です」
アルゼル守護騎士が静かに返す。
「その人物の所在が不明であること。
これは異常事態です」
マルス団長の目が細くなった。
「中央はいつもそうだ。異常という言葉で、
地方の判断を止めようとする」
「地方だから止めろと言っているのではありません」
「では、何だ」
「危険だからです」
短い言葉だった。
一瞬だけ、マルス団長の表情が変わった。
けれど、すぐに元の表情へ戻る。
「式典は予定通り行う」
決定だった。
「会場警備は東空騎士団が執る。中央王都騎士団には、予定通り機密区画と王都来賓の護衛をお願いしたい」
アルゼル守護騎士は黙っていた。
その沈黙が、納得ではないことは私にも分かった。
シオンさんが小さく息を吐く。
アルトレイ副団長も、苦い顔をしていた。
彼も、本当は何か引っかかっているのかもしれない。
でも、止められない。
そういう顔だった。
「分かりました」
アルゼル守護騎士がそう答えると、東空騎士団の面々はその場を離れていった。
「シオン」
アルゼル守護騎士がシオンさんを呼ぶ。
「私はメネズ・フェリオの捜索を行う。君は予定通り蒼関機車に乗り込み、要人の警護にあたれ」
「承知しました」
シオンさんが頷く。
「君達も十分に用心したまえ」
そう言うと、中央王都騎士団の面々もその場を離れていく。
「マナ。お前が伯爵と機車に乗れ」
私は驚いてシドを見た。
「シド?」
「人を捜すのは得意なんだよ。それに、ちょっと考えもあるしな」
シドが少し笑う。
「初めての機車に浮かれてないで、
ちゃんと伯爵を守れよ」
ぽん、と優しく肩を叩かれた。
「アレクは会場に残れ。こういう時、地図見て全体を見る奴が必要だろ」
アレクは少しだけ黙った。
そして、ため息をつく。
「……分かった。勝手に突っ込むなよ」
「おう」
二人は阿吽の呼吸だ。
シドは広場から足早に離れていった。
「マナ、式典会場に戻るぞ」
アレクに促され、私はワグナー伯爵の近くへ戻った。
中央広場では、ローファル公爵の挨拶が始まっていた。
「今日、ラスピズは新しい未来を迎える。この蒼関機車が、街と街を結び、人と人の距離を縮め、王国の道を変える」
歓声が上がる。
「この未来は、誰か一人のものではない。ここに集う民、技術者、騎士、商人、貴族、すべての者によって支えられている。どうか、その第一歩を共に見届けてほしい」
歓声。
拍手。
楽器の音。
それらが重なって、広場全体が一つの大きな生き物みたいに震えていた。
「マナ・カトレア」
シオンさんの声がした。
振り返ると、彼女は中央騎士の装備のまま、蒼関機車の乗降口近くに立っていた。
「乗車が始まるわ。ワグナー伯爵の後ろに」
「はい」
私は姿勢を正した。
ワグナー伯爵がゆっくりと蒼関機車へ向かう。
その隣にはローファル公爵。
続いて商会代表。
王都からの来賓。
貴族達。
一人、また一人と、蒼関機車へ乗り込んでいく。
見物客から歓声が上がった。
私はワグナー伯爵の後ろに続き、蒼関機車へ足を踏み入れた。
中は、想像していたよりも広かった。
木と金属を組み合わせた座席。
壁には細い蒼霊銀の線。
窓は大きく、外の広場がよく見える。
床の下から、かすかに低い音が聞こえた。
胸の奥に響くような、低い音。
シオンさんが私の横に立つ。
「顔色が変わったわね」
「先輩に任されましたから」
「そう。じゃあ、油断しないことね」
「はい」
やがて、鐘が鳴る。
一つ。
二つ。
三つ。
蒼関機車の床下から、低い音が強くなった。
昨日メネズさんが言っていた、正常な音。
私は少しだけ息を吐いた。
大丈夫。
少なくとも、今は。
車体がゆっくりと震える。
外から見物客の声が上がった。
「動いた!」
蒼関機車が、ゆっくりと前へ進み始めた。
馬車とは違う。
揺れはある。
でも、馬の足音はない。
車輪が軌道を噛む重い音と、床下から響く低い唸り。
それだけで、この大きな車体が進んでいる。
窓の外で、人々が手を振っている。
子ども達が飛び跳ねる。
商人達が帽子を掲げる。
東空騎士団の騎士達が道を空け、民衆を押し留める。
そのすべてが、ゆっくりと後ろへ流れていく。
「……本当に動いてる」
私は小さく呟いた。
動き自体はゆっくりだか
こんなに大きなものが動くなんて
にわかには信じられなかった。
「動かすために作られたものよ」
「でも、すごいです」
「それは同意するわ」
意外な返事だった。
シオンさんも窓の外を見ている。
表情はいつも通り冷静だった。
けれど、目だけは少しだけ違って見えた。
蒼関機車は中央広場の外周を進む。
一周目。
予定通り。
民衆の歓声はさらに大きくなる。
ローファル公爵は来賓達へ何かを説明している。
ワグナー伯爵は穏やかな表情で窓の外を見ていた。
商会代表達は興奮気味に言葉を交わしている。
「これが各都市を結べば、流通は変わるぞ」
「馬車隊の費用が半分以下になるかもしれん」
「いや、まずは軌道敷設の権利だ。そこを押さえねば」
未来。
金。
名誉。
欲。
色々な声が、車内に混じっていた。
私はシオンさんの言葉を思い出す。
新しいものが生まれる時、人は色々な顔をする。
期待する顔。
恐れる顔。
奪おうとする顔。
壊したがる顔。
「皆様、このまま北側停車場で一旦停止いたします」
車内の伝声管から声がした。
停車場で一時停止し、点検と一般客の乗車を行う手筈になっていた。
蒼関機車はゆっくりと速度を落とし、北側停車場に停止する。
外では、ラスピズの技術者達が慌ただしく動いていた。
招待された一般客達も、後ろの車両へ乗り込み始めている。
その時だった。
床下から音がした。
音というより、感覚だった。
歯の裏を、細かい砂で撫でられたような。
私は思わず、口を閉じる。
「……今」
シオンさんがすぐにこちらを見た。
「どうしたの」
「音が」
私は床を見る。
低い音はまだ続いている。
けれど、ほんの少しだけ、胸ではなく歯の奥に響いていた。
「メネズさんが言ってた音……」
シオンさんの表情が変わる。
「私には聞こえないわ」
その音は、少しずつ大きくなっていく。
私はその場を離れ、窓を開けた。
「皆さん! 蒼関機車から離れてください!」
出せるだけの大声を出した。
私の声に、作業をしていた技術者や、乗り込もうとしていた乗客の動きが止まる。
「おい、君は何を言っているんだ!」
車内にいた技術者が思わず声を上げる。
「蒼関機車に異常があります。皆様も避難を」
シオンさんが私の言葉を継いだ。
すぐに車内の中央騎士へ目を向ける。
「機関室へ確認を。操縦担当者に異常の有無を聞いて」
「はっ」
その瞬間。
蒼関機車が、大きく揺れた。
「っ」
車内に小さな悲鳴が上がる。
商会代表の一人が座席の背を掴む。
ワグナー伯爵もわずかに体勢を崩した。
私は慌てて手を伸ばす。
「伯爵!」
「大丈夫だ」
ワグナー伯爵は落ち着いていた。
「動き出した……」
蒼関機車が、再び動き出す。
乗車途中の一般客や作業中だった技術者達が、
慌てて機車から離れていく。
「おかしい。まだ動く指示は出していない」
車内にいた技術者の顔が青くなる。
「どういうこと?」
シオンさんが技術者に詰め寄る。
「予定では、まだ動き出す時間ではありません。指示も出ていません」
「では、今、蒼関機車は勝手に動いているということ?」
技術者が、青い顔のまま頷いた。
「どういうことだ!」
「責任者を呼べ!」
来賓達が立ち上がりかける。
シオンさんが鋭く言った。
「座ってください。立つと危険です」
その声には、従わせる力があった。
来賓達が一瞬怯む。
私はワグナー伯爵の前に立つように位置を変えた。
「マナ・カトレア」
シオンさんが低く言う。
「ここからは警護を最優先。伯爵から離れないで」
「はい」
声が少し震えた。
でも、頷いた。
その時、客室の扉が開いた。
武装した男達が、通路を塞ぐように入ってくる。
その中心にいた男だけが、場違いなほど軽い声で言った。
「皆様、ご乗車ありがとうございます」
騎士達が反射的に剣へ手を掛ける。
「おっと、騎士さん達。この蒼関機車は、もう制圧済みですよ」
男の言葉を聞きながらも、騎士達は視線を外さない。
「機関室、制御室、乗降口。すべてこちらの管理下です。市民が乗っている後ろの車両もね」
男が後方の車両を指差した。
「……何者」
シオンさんが鋭い視線を向ける。
男は、笑った。
「灰燼の旅団」
灰燼の旅団。
王国東部を拠点に活動する武装組織。
「皆さん、大人しくしていれば何もしません。それとも、ここで斬り合いますか? 高貴な方々が道連れになりますよ」
ここで斬り合いになれば、犠牲が出る。
それは、誰の目にも明らかだった。
従わざるを得なかった。
「よろしい。ローファル公爵以外は後ろの車両へ移動。騎士の方々は、剣をこの車両に置いていってください」
騎士達は目配せをし、剣を床に置いた。
私とシオンさんも、剣をその場に置く。
私達はローファル公爵を一人車両に残し、後ろの車両へ移動した。
「ワグナー伯爵、大丈夫ですか?」
私はワグナー伯爵に駆け寄る。
「ああ、私は大丈夫だ」
車両を移動する際、窓の外が見えた。
青白い導線が震えている。
車輪が軌道を噛み、音を立てる。
胸の奥ではなく。
歯の裏を、ざらつかせながら。
蒼関機車は止まらない。
王国の未来を乗せたまま。
誰かの悪意に奪われて、走り続けていた。




